se raser
今日は珍しく僕の方が早く目が覚めた。
いつもは、シャアに離してもらえなくてほとんどの場合抱き潰されるみたいに墜ちる様に寝てしまうから、朝になってもなかなか疲れが取れていない事が多い。
でも、ここ数週間は、一年に一回の今日という日を盛大に且つ威厳あるものとせんが為に、ナナイさんを筆頭に企画から手順・演説の草稿等で忙しく、流石のシャアもお疲れモードになってしまったようだ。
出会ってから片手位の回数しかない貴重なシャアの寝顔を朝日の中で拝めるなんて、今日は僕にとって滅茶苦茶ラッキーディだと思う。
毎年、この日の天候は快晴に設定されている。
天井までの窓から差し込む朝日に照らされているシャアの顔を飽かず眺めていたら、ふと気が付いた。
鼻の下から顎にうっすらと光をはじく、産毛より少し太めの髭が存在している。
「へぇ〜。シャアにも髭、生えるんだ〜」
そういえば、いつもシャアの方が先に起きて、身なりを整えてから僕を起こしてくれているから、シャアの髭を見た事がなかったんだ。
「あっ! バースディプレゼント、これならどうだろう!」
僕は思いついた事を完遂するべく、家令となったゼーダさんに準備を頼む為に、シャアの腕の中から脱出をした。
☆
フッと胸の中が冷えた感じがして、私は眠りの海から浮上した。
案の定、愛しいアムロの姿が腕の中から消えている。
「意識がなくなるまで抱いておかないと、私の片翼はふわりと飛び立ってしまうな」
私は大きく伸びをして、ベッドに起き上がった。
と、寝室の扉を開けて、アムロがワゴンを押して戻ってきた。
「あ、シャア、起きたの? おはよう」
「おはよう、アムロ。どうして私が起きるまで腕の中にいてくれなかったんだね。おかげで寒くて目が覚めてしまったよ」
そう言って両手を広げてきてくれる様にアピールしたのだが、アムロは首を振って微笑むだけだった。
「アムロ?」
「朝一番にあなたにバースディプレゼントをあげたいんだ。良いかな?」
「君が 誰よりも先に?」
「うん。駄目?」
誰よりもほれ込んでいる相手に少し上目遣いで見つめられて、否やを告げられる男がいたらお目にかかりたいものだ。私は即座に頷いた。
「何を貰えるのかな」
「今日のあなたの身だしなみを整えること。とは言っても儀典用の衣装装着とか髪形を整えるとかは専属の人が居るし、もう決められてるから無理でしょう?」
「そう・・・だな。ナナイが完璧にするのだと、昨夜も気炎を吐いていたからな」
「うん。だから、僕は髭を剃ってあげたいんだ」
「・・・髭剃り? 君がかね?」
「う・・・ん。僕は髭、生えないからねぇ〜。やった事無きに等しいんだけど、ゼーダさんにレクチャーしてもらってきたから、大丈夫だと思う・・・んだけ、ど・・・」
私があまりに驚いた顔をしてしまった為に、不安に思っていると思わせてしまったのだろう。最初の勢いがアムロの中で小さくなってしまったようだ。
「君の初体験を私にしてくれるのかね? 嬉しいよ」
「・・・・何だか、意味合いを違った方向に聴き取っちゃいそうなんだけど〜」
「おやおや。君も随分とそちら方向に敏感になってきたものだ。これも私の愛の賜物かな?」
「も〜! ノタノタしてたらお湯がぬるくなっちゃう! ガウン羽織ってカウチに座って」
頬から目尻を赤く染めた姿はとても可愛らしくて、すぐさまベッドに引きずり込みたい衝動に駆られたが、今日の私にはその時間の余裕は得られない。
心の中は渋々と、しかし表面上は素直に指示に従い、カウチへと移動をした。
☆
カウチの背もたれにクッションを置いて頭を預けてくれる様に言うと、シャアはその通りにしてくれる。
僕はポットから洗面器に熱いお湯を移し、そこにフェイスタオルを浸して絞った。それを少し熱めの状態でシャアの顎から鼻先までを包むように巻いていく。
「熱すぎない?」
問いかけると、シャアは閉じていた瞼をあげて笑みに細めてくれた。
2分ほど置いてから外し、スプレーからホイップされたシェービングクリームを出してシャアの鼻の下に均一に塗ると、僕は剃刀を当てて髭を剃った。
泡の中に極細の金糸が混ざる。
それを紙に取って、今度は顎から首付近まで同様に行った。
傷をつけちゃいけないと緊張する僕に反して、シャアは陽だまりの猫の様にリラックスしている。
何故?
