未来への報償②
無言の時間が続く。波の音と風の音が二人を優しく包み込む。幾度波が岸へと打ち上げられただろうか、1度だけだったかもしれないし、数十回だったかもしれない。
静謐な空間は、二人の時間間隔を狂わせた。永遠にも続くかもしれない沈黙を、平古場は立ち尽くす木手の背中を見つめて待っていた。
核心があった訳ではない。けれど、ただ信じて待っていればいいと分かっていた。
木手の言葉を。
「……平古場クン」
名前を呼ばれる。けれど、それは呼びかけではないことは知っていた。だから、変わらず平古場は無言のまま、その真っ直ぐに立つ、後ろ姿を見つめた。
「謝罪も、感謝もしませんよ」
「ああ」
それでいいと思った。寧ろ、傲岸不遜な態度も、無駄に威圧的な響きを含む声も、どれもこれも木手らしくて、平古場は嬉しくなって小さく笑みを浮かべた。
――今、振り返られたら、何を笑ってるんですって怒られそうだな。
そんなことを呑気に考えた。
「明日から、練習を再開します。遅刻厳禁です。いいですね」
「ああ。明日、寝坊しないよーに起きられるかやー」
「なら、さっさと帰って寝なさい。俺も、もう帰ります」
「おー」
木手は振り返ることなく、また歩き出した。海から上がり、家路へと向う姿を視線だけで追いながら、それに続くように平古場も海から立ち上がった。
海から上がる直前に、平古場は振り返り夜の海を眺める。
月が輝き、海に光が落ちている。月明かりの道がまっすぐ伸びる。
その光の道を見ながら、木手を想う。
たとえ、どんな暗い道を歩こうとも、きっと光の道がある。
その道を、迷わず歩いていこう。
ずっとずっと、どこまでも。