【APH】無題ドキュメントⅣ
「…どうして、俺を選んだ?…神聖ローマ…」
その呟きに答えるものはなく。夜明けの鳥が鳴き始めるまで、プロイセンは子どもを抱いていた。
「……条約後、神聖ローマは体調を崩し、床についてました。…でも、ある日突然、姿を消しました。行方を捜させましたが、どこを捜しても、彼はいなかった。…私が知っていることはこれだけです」
「その後のことを教えてやるよ。あいつは自分の惨めな死に様を晒したくなくて、一人でシュヴァルツヴァルトの奥深く荒れ果てた古城で自分が死ぬのを待っていた」
「…兄さん」
ドアを叩く音に目を開け身体を起せば、ドアを少しだけ開き、燭台を手にした子どもが立っている。それにプロイセンがこちらに来るようにと手招けば、子どもは直ぐに寄ってきた。
「…どうした?…汗、びっしょりじゃないか」
夜は夏場と言えども肌寒く冷える。子どもの頬は冷たい汗に濡れている。その汗を拭い、着替えさせるとプロイセンは寝床へと子どもを引き入れた。
「…怖い夢を見たんだ…」
「夢?」
「…黒い森の奥深くの荒れ果てた古城で、…真っ暗で日の明かりも届かないくらいに暗い中、来ない夜をおれはずっと凍えながら震えながら、焦がれるように待ってるんだ。それでも夜が来るのが怖くて、でも、夜がくれば、楽になれるって知ってるのに、夜になるのが嫌で。暗い中、ずっと、おれは誰かに会いたいって思ってる。でも、それが誰だったか、思い出せないんだ。…そして、もう、目を開けているのか閉じているのかも解らなくなった頃、…やっと、夜がおれの息を止めてくれた…」
子どもの語る言葉は、非現実的だ。でもその言葉がこの子どもにとっては空想でもなんでもなく、その身に起こった現実だったのだろう。
「…怖かったな」
湿った髪を梳いてやる。子どもは体温を欲しがるように冷えた身体を甘えるように擦り寄せてきた。
「…うん。でも、もうこの夢は見ない気がする」
「どうして?」
記憶に深く刻まれた恐怖は消えることはない。記憶は何度だって、繰り返される。それが悪夢なら。
「…兄さんがいる。…おれの夜は明けたから…」
薄く晴れ渡った青が緩む。小さな子どもの手のひらがプロイセンの目元を撫でる。
「兄さんの目は、夜明けの色だ」
…お前の目は、夜明けの色だな。マリア。
作品名:【APH】無題ドキュメントⅣ 作家名:冬故