そう思いながらも、僕の手はゼーダさんから教えて貰った様に剃りあげ、洗面器に適温のお湯を入れて洗顔をしてもらった。
「沁みたりしたとこ、無かった?」
僕は心配になって訊ねたが、シャアはふかふかのタオルで顔を拭きながら首を横に振ってくれた。
「ツルツルと気持ちいいよ。アムロは器用なんだな。ほとんど初めてなんだろう?」
「シャイアンにいた頃に電気シェーバーでやった事はあるよ。でも、剃刀は凶器にもなりうるから手にする事は出来なかったなぁ。さぁもう一度、頭を預けて?」
すると、シャアは再びカウチの背もたれに頭を預けてくれた。僕はアフターシェービングローションを掌に落とし、少しだけ体温に馴染ませるようにしてから、シャアの顎下から鼻の下までを覆うようにして掌を当てた。そのまましばらく包み込んだままにして、ローションが肌に馴染むのを待っていると、シャアの体から余分な緊張が解けていくのが判った。そして、シャアの手が僕の手を包むようにしてきた。
(あったかいなぁ〜。シャアの手に包まれると、すごく安心しちゃう。一年戦争の印象とはかけ離れちゃう)
僕がふとそう思った事を、接触していたからかシャアは正確に読み取ったみたいで、掌の下の唇に笑みが浮かんだ。
僕にもシャアの多幸感が伝わってきて、互いにほんわかとしてしまう。
すると、シャアの手が僕の手首に移り、そのまま自分の方へと引き寄せてきた。
すっかり気を許してしまっていた僕は、あっさりと下からシャアに幾度も唇を啄まれてしまった。
「今後は、君が先に目ざめた時には、私の髭をあたってくれないかな。とても幸せな気分で登庁出来そうだ」
いつにもまして輝く容貌を見ながら、僕は口づけで腰砕けになったまま首を縦に動かすことしか出来なかった。
いつもは、シャアに離してもらえなくてほとんどの場合抱き潰されるみたいに墜ちる様に寝てしまうから、朝になってもなかなか疲れが取れていない事が多い。
でも、ここ数週間は、一年に一回の今日という日を盛大に且つ威厳あるものとせんが為に、ナナイさんを筆頭に企画から手順・演説の草稿等で忙しく、流石のシャアもお疲れモードになってしまったようだ。
出会ってから片手位の回数しかない貴重なシャアの寝顔を朝日の中で拝めるなんて、今日は僕にとって滅茶苦茶ラッキーディだと思う。
毎年、この日の天候は快晴に設定されている。
天井までの窓から差し込む朝日に照らされているシャアの顔を飽かず眺めていたら、ふと気が付いた。
鼻の下から顎にうっすらと光をはじく、産毛より少し太めの髭が存在している。
「へぇ〜。シャアにも髭、生えるんだ〜」
そういえば、いつもシャアの方が先に起きて、身なりを整えてから僕を起こしてくれているから、シャアの髭を見た事がなかったんだ。
「あっ! バースディプレゼント、これならどうだろう!」
僕は思いついた事を完遂するべく、家令となったゼーダさんに準備を頼む為に、シャアの腕の中から脱出をした。
☆
フッと胸の中が冷えた感じがして、私は眠りの海から浮上した。
案の定、愛しいアムロの姿が腕の中から消えている。
「意識がなくなるまで抱いておかないと、私の片翼はふわりと飛び立ってしまうな」
私は大きく伸びをして、ベッドに起き上がった。
と、寝室の扉を開けて、アムロがワゴンを押して戻ってきた。
「あ、シャア、起きたの? おはよう」
「おはよう、アムロ。どうして私が起きるまで腕の中にいてくれなかったんだね。おかげで寒くて目が覚めてしまったよ」
そう言って両手を広げてきてくれる様にアピールしたのだが、アムロは首を振って微笑むだけだった。
「アムロ?」
「朝一番にあなたにバースディプレゼントをあげたいんだ。良いかな?」
「君が 誰よりも先に?」
「うん。駄目?」
誰よりもほれ込んでいる相手に少し上目遣いで見つめられて、否やを告げられる男がいたらお目にかかりたいものだ。私は即座に頷いた。
