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手の鳴る方へ!

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鬼さんこちら!の続きです。



手の鳴る方へ




夕暮れの赤い日差しが、街を染めていく。さすがに夜の街は危険なので、そろそろ高校生は帰さなくてはいけない。
僅かに残ったコーヒーを飲み干した臨也は、ふと違和感に気づいた。

「帝人くんって、中にTシャツ着るタイプだったっけ?」

白いシャツの中に着込んだTシャツは、いつも校則順守のきっちりした服装をしてる帝人のイメージにそぐわない。
しかも、色が黒であればなおさら。

「こ、これは、…気分っていうか…」

慌てて言葉を探すその様子に、さらに嫌な予感がちりちりと胸を焦がす。

「ちょっと、じっとしててね」

立ち上がり、テーブルの向こう側の席に移動する。

「え、何を」

「大丈夫、何もしやしないよ」

右手を右肩に、左手を胸に置いて、ぺたぺたと細い体のラインを辿っていく。

「っ」

「ここ?」

不意に、左肩のすぐ下、二の腕にいく間辺りに触れた時、帝人が顔を顰めた。

「こんなとこで悪いけど、ちょっと見せてね」

白シャツごと中のTシャツを捲り上げると、そこには大きな青紫の痣があった。

「………シズちゃん?」

「い、いえ!違います!」

「嘘はもっと上手くつくもんだよ。何されたの?」

「……」

「黙秘は無効」

笑みを消した顔で、見開かれた目を見つめる。青ざめた顔で数分間黙り込んだ後、帝人は諦めたように、ため息をついて視線を逸らせた。

「……。ただ、掴まれただけです。悪気は、きっとなかったし」

「あんな野蛮人にこんな陰険に他人を傷つけるような脳はない。力加減をする脳もないらしいしね。そんなことより、ねえ、これは何回目?いつもあいつに会う度に怪我させられてたの?」

「…………いつもではないです」

「じゃあ、何度もあるってことだね。手当てしていないのも、薬の匂いなんかで気づかれないためだね?」

「やっぱり、臨也さんにはお見通しなんですね」

苦笑を浮かべ、言外に肯定する幼い顔を見ながら、臨也は腹の底にふつふつと熱いものが沸くのを感じていた。自分の仕掛けた罠以外のところで、世界で一番嫌悪する化物のせいで彼が傷を負い、その上それを受け入れているなんて。

「臨也さん、一つお願いをしてもいいですか?」

「なに?一応、聞いてあげる」

普段なら好もしく思うはずの、まっすぐな眼差しに、今は嫌な予感しか感じなかった。

「静雄さんには、黙っていてください」

「いやだね」

一秒たりとも間をおかず、即答した。折角気分がよかったのに台無しだ。

「じゃあ、どうしたらきいてもらえるんですか?」

「君がシズちゃんをふったら」

もう、全部やめた。楽しい策略だと思っていたが、それを実行すれば、この子どもは更に傷つくいて、それなのに静雄の心を傷つけないように、痛みを押し隠して、静雄が癒され情欲をかき立てられるらしい笑顔で隣にいるのだろう。それは、全くもって面白くない想像だった。

「…、そんな……」

やはり、帝人は静雄の気持ちに気づいている。うっすらと頬を染め、ぎゅっと手を握りこむ姿は可愛らしい。純情な柔らかい表情は、見る者を和ませるだろう。だが、今の臨也にとっては苛立を煽るものでしかなかった。

「キレたシズちゃんに暴力を振るわれるのが怖いのなら、全く心配はいらないよ。セッティング俺が手伝ってあげる」

初々しい表情のままで、帝人は臨也に向ける視線を強くした。強い意志を持った目だ。臨也が一番気に入っている部分。それが、今自分に向けられていることは、普段ならぞくぞくするほど楽しいものだ。これが平和島静雄との色恋沙汰なんてものでなければ。

「ごめんなさい」

「どうして?あいつが近づけば近づくほど、君は怪我をする。君は自分の身をもっと大事にすべきだ」

「何、その顔?」

「いえ、臨也さんにそんなことを言ってもらえるなんて思ってなかったので」

「帝人君、俺のこと何だと思ってるのさ」

「僕を使って、静雄さんを傷つけられるなら、そうするでしょうあなたは」

そうするのも面白いと思っていたのは確かだ。だが、静雄にたかが失恋の痛みを味合わせるために、帝人が壊されるのなら、それは全く勘定が合わない。帝人には、まだまだもっと面白いことをしてもらう予定がある。

「すみません。でも、いいんです」

帝人は幸せそうに微笑む。臨也は、それ以上無意味な言葉をかけなかった。ただ、ほんの少しその愚かさを憐れんだ。








「あいつは普通の人間だ」

「そうだね」

「俺は化物だ」

「それでも、君は愛したんだろう」

首なしライダーを愛した男は言う。

「化物だから?だから、何だって言うのさ」

「このままでいたいなら、何もしなくたっていい。でもね、人より強い力を持っているからって、恋してはいけないなんて、そんな悲しいことは言うなよ」








日暮れの後の池袋は、昼間とは違う光を纏う。
溢れ返る光の渦は、夜の静けさすら毒々しいものに変えてしまう。静雄はこの喧騒が好きではなかったが、居心地の悪さを感じたことは一度もなかった。この池袋だからこそ静雄は生きていける。この異常な街でしか、彼は生きていけない。

住宅街の方面はいつも黄色と白の優しい光を宿しているが、それはどこまでも遠く、あくまで他人の営みにすぎなかった。帝人もあの暖かな光の一部にいるのだろう。

真っ暗な夜を街のネオンの色が侵食する。どこかからサイレンの音が聞こえた。

平和島静雄が歩いている。それだけで、人通りの多い道にも空白が生まれる。逃げて行く人々の足音も、怯えた視線も、彼に取ってはただの日常だ。彼の想い人の住む日常とはあまりに違う。

染められたことのない黒髪。敵意も拒絶もない、星空のようにきらめく瞳をいつだって向けてくれた。
それだけで、奇跡だったのに。手を伸ばしたいと、離したくないと、強欲な獣が吠える。
強くつかめば壊してしまうのに。彼はきっと、静雄にはない優しいもの、やわらかいもの、繊細なものでできているのに。

その脆さに欲情する自分がいる。

もう一度、赤く染まった頬で、潤んだ瞳で、名前を呼ばれたい。

細い首筋を思い浮かべれば、口内に唾液がたまる。

そして、もっと。細い首筋の下、清潔な白いシャツに隠された領域を暴きたい。

細い体を抱きしめて、指通りのいい黒髪に顔を埋めて、無垢な肌の隅々まで触れて、あの菓子とも花とも違う甘い匂いを肺いっぱいに吸い込んで、お互いの体温を混ぜあわせて、

ぐら、と一瞬昂ぶりで視界が揺らいだ。

触れたい。暴きたい。もっと奥に。刻みつけたい。

だが、壊したくなかった。

あの無防備な笑顔が二度と向けられることなく、心配そうな声で名前を呼ばれることもなくなり、恐怖に震えて自分を見上げる彼など。

想像するだけで、胃の腑が冷える。狂った色彩の中で、暴れて暴れて自分を含めたすべてを壊したい衝動が溢れ出す。それを落ち着くかせるために、煙草の箱に手を伸ばし、すっかり水を吸って形を崩したそれに気づいた。

いつのまにか雨が降り出していたようだ。舌打ちをし、踵を返そうとしたところで、声を聞いた。

「帝人?」
作品名:手の鳴る方へ! 作家名:川野礼