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ハロウィン近いし書いても良いかなと思ったパラレル人外話を晒す

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 コンコン、と控えめなノックの音に立花は玄関の扉へと視線を向けた。時刻は21時を回っており、人が訪ねてくるには少々遅い時間ではあったが、隣人達の顔触れを考えれば納得もいかなくはない。案の定、ドアスコープを覗いた先にいたのは松岡である。こんな時間に、と溜息を吐きながら立花は扉を開けた。
「どうしたのですか? 松岡さん」
「わり、ちょっと話がしたいから、中に入れてくんねえ?」
 そう言って軽く両手を合わせる松岡の腕にはコンビニの袋がかけられている。奢るからと意味合いも含めてだろう、カサリ、と音を立てて揺する様を見せられて、悪ふざけなら許可も取らずに押し入るだろうし適等に理由のある相談事なのだな、と思うことにして、立花は松岡を部屋へ通した。年頃の女が男を部屋へ迎え入れる、という問題は立花が男だと思われているが故に度外視である。
「どうぞ」
「サンキュ」
 松岡に背を向け、靴を脱ぎ、そういえば松岡をこの部屋に招いたことはなかったことと思い出しつつ、床へ足を着けた途端に、ガチャンッ、と扉を閉める音が一際大きく響いた。一瞬の違和感、野生の勘を有する立花は自己のそれを不信しない。振り返る、しかし相手が見知った松岡であるという油断があったことも事実で対応が遅れる。ダンッ、と背中が床に打ち付けられた痛みで反射的に目を瞑り、次に目を開けた時にはすぐそこに見知らぬ表情をした松岡がいた。
「ま、松岡さん?」
 言うなれば陶酔、恍惚。しかし酒の臭いがしない。ならば何故、と思考を巡らす間にも松岡はうっとりと酩酊した表情で立花の頬を撫でる。なんだこの状況は、と立花が混乱しているうちに、するりと手が下り、首筋を通って、立花が着ている寝間着のボタンを一つ外した。
「は?」
 断言出来る、松岡正宗は立花蛍を男だと思っている。信じて貰えなかった事実とそこに至るまでの経緯を思い返して悔しいやら悲しいやらで泣きそうになるが、開き直ってトイ☆ガンガンでTGC優勝を目指しているのもまた事実。細川が口ではああ言いつつ心配してくれているのに、立花は男だと思われている自分に対して松岡も雪村も何か感じ取れるものはないだろうと問題を放り出した。それの結果がこれである、とは遉に言えはしないだろうけれど。
「松岡さん……ッ、松岡さん!」
 ぺち、と顔を軽く叩こうとして、その手はしかし絡め取られて床へ縫い付けられた。代わりに強く名前を呼んでみても、松岡はうっとりとした表情を深めるだけで、正気に返る兆はない。そうこうしているうちに松岡は二つ目のボタンを外し、露になった首筋に唇を寄せてきた。
「ひッ!?」
 ちゅ、と音を立てて吸い付いた後、ねろりと舌が這う感触に快も不快もない、ただただ只管な驚愕に悲鳴が上がる。以前、立花が女であることを信じなかったあの時、野郎の胸を触って喜ぶわけがない、と松岡は言った。それなのにその松岡が、ちゅぅう、と先程より強い音を立てて立花の首に吸い付いている。胸は駄目でも首なら良い、なんてそんなわけがない。立花を男だと思い込んでいるならば、もう可能性はこれしかない。
「松岡さん、誰と間違えているのですか? 貴方の前にいるのは立花ですよ?」
 前、というより下であるがそんなことを気にしている余裕はなく、先程とは逆の手で少しでも身体を離そうと押してみるがビクともしない。それどころかボタンを外していた手が再び頬へ戻ってきて、ヒタリ、と視線を合わせて退路を塞ぐ。
「俺がお前を間違えるわけないだろ? 蛍」
挙句の果てに、間違えていると思われて不機嫌です、と言わんばかりの言葉と共に、退路ばかりか呼吸まで塞がれる。
「ふ、……ッ、んぅ……!?」
 ――ちょっと待て立花これファーストキスじゃ!?
  ――いかにも慣れていますみたいなふうに扱うなこのホスト!!
   ――それよりこの人は女が好きなんじゃないのかまさかバレた……!?
「ッ、ぁ……、……う?」
 好き勝手に弄ばれて精神状態は恐慌寸前のその時、舌に触れた感触で急速に思考能力が戻った。
 ――ああ、何だ、そういうことか……
 最初に部屋に押し入らなかったのも、執拗に首を狙ったのも理由あってのこと。未だ唇に喰いつかれている意味は分からないけれど、恐らく理由の延長だ、深い意味はない。
 理由が分かったので改めて対処を考える。このまま好きにさせておいて"最後"まで及ばれても無事でいられる、立花にはその程度の自負があった。なのでこの先、周囲への被害を考えればいっそこのまま大人しく身を差し出してしまった方が何もかも丸く納まるのでは。
 そう思い至って緊張を解いた途端、何を思ったか冷たい手が寝間着の裾から這入ってきた。
 ――は?
 何度だって断言する、松岡正宗は立花蛍を男だと思っている。だというのに手の動きが如何わしいのは気のせいではないだろう。肉の感触を楽しむように脇腹を撫で、体温を確かめるように中腹を辿る。硬い肋骨を包む皮膚を滑り、身体の線をなぞるように手はそのまま上へ――……。
「っ、この、変態がぁあああああああ!!!!」
「ぐぁッ!?」
 口腔に侵入してきた舌を容赦なく噛み、怯んだ隙に頭突きで相手のバランスを崩す。僅かに取れた距離、相手の下から引き揚げた脚を振り上げて胴体を蹴り上げた。その間3秒フラット、体術で立花に劣る松岡が、普段の観察眼を手放している酩酊状態で応戦し得る間合ではない。
「ぐ、ごほっ、……え? 蛍?」
「正気に戻ったようで何よりです、松岡さん」
 床に転がり、いつぞやの果し合いを申し込んだ時のような怯えた表情の松岡が見上げるその先には、刀身に華美な装飾の施された、切っ先のない鈍く光る剣を彼へと向けた立花がいる。
「そんなに怯えないで下さい、大丈夫、立花はすごく巧いのですよ」
 その剣が振り上げられる。
「痛む間もなく首を落として差し上げます」
 月城荘に松岡の絶叫が木霊した。