「何を貰えるのかな」
「今日のあなたの身だしなみを整えること。とは言っても儀典用の衣装装着とか髪形を整えるとかは専属の人が居るし、もう決められてるから無理でしょう?」
「そう・・・だな。ナナイが完璧にするのだと、昨夜も気炎を吐いていたからな」
「うん。だから、僕は髭を剃ってあげたいんだ」
「・・・髭剃り? 君がかね?」
「う・・・ん。僕は髭、生えないからねぇ〜。やった事無きに等しいんだけど、ゼーダさんにレクチャーしてもらってきたから、大丈夫だと思う・・・んだけ、ど・・・」
私があまりに驚いた顔をしてしまった為に、不安に思っていると思わせてしまったのだろう。最初の勢いがアムロの中で小さくなってしまったようだ。
「君の初体験を私にしてくれるのかね? 嬉しいよ」
「・・・・何だか、意味合いを違った方向に聴き取っちゃいそうなんだけど〜」
「おやおや。君も随分とそちら方向に敏感になってきたものだ。これも私の愛の賜物かな?」
「も〜! ノタノタしてたらお湯がぬるくなっちゃう! ガウン羽織ってカウチに座って」
頬から目尻を赤く染めた姿はとても可愛らしくて、すぐさまベッドに引きずり込みたい衝動に駆られたが、今日の私にはその時間の余裕は得られない。
心の中は渋々と、しかし表面上は素直に指示に従い、カウチへと移動をした。
☆
カウチの背もたれにクッションを置いて頭を預けてくれる様に言うと、シャアはその通りにしてくれる。
僕はポットから洗面器に熱いお湯を移し、そこにフェイスタオルを浸して絞った。それを少し熱めの状態でシャアの顎から鼻先までを包むように巻いていく。
「熱すぎない?」
問いかけると、シャアは閉じていた瞼をあげて笑みに細めてくれた。
2分ほど置いてから外し、スプレーからホイップされたシェービングクリームを出してシャアの鼻の下に均一に塗ると、僕は剃刀を当てて髭を剃った。
泡の中に極細の金糸が混ざる。
それを紙に取って、今度は顎から首付近まで同様に行った。
傷をつけちゃいけないと緊張する僕に反して、シャアは陽だまりの猫の様にリラックスしている。
何故?
そう思いながらも、僕の手はゼーダさんから教えて貰った様に剃りあげ、洗面器に適温のお湯を入れて洗顔をしてもらった。
「沁みたりしたとこ、無かった?」
僕は心配になって訊ねたが、シャアはふかふかのタオルで顔を拭きながら首を横に振ってくれた。
「ツルツルと気持ちいいよ。アムロは器用なんだな。ほとんど初めてなんだろう?」
「シャイアンにいた頃に電気シェーバーでやった事はあるよ。でも、剃刀は凶器にもなりうるから手にする事は出来なかったなぁ。さぁもう一度、頭を預けて?」
すると、シャアは再びカウチの背もたれに頭を預けてくれた。僕はアフターシェービングローションを掌に落とし、少しだけ体温に馴染ませるようにしてから、シャアの顎下から鼻の下までを覆うようにして掌を当てた。そのまましばらく包み込んだままにして、ローションが肌に馴染むのを待っていると、シャアの体から余分な緊張が解けていくのが判った。そして、シャアの手が僕の手を包むようにしてきた。
(あったかいなぁ〜。シャアの手に包まれると、すごく安心しちゃう。一年戦争の印象とはかけ離れちゃう)
僕がふとそう思った事を、接触していたからかシャアは正確に読み取ったみたいで、掌の下の唇に笑みが浮かんだ。
僕にもシャアの多幸感が伝わってきて、互いにほんわかとしてしまう。
すると、シャアの手が僕の手首に移り、そのまま自分の方へと引き寄せてきた。
すっかり気を許してしまっていた僕は、あっさりと下からシャアに幾度も唇を啄まれてしまった。
「今後は、君が先に目ざめた時には、私の髭をあたってくれないかな。とても幸せな気分で登庁出来そうだ」
いつにもまして輝く容貌を見ながら、僕は口づけで腰砕けになったまま首を縦に動かすことしか出来なかった。