同調率99%の少女(5) - 鎮守府Aの物語
「あたしたちにとってはウソとしか思えなくてもさ、校長にとってはきっと大切な、記憶だったり思い出なんだろうって思うの。そういうの汚したらいけないじゃん?」
「うーん、まぁね。」三千花が相槌を打った。
「例えるなら、あたしや五月雨ちゃんたちがこうして深海凄艦と戦った記憶と思い出だって、みっちゃんたちからすれば実際に経験してなくても、知り合いが経験してきたことだから自分たちもそうだったんだ、少なからず関わったことがあるんだと誇れるくらいには将来本物の思い出になるかもしれないでしょ?もし数十年経って、三千花おばあちゃんのいうことはウソじゃん!何もやってなかったじゃん!とか孫とか周りの人に悪く言われたらどう思う?」
三千花は眉をひそめ、那美恵を睨むような視線で言い返す。
「……そんな先のことなんてわからないわよ。」
「あたしだったらショック受けるかも。光主那美恵65歳、孫からやり込められてショックでひきこもる。的な。」
「はぁ……なによそれ。」
那美恵の言い出した妙なナレーション風味のセリフに、三千花は素早くツッコミを入れた。
「まぁあの時は突くことができなかったその点、今回は狙ってみよっかなぁと思ってる。」
一息ふぅ、とついたのち、那美恵は考えを述べた。
「……狙うだけの何か確信があるのね?」
「いやまぁ、ホントに狙うか狙わないかは別として、校長と接する上で大事なポイントなんだろうなって気はする。そこまでわかっただけでも前回のは得るものがあったかなぁって。」
「……あんたもしかして、最初から探るために?」
口元だけニンマリさせて那美恵は三千花が想像したことを含めた言い方をした。
「あたしね、やれるって確信が持てないときはやらないんだ。みっちゃんわかってるくせに。」
三千花はため息をついて、カフェオレを一口含み、口を潤した後言った。
「はぁ。結局私達はあなたがイケるって確信を掴めるようになるために利用されてるってわけね。私はもうそういうの慣れてるからいいけどさ、毛内さんと三戸くんは全然ついてこれてないみたいよ?どうすんのさ。」
「そんな言い方はひどいよぉ〜。あたしはみんなに協力してもらってるって意識だよ。利用してるなんてひどい。」
「はいはい。ひどくないひどくない。」
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それぞれ飲み物を飲んで、口の中を潤したのちに議論を再開した。口火を切ったのは那美恵だ。
「あのね。今回の報告書なんだけどさ、マイナスに関わりそうな要素はあえて書かないでほしいの。」
驚いて三千花は那美恵に詰め寄る。
「ちょっと!それじゃ事実隠蔽じゃないの?それはダメよ!」
頭を横に振って那美恵は三千花にその真意を語りだした。
「うん。だけどあたしの考えではそうは思わないんだ。必要悪っていうのかな? 致命的じゃない限りは、校長先生たちが"今"知る必要のないことは書かない・教えないべきだと思うの。その逆で、今だからこそ知るべきこともあるだろうからそこはきちんと伝える。物事を有利に進める上での駆け引きはするべき。きっと提督はバカ正直に言っちゃうかもしれないけど、そこはあたしが提督にも言い含めておくから、みっちゃんたちもお願い。」
三千花は親友の目と表情が本気であることにすぐに気づいた。こうなると三千花の意見も効かなくなる。たまに見る那美恵の狡さ。三千花は心臓がきゅっと詰まる感覚を覚える。
一方で三戸と和子は真面目に会長と副会長が議論しているので、まったく口を挟めないでいた。ただ空気を読んで黙って二人の議論を見ていることしかできなかった。
「ええと、結局俺達はどうすれば……。」
そう言ってあたふたする三戸とは異なり、和子は至って冷静に那美恵たちに反応を示した。
「会長たちの思いがどうであれ、私はお二人のおっしゃることを信じて従うだけです。鎮守府との提携が学校を良くするって会長が確信しているのであれば、私も学校を良くしたいと思ってますし。私個人としては意外と面白そうだと思ってますから会長に全力で協力するまでです。だから、なんでもおっしゃってください。」
「わお!わこちゃんクールデレ〜!」
両手をピストルのように構えて和子を指さして突っ込む那美恵。その仕草に和子は頬を引くつかせたがすぐに表情を戻して呆れ顔で那美恵にツッコミ返した。
「んもぅ……。クールデレとかやめてください。大昔の白骨化した死語ですよ。それ。」
雰囲気が少し柔らかくなってきたのを見計らって三戸も口を挟み始めた。
「んで俺達は一体どうすればいいんっすかぁ〜?もっと明るくサクッと行きましょうよ!艦娘とか鎮守府って賑やかで和気あいあいとしてそうだからノリ良くいきたいんっすよ。」
「うん。そうだね。明るくいこー!あたしに続く生徒たちが明るく気持ちよく参加できるようにしないとね。三戸くんはわこちゃんと一緒に報告書をしっかり作ってね。期待してるよ!」
那美恵は三戸に向かってウインクして鼓舞し、気持ちと空気を切り替えさせた。
「は、はい!」
「はい。わかりました。」
三戸と和子の返事を聞いた那美恵と三千花は議論を締めた。
それぞれ、飲みかけの飲み物を飲み干し、コーヒーショップを後にした。
帰り道、三千花は改めて那美恵に言った。
「一度協力するって言った以上は協力しつづけるけどさ。鎮守府の現状をしっかり見なよ。西脇提督にもちゃんと言っておいてよ? なんだかんだ対策したとしても、私達は最終的には西脇提督の交渉術に頼るしかないんだから。」
「はいはーい。」
返事をする那美恵はいつものちゃらけた明るさの人物に戻っていた。
作品名:同調率99%の少女(5) - 鎮守府Aの物語 作家名:lumis