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同調率99%の少女(5) - 鎮守府Aの物語

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 その後、三千花らは那珂にポーズをとらせたり、ある程度の距離を移動してもらいその様を撮影した。

「いや〜艦娘ってすごいわ。知ってる人がやってるだけに感動も倍増っすわ。」
 三戸が素直な感想を口にする。それに和子と三千花も頷く。
 提督が3人の真後ろまできて、自身の感想を述べた。
「そうだろ。俺もさ、五月雨っていう艦娘の初めての出撃の様子や深海凄艦との戦いの様子を見た時感動したよ。ただそれと同時に、あんな化け物と戦うことになる人達を自分が果たしてまとめ上げることができるのか、不安も感じたね。」

 言葉の途中で表情を暗くする提督。三千花らは、身近な大人がふと漏らした不安を耳にして、その方向を振り向く。
「俺にとってはさ、艦娘っていうのは特別な存在じゃなくて、ともに過ごす・戦う仲間として考えたいんだ。もし他の鎮守府のように本当の軍よろしく俺が上官で、艦娘をただ戦わせるだけの部下というふうに捉えたらきっと俺は何もできなくなってしまうと思う。もちろん戦うのに統率力は必要だ。けど俺にはまだまだ力も理解も足りない。正直、俺は本業の会社で別にリーダーやったこともなく平々凡々に過ごしてきた会社員でさ。人をまとめ上げるというのがわからないし、組織を運用することの実感がないんだ。33のいい年こいたおっさんだけど、まだまだ学ばないといけないことだらけさ。」
 三千花らは黙って提督の言葉に耳を傾け続けた。

「ところで君たち、江戸時代にあった、○○○って組知ってるかな?」
 唐突に関係ないことを聞かれて三千花らは?と思ったが、とりあえず提督の質問に答えた。
「はい。日本史の授業で習ったことあります。」

 三千花らが知っていることを確認すると提督は続けた。
「身分に関係なく、志ある者は誰でも同志として扱う。その分それ相応の覚悟を決めなければいけなくて内情は賛否両論あったらしいけど、統率が取れてて当時かなり実用的な組織だったそうだ。俺はそういうのに憧れてね。光主さんを含め、五月雨や時雨たち、明石さんや他の艦娘ら、そしてこれから入ってくる人たちを、志あれば等しく共に戦っていく仲間として迎え入れたい。ただ年齢差や経験はどうしようもないから、時には娘みたいに、時には友人、時には妹や姉、そして人生の師のように、その人との関係性をなるべく大事にして接していきながら、この大事業をともに乗り切りたい。けれどもその人の生活があるから、まずは普段の生活を第一に大切にさせる。その上で海や世界を守りたいという志ある人なら、少なくともうちの鎮守府では誰でも運用に携われるようにしたい。みんなでこの鎮守府を運用して戦っていきたいんだ。」

「「「提督……」」」
「このこと、那珂や他の艦娘たちには内緒で頼むよ。」
 またしても熱く語ってしまった事に気づき、提督は恥ずかしそうにもこめかみ辺りを掻くのだった。

 提督から思いを聞かされた三千花は、自身が今まで見知った艦娘の世界のことを思い出しつつ、その内容と提督からの話を頭の中で照らしあわせていた。

 雑誌で紹介されている艦娘たちはみな華やかで多くの人の目に留まりやすい。未だ侵攻続く世界の海を荒らす化け物を倒すために戦う艦娘たちは強くて可愛いあるいは美しい存在として興味惹かれている。ただ大多数の一般人にとってみれば、自分たちには関係ない世界での話・テレビに映るアイドルや俳優のような手の届かない存在だという扱いに近いのが現実である。しかも芸能人などのように一般的に考えて怪我や死亡事故のような危険性が低い現場ではない。表向きに知られる憧れだけでその思いを終始させる人がほとんどなのだ。結局のところ、現実味がないという一言で片付く存在なのだ。
 しかしその裏では、こうした大人たちが彼女たちのために環境を整え、見えない部分を必死になって支えている。裏を知ると途端に見方が変化するのは艦娘界隈でも同じである。

 戦っているのは艦娘だけではなかったのだと、三千花らはそれらを少し理解できてきた。

 世の常で、中にはふんぞり返って堕落した末に艦娘たちに手を出す提督、ブラック企業のような運用をして艦娘をこき使うをする提督もいる。しかしこの提督はきっと違うと三千花は感じた。初めて会って間もないにもかかわらず、心の中を三千花たちにさらすほどの馬鹿正直な誠実さを持つ人、西脇提督。普通の人達が艦娘になるように、彼もまたいきなり提督になった普通の人だった。

 三千花らは、この大人も自分たちと同じく悩んで試行錯誤して日々を過ごしているのだなと、身近に感じ始めていた。特に三千花は、あの出来る親友の琴線に触れる何かがこの大人の男性にある。だからこそ、親友はこの西脇提督という人を助けて尽くそうという気持ちになっているのだろう、きっと目の前の男性には那美恵が必要で、那美恵にも西脇提督が必要なのだと想像した。
 生徒会の面々も、その度合は違えど少なからず近い気持ちを抱き始めていた。

 しかし三千花には不安もあった。
 現実的に考えて、ただの高校生である自分たちがこの大事業に本当に貢献できるのか。また、貢献するだけの価値や将来性はあるのか。西脇提督に、親友を本当に託してもいいのか。
 三千花の心にあるのは、友人那美恵のために何かをすること。祖母が偉大だった那美恵は昔からとにかく無茶をした。偉大な祖母と父親に鍛えられたおかげで、那美恵はその無茶をそのたびに切り抜け、新たな世界を築き上げてきた。そして側には必ず三千花がついていた。だから三千花は那美恵の能力も無茶も限界も把握していた。

 三千花が自分の立場としてできるのは、学校から艦娘を提供できる環境を作るよう学校に働きかけること、それに協力することだ。自分が艦娘になろうという思いもないわけではないが、那美恵が艦娘部の存在を生徒会メンバーと切り離して作ることを考えていることは明白だった。その先に続くのは、新たなつながりなのだ。
 それゆえ三千花ら自身が艦娘本人になるわけにはいかない。親友を支える立場に徹する。結果的に艦娘と深海棲艦の戦いという大事業に貢献することができれば十分なのだ。三千花はそう思った。
 すべては親友である那美恵のため、というのが大前提であった。

((私にできるのは、どのような形になったとしても、なみえを信じて協力するだけ))


「おーいみっちゃーん!みんな〜! そろそろ上がっていーい?」
「えぇ!いいわよ〜! ありがとー!色々堪能したわ〜!」
「えへへ〜」
 左手で頭の後ろを掻いてにこやかに笑った後、那珂は元来た水路に入った。明石は彼女の艤装解除を手伝うために駆けて行って工廠に戻った。上がるために外の水路ではなく、那珂はそのまま水路を進んで工廠の中に入っていった。それを歩きながら見届けた三千花らは少し歩幅を広く歩いて工廠の入り口へと急いだ。