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ハロウィン近いし書いても良いかなと思ったパラレル人外話を晒す

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「いやどう聞いてもまっつんが悪いよ、弁解の余地すらないよ」
 松岡の味方を公言して憚らない雪村を以て、松岡の有罪が確定した。
 何故に雪村がこの部屋にいるのかといえば、松岡の悲鳴を聞いて飛んできたのはいいが、目に飛び込んできたのは立花が松岡を物理的に断罪しようとしているまさにその瞬間で、少ない体力でどうにか立花を抑え、宥め賺し、10分以上かけて事情を聴き出したのが彼だからである。
「ごめんね、立花君。言っても信じて貰えないと思って、俺もまっつんも黙ってたんだ」
「いいえ、それについてはお互い様なので謝らないで下さい。そもそも雪村さんが謝ることなんて何一つないのですよ」
「そっかー、そうだよねー、謝らなきゃいけないのはまっつんだよねー」
「マコトニモウシワケゴザイマセンデシタ」
 立花と雪村がデーブルについて松岡が買ってきた某社のお高いアイスを食べている横で、松岡は綺麗な土下座を披露している。何ともシュールな光景だ。
「謝罪で済んだら警察も留置所も拘置所も刑務所も裁判所も絞首台も要らないんですよ」
「立花君、絞首台以外は君の管轄外に見えるんだけど気のせいかな?」
「だって立花に司法権はないじゃないですか」
「吸血鬼とか認知されてないから必要ないんだよ」
 まだ何かを言いたがる立花を、雪村は自分が食べていたアイスの最後の一口をその口に押し込むことで黙らせた。
 松岡は吸血鬼、正確に言うと、伝承にある吸血鬼に似た能力や性質を持つ人間に極近しい形状をした人間以外の生物である。別に必ずしも吸血行為を要するというわけでもなく、人間と変わらぬ食事で必要な栄養分を摂ることも充分に可能で、実際に現代ではそちらの方が主流だ。その反面、可能というだけで吸血欲求がなくなるわけでもなく、周期的に本能が理性を圧迫して衝動が抑えられなくなる事実もあり、暴走した誰かが吸血鬼として都市伝説の如く語られて、最終的にひっそりと駆除される。ちなみに冒頭で立花の部屋に押し入らなかったのは、吸血鬼が部屋に立ち入る場合、初回はその室内にいる人間に呼び込んで貰う必要がある、という性質に由来する。ただ今回は呼び込んで喰われる筈だった立花がとんだ食わせ物であった。
 立花にはそういった実害のある都市伝説を刈る手段と実力がある。具体的には先程の切っ先のない剣に始まり断頭台、杙、絞縄、車輪や牛馬、果ては炎まで処刑に用いられるあらゆる道具や物体を具象化するというものだ。命中率の低さ故に銃でさえなければという条件がつくのはご愛敬だが、相手に苦痛すら与える間もなく絶命させると宣言したその技能に偽りはなく、雪村が間に合っていなければ今頃の松岡の首と胴体は永訣していたかも知れない。そして隣人殺害の罪で立花は裁かれていただろう。基本的に正義感が強い性格故に、如何なる理由があっても親しい者を殺して平気なフリをしていられる器用さはないのだ。
 立花が社会的に、松岡が生命的に死んでいたかも知れないの窮地を救った雪村だが、彼は彼で吸血鬼同様の都市伝説的な悪魔である。懐に入れた者にはどこまでも甘く敵視した相手には容赦の欠片もないような依怙贔屓、社会的な人間なら憚られるような趣味も言葉も包み隠さず公言し、たとえ薄汚かろうが非道徳的だろうがこの世に存在する全ての欲に躊躇がない。こういう人間はいなくはないが、雪村の場合、これが反社会的であることすら理解していない。本能に忠実で何がいけないの、とこの現代社会で生活しながら無垢な目で本気で首を傾げ、それを貫き通す異端と異能が悪魔の所以である。
「で? 立花君はまっつんをどうしたいの? さすがに殺すのは見過ごせないんだけど」
「立花も、先程は冷静ではなかったと反省しております」
「いやいや、反省しなきゃいけないのはまっつんだから」
 面倒なことになった、と雪村は思う。誰がどう考えても松岡が悪い、雪村でもそれくらいは分かる。それでも雪村はどんなに松岡に非があろうとも松岡の味方をする、それは決定事項だ。しかし立花のことも大事なのだ、雪村自身が驚く程に立花に対して恩を感じるし好意もある(雪村の場合、どんなに恩があろうと相手を嫌いなら仇で返すつもりでいる)。そもそも立花が傷つくようなことをして最終的に泣きを見るのは松岡なのだから、ここは立花の意見を尊重しつつ当たり障りなく松岡への刑を軽減するのが得策だろう。ちらりと見やれば、松岡は土下座しながら震えていた。ラスボスモード2回目はそんなに怖かったのだろうか。雪村は立花を本気で怒らせないようにしよう、と他人事のように決心して視線を立花へ移した。
「立花の血で良いならあげます。立花なら吸血されても伝染ったりしないので、大丈夫ですよ」
 がば、と松岡が頭を上げる気配がする。え、いいの、そんなに簡単に決めちゃって、と雪村は思いつつ口にしない。現状それが雪村にとって最良策なのだから、変えられては困る。
「ほ、本当か!?」
だから余計な詮索はせずに黙って有難く了承しとけこのばか、と口にしなかった自分を雪村は褒め称えたい。
「はい。あ、でも次に先程のような真似をしたらちょっとまた考えを改めさせて頂きます」
「し、しない! シないって!!」
 本当かなぁ、と松岡の言葉を疑う。吸血鬼が吸血もせず首に痕を残しただけで何もせず、剰え唇に移行してキスに没頭していたということは、食欲より色欲の方がマズかったんじゃないの、そう思いつつ雪村は松岡可愛さにやはり口を噤んだ。じゃあ良いですよ、と微笑んでいる立花にこの娘の危機感は大丈夫だろうか、と身近な大人としてやや不安になった。
 そう、この娘。
 雪村は立花が女の子であると知っている。正確に言えば女の子でしたと宣言された時に半信半疑、この場で確信した。相変わらず松岡は立花を男だと思っているようだが、松岡が僅かばかりでも男に気をかけたことがないのを雪村は分かっている。根本的に女が好きなのだろう、その松岡が本能的に襲ったのだから立花は女の子だ、雪村はそう結論づけた。
 ―女の子、かぁ
 女の子で、高校生で、そんな子供におんぶにだっこ。大人として情けない限りであるが、それはそれ、これはこれ。
 ―……処刑者、よりは神父か牧師の男装……、いややっぱりここは修道女が良いよね
 雪村の視線は立花に触ることにやたらと怖気づいている松岡と苦笑している立花へ向いているが、頭の中では白い原稿用紙に物凄い勢いで線を引いていた。
 ―読み切りの依頼が来てたんだよね、ちょうど良かった
 小鳥ぴよ子 作『修道女は調教師』、乞う御期待である。



 数日後に細川がこのSM漫画を書店で発見して騒ぎになるのだが、現在の月城荘は概ね平和である。