囚人と青い鍵 1
interval-1(萌side)
「ねぇねぇ、恭くん恭くん。」
彼、桐生 恭一(きりゅう きょういち)は萌の所属する音楽サークルの一つ上の先輩。
でも、萌は5月生まれだし、恭くんは3月生まれだから、ほとんど同い年。
だけど、すっごく優しくて、春からずっと萌の面倒を見てくれてる。
萌のこと、絶対否定しないし、いつも萌の話を真剣に聞いてくれる。
そんな恭くんが、萌は大好き。
わたしは、そんな恭くんが大好き。
「なに?」
「萌はね、本当は萌じゃないかもしれないよ?
って言ったらどうする?」
「どうした?急に。」
「だって、恭くんだって、ぜーったいに恭くんだって保証はある?まぁ、普段から恭くんのことを偽物かもしれなーいなんて意地悪な目で見てる訳じゃあないんだけどね。」
「まぁ、そう見られてたら俺も困る。」
まぁ、普通の人の反応なんだろうな。
「でもね、萌は、もしかしたら萌じゃないかもしれない。萌が萌であるための条件って何かなーって、何が萌を萌にしてるのかなーってしょっちゅう考えてる。」
「うん、しょっちゅうではないけど、俺も時々気になることもあるな。」
悪くない。多分、今までの人の中では。
「気持ち悪くない?」
「え?」
「だから、萌のこと、気持ち悪いって思わない?」
「なんでだよ、思うわけないだろ。」
そっか、そう言ってくれる人もいるよね。
「どうして?」
でもね、みんなここで詰まるんだよ。
「だって、そう思う理由がない。」
そうきたか。
「じゃあ、萌が考えてるようなことは、気持ち悪くない?」
「あぁ、だから言ったろ、俺もたまに気になるってさ。」
やっぱり、恭くんなら、信じて大丈夫、かな。
「恭くんは、萌のこと好き?」
「え、突然…」
「萌はね、恭くんのこと、だーいすきだよ?」
「恭くん?」
恭くんの顔をのぞき込んだ。
刹那、何も見えなくなった。
ほんの一瞬、わたしの唇に、彼の唇が重なった。
「え…いきなり…」
「答えただろ、萌。」
「あ、ありがとう!」
恭くんは顔を背けた。照れてる…のかな。