不釣り合いな僕達 一
いくら問い質されても脅されても何も答えるつもりはなかった。
この忍者達がほしいレベルのドクタケ内部の情報など知る由もない。
頑なに知らないの一点張りだが、ここまできて手土産なしというのも格好がつかないからか、忍者達は執拗に庄左ヱ門を責め立ててくる。
袴にはいくつもの裂け目ができていて、場所によっては肌が露出している。
「このガキ…、いい加減に話したら…。
「知らないったら知らない!
「…小僧、そろそろ俺達も我慢の限界だ。これ以上何もしないと思うなよ。
何度目かの脅しに答えた時、一人の忍者から放たれる空気が変わった。
さすがの庄左ヱ門も本気になった忍者のさっきを受けて、演技ではない怯えた表情になった。
「忍者の怖さを思い知らせてやる。
「…!
(本当に、誰か…助けて……!
心の底からの救援は声にならずに涙となって滲んだ。
しかしそれに答えるかのように、足音がこちらに近付いてくるのを庄左ヱ門は聞き取った。
そしてこの場に躍り出た足音の持ち主は、
「はっはっは!とうとう正体を現したな!
「なっ…!?
「あいつは!
(えっ!八方斎!?
ドクタケ忍者隊の首領で、ことあるごとに庄左ヱ門に関わってくる迷惑なおじさんだった。
わざとらしく声を上げてどこかに隠れているであろうしぶ鬼に、助けを呼ぶよう合図を送ったつもりだった。
大人であれば誰でもよかったと庄左ヱ門は思っていたが、まさか八方斎が来るとは思わなかった。
忍者達が八方斎の登場に気を取られこちらを見ていないのをいいことに、庄左ヱ門は露骨に嫌そうな顔つきになった。
「フフフ…んん?
八方斎も庄左ヱ門がいるのに気付き、登場時の悪人面が一瞬の内におとぼけな八方斎に戻った。
それを見て庄左ヱ門はまずいと思った。
(ここで、八方斎がぼくの名前なんか呼んだら、余計にドクタケの関係者だと疑われちゃう!
どうしたものかと考えること数秒。
庄左ヱ門は意を決して叫んだ。
「助けて!
「…!
八方斎が名前を言うより先に、
「頭の大きなおじさん!!
「だー!
見ず知らずであることを主張しよう。
それを聞いた八方斎はずっこけて、その様子を見ていた忍者達もシリアスなムードと緊張感が失われていったことで固まっていた。
「…おっと!固まっている場合ではない。
「そうだ、だがここは退くべきだ。
「何故だ?
「ガキが、あんなにインパクトのあるドクタケ忍者隊の首領を知らないからだ。
「しかしあれはガキの演技かもしれんぞ。人質にしたら…。
忍者達がひそひそ話し出した。
敵の城の忍者は庄左ヱ門を人質に取って八方斎を退けるつもりだが、対するスパイの忍者は自分達が退く方がいいと思っているようだ。
「相手はあの悪名高いドクタケ城の忍者の首領だ。ガキが知らないフリをするのであれば、盾にしたところで構わず見殺しにするかもしれん。
「まさか…かなりマヌケにコケているが、そんなに卑劣なのか?
「ああ。奴は、自分が言った城主の陰口を他人が言ったことにしたり、友好を結ぶために他の城に赴いた時にトイレで落とし紙を盗んでいったり、戦に出るのが嫌で仮病を使ったり…。
「なんか、卑劣というよりセコイ奴だな…。
「だがそこまでセコイ奴が首領なのにドクタケ忍者隊が落ちないのは奴の実力があってこそだ。油断しているとこちらがやられる。
スパイの忍者はどこからか八方斎の情報を手に入れていたらしいが、やはり完全には把握しきっていないのか、あまりにアホなエピソードしかないのを逆に敵を油断させる作戦と捉えたのか、結果としては八方斎を相当恐ろしい敵と思い込んでいるようだ。
庄左ヱ門はなんとか忍者達が去ってくれるように心から願った。
「なるほど。侮って相手をして手痛い反撃を喰らっては元も子もない。ここは八方斎がコケている間に退散しよう。
「もうドクタケ城に行く必要もない。別の城に潜入する作戦を考えなくてはだな。
そうして忍者達はその場から駆け去った。
作品名:不釣り合いな僕達 一 作家名:KeI