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C3-シーキューブアフター 壱

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こくりと頷き、丁度注文していたコーヒーも飲み終えたので、弥は代金をイゾイーに支払おうとポケットから財布を取り出す。が、
「結構ですよ。年下に割り勘されるほど私の財布は寒くありませんので」
びし、と拒むように右手を突き出された。考えてみればまあそうか。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
席を立ち、イゾイーに一礼すると弥は再度、《夜知家》を目指すのだった。背中越しにイゾイーの「ご武運を」と言う言葉を聞きながら。



商店街を抜け、弥は《夜知家》の門の前に立ったいた。
わざわざ休日を狙って来たので、この家が無人という事は無いだろう。願わくば最初に対面するのがこの家の主だといいのだが。
年季の入った玄関へ続く石畳の道を歩く。話には聞いていたが、こうして実際に来てみると想像よりとても広い、屋敷のような印象を受ける。意を決してインターホンを押そうとした、
――矢先。
どが! と上空から何かが降ってきた。そのまま地面に叩きつけらるように弥は突っ伏す。
「ふ。何かと思えばフシンシャではないか。成敗してやったわい」
可憐な少女の声が頭の上から聞こえてくる。
「ててて……いや、僕は不審者じゃなくて……」
頭をさすりながらゆっくりと立ち上がろうとした弥に少女が無言の追撃。鳩尾に華奢な拳がクリーンヒット。弥、悶絶。
「は、何をいうか。その棒きれからプンプン漂う呪いの臭い。"人になった"私にでもそれくらいはわかるぞ!」
それを聞き、おおかたこの少女の正体を知った弥は、最悪な人物と遭遇してしまったと心中で呻く。

――《フィア・イン・キューブ》
かつてとある国の王に雇われていた狂った錬金術師が、呪われた鉄で作り上げた、ありとあらゆる機構を搭載し、人を処刑し続けた過去を持つ拷問処刑道具"だった"《禍具》。
そして、人の性質を持つ事を超越し、いまや人となった例を見ない《禍具》でもある。

その性格は破天荒で、完全に誤解を受けてしまっている現状をどうにかせねばと弥は思考を巡らせるも、
「てい!」
更に追撃が襲ってくる。今度は回し蹴りだった。慌てて後方へ地面を踏み抜き弥はこれをなんとか回避。蹴りの動作中、青と白の縞々模様が見えた気がするが、ここは錯覚として処理しよう。

そんなやり取りを数分続けていた最中。
「フィアさん! お客さんに何やってるんですかあ!」
後方から声。同時、フィアの動きがぴたりと止まる。

振り向けばぐりぐり眼鏡に、少し癖のある長いオレンジ色の髪をした十七歳前後の少女が立っていた。
両手にはスーパーの買い物袋を大量に抱えており――恐らくタイムセールか何かだったのだろう。あと少し少女の到着が遅れていたら、自分は延々この破天荒娘の相手をする事になっていただろうと思うと、弥は少女が救いの女神に思えた。
「あ、えと初めまして。僕、相馬弥と申します」
ぷんすかと鼻を鳴らしているフィアを無視し、弥は深々と頭を少女に下げた。
「どうも初めまして。と言いたいところですが、あなたの右手に持っているそれは《禍具》ですね?」
「……はい。正確には《人意禍具》というもので、呪いの類はありませんが」
はあ、と軽くため息をついて少女は、
「何やら訳ありみたいですね。話は中でお聞きしましょう。フィアさん? いつまでもそんな猟犬みたいな威嚇してないで家に戻りますよ?」
「ふ、ふんウシチチめ! この家での序列が少し高いからって調子にのりおって」
また鼻を鳴らしながら真っ先にフィアはずかずかと家の中へ。
あはは、と申し訳なさそうな笑顔を少女は弥に向けて、どうぞ。と玄関へと案内したのだった。



案内されたのは居間だった。少女は「お茶をいれてきますね」と台所へ行っている。じとーとした目と形の良い眉をハの字にした不機嫌面で、フィアに睨まれている弥は正直穏やかではいられない。
「えと、これお近づきの印に」
弥はバックからルービックキューブを取り出すと、テーブルの上にすす、と差し出す。
「いらんわい!」
「ぶふぉ!?」
それを即座にフィアが手で払い、吹っ飛んだルービックキューブが弥の眉間に直撃した。軽く星が見えた気がする。
「そもそもなんだお前は? いきなり人の家に侵入して」
「いや、ちゃんとチャイムを推そうと……」
「そういう問題ではないわい! 《禍具》を持ってこの家に来た事を言っておるのだ!」
「いや、だって《夜知家》は元々《禍具》の呪いを解く組織じゃないですか」
「そう、だが。あのハレンチ小僧は人が良すぎるのだ! サラリーマンやりながらいつまでも持ち込まれる《禍具》の処理などしおって……」
フィアの表情に曇りが見えた。理由を弥はなんとなく理解する。
この家の主。つまり《夜知家》のリーダーである夜知春亮は、お人好しなんてレベルじゃない程に世話焼きで、事あるごとに《禍具》の問題を身を呈して解決してきた人間だと聞いている。

命の危険に晒された事だって数知れずあるし、それでも彼はフィア達の呪いを解くため奔走した。
だからこそだろう。フィアがこれほどまでに《禍具》を《夜知家》に持ち込まれる事を嫌悪するのは。フィアとしてはもう夜知春亮には自由に、普通の人間としての人生を歩んで欲しいのではないか。そんな憶測が弥の頭を過ぎった。
だから。
「その、安心してと言っても信用してもらえないかもだけど、僕は夜知春亮さんを頼りにここへ来た訳じゃないんです」
聞いて、フィアの眉がぴくりと動き、
「ではなんだというのだ?」
「あー、えっとですね」
――と。
説明を始めようとした弥と被るように「お待たせしました〜」と少女がお茶を持って居間に戻ってきた。丁度いい、と判断した弥は、丁寧にお茶をテーブルに配っている少女に向けて。
「村正このはさん。僕はあなたが欲しいんです」
………………………。

その場の空気が凍りついた。フィアは口をぽかんと開けたまま固まっており、
言葉を受けたこのははと言えば、右手に持っていたお盆を手刀で無意識に切り裂いている。明らかな同様が見て取れた。
「わ、弥さん……? そ、それはどういう意味でしょうか?」
笑顔こそ崩さないものの、眉をぴくぴくとさせるこのは。対して弥は。
「あ、ちょっと違いました。欲しいというか、あなたの体を僕に貸して欲しいんです! ずっととは言いません。三日程度でも構いません!」
「おいウシチチ。ハレンチ小僧二代目だなこれは」
「あ〜、え〜と。 ちょっとそういうのは感心できないというか」
ゴゴゴゴ! となにやらこのはを黒いオーラが包み込んでいく。何かまずい事を言ったのだろうか? とうの弥にはサッパリ思い当たる節がが無い。
ならばもっと真摯に頼むしかないだろう。弥はその場で土下座をし。
「お願いします! どうしてもあなたじゃないと体の相性が合わないんです!!」
瞬間、すぱん! という小気味よい音と同時に、後頭部を鋭い何かが叩いた。