興味と関心 前編
昔の女を引きずったこの男を、
私は放っておくことができないらしい。
パスタを食べながら、
昨日の彼女とは、
行くなとか離れたくないとか
自分の思いを口にする間もなく
自然消滅になったこと、
教え子の彼女とは
教師と生徒ってことで
やっぱり自分の思いを言わずにいて
すごい傷つけて、思いを伝えた頃には
もう手遅れだった、
という過去の恋愛話を聞かされた。
傷つきたくなくて
自分のダサイとこを見せられなかった。
と言った。
「次は自分の気持ちを
ダサくても女々しくても
言えるようにしたいけど。」
と獅子尾は次への恋の抱負?を言った。
「じゃあ、付き合ってみます?」
私は思わずそういう言葉を口にしていた。
「は?…え?」
「私と。」
目をまんまるくして獅子尾は
手にフォークを持ったまま
固まっていた。
「寿司ネクタイの彼女は
思い出にできてたんでしょ?
できてなさそうだけど。
上書きどんどんしてくのが
いいんじゃないですか?」
こんな過去にしがみついてる男なんて
ホントは嫌なのに。
「…女は過去を"上書き保存"するって
本当なんだな…」
「男は"名前をつけて保存"するって
本当なんですね。」
「そう考えると、過去を忘れられないのは
女々しいよりむしろ、
男らしいってことになりますね。」
「そんなこと初めて言われた。」
「で?」
「は?」
「どうします?」
「や、待って。煙草1本吸ってい?
急な展開についていけてない…」
「どうぞ。」
プカァッと煙を吐き出して
私は獅子尾が話しだすのを待った。
「えと…お願いします。」
1本吸い終える頃、
獅子尾はおもむろに言った。
「……は?」
「は?って…アレ?これ、冗談?!」
「や…私も自分でよくわからなくなりました。」
「オレはもっとアナタを知りたいですけど?」
「それは私がしている少女誌の編集という
仕事に興味があるだけじゃなく?」
「それもあるにはあるけど、
人間としてもっと関わっていきたいというか、
ぶっちゃけ気になる存在っていうの?」
「あるんかい。
それは女として興味があるわけじゃ
ないじゃないですか。」
「女として興味持ってほしいの?」
獅子尾はニッと笑った。
「…ズルイ男ですね。」
この天然タラシ男に
どうも私は興味が引かれるらしい。
「ズルはズルでも
過去ズルズル男のくせに。」
「何うまいことを。
それを上書きしてくれるんじゃないの?」
「私がなんでアナタの上書きするんですか。
自分の記憶は自分で上書きするんですよ?」
「…そーですね。」
フッとお互いに目が合い、笑ってしまった。
これからどうなるかわからないが、
わからないからこそ
興味が引かれるのかもしれない。