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C3-シーキューブアフター 壱

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研究室の真ん中にポツンと一人立たされた相馬弥は、
室長――闇曲 拍明からの指令を待っていた。
ここに自分が呼び出された。と言う事は、
このあと室長がどんな"指示"を下すのかも大体想像出来ていたし、これといった緊張や不安も特に無かった。

「弥クン。未知が迫っているよ」

黒衣に身を包んだ、研究者というかバンドマンと言った方がしっくりきそうな、ファッションの拍明は、どこか嬉しげにそんな事を言いながら、研究室のありとあらゆる場所に設置された機械が蛇の様に吐き出すデータ用紙。
その一枚に適当に目を通しながら飄々とした口調でそんな事を言ってくる。弥はこくり、と。返事はかえさず無言で首を縦に振った。

「と言う訳でキミにはそれを"既知"に変えて欲しい」
「分かっています。その為に僕はあなたに"準備"された存在なんですから」

聞くと、拍明はどこか楽しげに鼻を鳴らし、
部屋中央の台座に固定されていた台座へ向うと、操作パネルを操作した。
台座には朱い日本刀の鞘が左右を金属のアームで固定される形で設置されており、ガシャン! と言う音と共にアームのロックが外れ、拍明はそれを手に取ると、

「後はキミ次第だ。"彼女"を説得できるかはね。さ、持って行きたまえ」
ひゅん、と朱い鞘を弥に投げてよこす。
弥は鞘を受け取ると、無言でくるりと踵を返すように拍明に背をむけ、
《研究室長国》を跡にした。



――《禍具》。端的に言ってそれは、呪われた道具。
長い間呪いが蓄積されたものは、やがて人としての性質を持つ。
結果として彼らは道具でありながら、しかし人でもある存在になっていた。
《禍具》が呪いを解くためには、呪いとは正反対の《正の思念》を受けることが必要であり、遡ること数年前、絶対に解けない呪いを持った《禍具》の少女が呪いを解くどころか、完全な"人"へと昇華を果たしたと《研究室長国》のデータには記載されている。
付け加えるなら、それを行ったのは《夜知家》と言う組織の少年。組織と言えば聞こえは良いが、実のところ平屋一階だての日本家屋が本拠地だったりする。

弥には何故そんな事が出来たのか分からないし、分かろうとする気持ちもない。問題はそこではないし、人となった《禍具》の少女に用がある訳でもない。しかしその足取りは着々と《夜知家》へと向かっていた。
「落ち着け僕。今日は話をするだけだ」
風情あふれる商店街をぶつぶつ独り言を吐きながら進み、
しかし弥の心臓は不規則に跳ねていた。
なにせ拍明以外の人間と話すのは五年ぶりだし、
そこで"彼"をうまく説得できるのかいささか自分の胸に不安を抱く。
――と。
「相馬弥。傍目に見ると挙動不審ですという忠告を忠告します。警察に職質されますよと補足」
後方から声。振り向けばそこには何故か、ヘソ出しルックのOLスーツに身を包んだ、二十代前後の女性が立っていた。
「もしかしてイゾイー、さん?」
頭のメモリィを必死に検索して出てきた人物を口にしてみる。すると女性は、
「もしかしてではなくそうであると宣言を宣言します」

――《ン・イゾイー》。かつて《研究室長国》に所属していた、アフリカのとある部族出身の健康的な黒肌が特徴的な女性だった。とはいえ当時は少女だったのだが、今は面影あるものの、すっかり大人びた印象を醸し出している。
イゾイーは掛けている眼鏡をくい、と"足の指で"持ち上げて、
「先に言っておきますがこれは室長の命令ではありませんと補足を補足します」
「じゃあなんで?」
「可愛い後輩の面倒を見てやるのも一興かと言う私の気まぐれです」
ふ、とイゾイーは口元を緩めてそんな事を言う。ああ、話には聞いていたけれど"あの大戦を"経験した人は、どこか肝がすわっているというか、寛大というか。そんな気持ちが弥の胸中にこみ上げる。実際、頼もしくないといえば嘘になる状況だ。
「さて、立ち話もなんですし近くに私行きつけのカフェがあります。コーヒーでも飲みながら私があなたに出来る事を話し合いませんかと提案を提案します」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」
そんな訳でイゾイーの提案に乗った弥は、ぺたぺたと"裸足"で先を行く
イゾイーの背中を追うのだった。よくあんな格好で会社が出勤を許しているな。などと言う疑念を抱きながら。



五月という事もあってか春の麗らかな日差しがカフェテラスには差し込んでいた。店内ではなくテラスで話をしようと持ちかけてきたのはイゾイーで、しかし彼女の趣味は《月光浴》だったと聞いている。しかも全裸で。
まあ人の趣味なんて数年で変わるものは変わるし、そんな事を考えても仕方がないか、と弥は結論する。しかし確か、イゾイーの《月光浴》は部族的なものから来ているし……。
「私があえて日光にあたっているのがそんなに珍しいですか?」
「あ、いえ、その」
口をぱくぱくさせながら図星を突かれてまごつく弥。
「まあ無理もありませんか。生まれてからずっと《研究室長国》に居た、外の世界を知らないあなたには分からない部分も多いでしょう」
そこで言葉を切ってイゾイーはコーヒーを口に運ぶ。
「……僕の事。随分とご存知なんですね。存在を知っていたのなんて、
室長だけのはずだったんですが」
「未知でしたよ。しかし《研究室長国》を抜けても、室長とのやり取りは続けていますと補足を補足します。いわゆるメル友的関係であると補足」
「ということは今回の"未知"についてもある程度はご存知だったと?」
「そうなります。ところで相馬弥。その鞘はいささか携帯するには目立ちすぎるのでは、と」
「え? ああ、言われてみれば……」
「用意は周到に。これをどうぞ」
と、イゾイーがカバンの中から一枚の布を取り出し、テーブルの上に置いた。
「これは?」
「剣道で使われる竹刀袋ですよ。あなたの出で立ちは奇抜ではないですし、それに鞘を携帯していれば目立つこともないでしょう」
ありがとうございます。と頭を下げ、弥は竹刀袋に《朱の鞘》をしまい込んだ。
「さて、今後の動きですがこのまま《夜知家》に向かわれるおつもりですか?」
「そのつもりです。事は一刻を争う。早く"彼女"に協力をあおがないと」
聞いて、ふむ。とそれまで無表情だったイゾイーが、難しげな表情をとる。
「彼女……ですか。中々に難攻不落かもしれませんよ。《夜知家》と言うのは今も結構複雑です。色々な意味で」
「は、はあ」
含むようなイゾイーの言葉に、弥は生返事気味で言葉を返す。
彼女にしか分からない何かがあるのだろう。
しかし未知を既知にする責務が自分にはある。自分はその為に在るのだから。
それ以上でも、以下でもない。
「私からアドバイス出来る事は一つです。事の重大さを"夜知春亮"に伝え、真摯に彼女を"借りる"事をお願いする。単純ですがこれしかないかと」
「そのつもりです」