【APH】無題ドキュメントⅣ
給仕が下がり、テーブルを挟んで向かい合ったオーストリアとプロイセンは互いの顔を見ないようにと手元の調印文に目を落とす。
…いつまで、続くのかね。この妥協が。
戦争で領地を獲得したものの、戦費が嵩み、それを取り戻すにはどこの国も時間がかかる。プロイセンは目を閉じると、調印書に自分の名前を書き付けた。
「…書いたぜ」
妥協があの子どもの利になるならば、納得いかずとも飲み込む。…これを利用するつもりでいればいい。あの子どもに相応しい舞台が整えば、連邦など脱退すればいいだけのことだ。
「私も署名し終わりました」
優雅な仕草でテーブルを滑った書類を引ったくり、プロイセンは立ち上がる。仕事は終わった。なら、ここから早急に立ち去りたい。オーストリアのお高くとまった顔などいつまでも見ていたくはないし、豪奢な調度品で飾られた部屋は居心地が悪かった。
「じゃあな」
「お待ちなさい。プロイセン」
軍靴の踵を蹴って、書類を片手に部屋を出て行こうとするプロイセンの足をオーストリアが止める。プロイセンは歩みを止め、嫌々、振り返った。
「何だよ、坊ちゃん」
「…あなた、子どもを引き取ったそうですね」
どこから、そんな情報を手に入れたのか…。プロイセンはフンと鼻を鳴らした。
「それが何だ。お前には関係ないだろ?」
「本当にそうですか?それが私たちと同じ存在ならば、あなたの手元に置いておくわけにはいきません」
紫玉を上げ、レンズ越しに見据えるオーストリア。プロイセンは目を細めた。
「…仮に国の子どもだとして、俺の手元に置いとくのが駄目なら、お前の手元に置いて、また飼い殺すのか?」
赤い目を向け、オーストラリアの紫玉を睨む。睨まれたオーストリアは訝しげに眉を寄せた。
「どういう意味ですか?」
「そのまんまだ」
プロイセンは素っ気無くそう返し、再び、テーブルへと着いた。
「その子どもはベルリンで死に掛けてた俺を救った。俺を選んだんだ。お前にはやらねぇよ」
「あなたの言い分などどうでもいい。国の子どもならば、しかるべきところで教育を受けさせるべきです。あなたの手元になど置いては置けない」
作品名:【APH】無題ドキュメントⅣ 作家名:冬故