【APH】無題ドキュメントⅣ
そう眩しそうな顔をして言ったのは、誰だったか?…古い記憶を手繰る。
「…夜は明けた。…だから、もう夜の夢はみない」
「…そうか」
小さな身体を抱きしめる。子どもは安心したように息を吐き、目蓋を閉じた。
「…知っているかのように、話すのですね」
「…本人から聞いたからな」
「え?」
オーストリアが息を呑み、自分を凝視するのをプロイセンは見やり、机を指先でコツリと叩く。
「…今はもういねぇ。…消えた。残ったのは、新しく生まれた「ドイツ」だ」
「…ドイツ」
その言葉にオーストリアは顔を上げた。
「本当にその子どもは神聖ローマなのですか?」
「神聖ローマじゃない。あの子どもは、ドイツだ」
もう彼は消えてしまった。あの瞳はもう、彼が恋焦がれ愛し過ぎて染まったあの空の色にはならない。二度と。
「…なら、尚更、あなたには渡せません」
眦を吊り上げたオーストリアを一瞥し、プロイセンは息を吐く。
「お前、俺の話訊いてたのか?ドイツが選んだのは、お前ではなく俺だ。お前じゃない」
「それがなんですか?関係ありません。その子ども、引き渡してもらいましょうか?」
「寝言は寝て言え。もう一度言う。ドイツが選んだのは、俺だ」
「プロイセン!」
席を蹴るようにして立ち上がったプロイセンを紫玉が睨む。それを見返し、赤い目は笑う。
「お前、二度も殺したいのかよ?…ゆるゆると真綿で首を絞めるようなやり方で」
「っ!、侮辱ですか、それは」
「…侮辱?お前がそう思うならそうなんだろうよ」
怒りを湛えた視線を受け流し、今度こそこの場を辞するべく、プロイセンは二角帽を被った。それに怒りを殺した声が追う。
「…ドイツ連邦の盟主は私です。私にはその子どもを養育する権利があります」
「…フン。早速、盟主面か。…勘違いも互いにしろ。今回はお前の顔を立ててやっただけだ。それと、お前にも俺にもあの子どもをどうこうする権利はねぇよ。あるとしたら、ドイツにだ」
プロイセンはオーストリアを見やる。
「…ドイツがお前を選ぶと言うなら、俺はそれに従う。…ドイツに会いたければ、ベルリンに来い。歓迎はしねぇけどな」
今度こそ、プロイセンは踵を返し、振り返ることなく部屋を後にした。
オワリ
作品名:【APH】無題ドキュメントⅣ 作家名:冬故