滅びかけた都の話
「ご飯の材料を取ってきたからご飯、食べようよ。作るから」
「そんなに良く取れるな」
「たまたま探したりしたら凄く良く取れるんだ」
話している間にいつの間にか火神は都を見て回っていたようだ。
高尾が持ってきたのは十人分はあるかと想われる肉や野菜だ。少し探しただけでも高尾はこれだけ探せた。
火神が関心半分、呆れ半分で言っていた。
ドラグーンになったことで運が非常に良くなったのだ。コレは緑間と契約したドラグーンの固有能力である。
「……高尾くんの時間まで操作したんです。入れ込んでいますね」
古代竜の力というのは人間の間では偉大と言われているし、強大でもある。
普段は彼等を作った神々によって力は抑えるに抑えられているがそれでも世界に与える影響は少なくはない。
人間にだって色々な影響を与えられる。ドラグーンになってしまえば、竜の力で空を飛んだり、鱗を身体にはやして攻撃を防御したり、吐息を武器に宿したりも出来る。
身体の時間を止めたり遅くしたりすることだって出来るが、それは周囲の時間から取り残されてしまうことだ。
だから古代竜は相手から許可を貰うが緑間は高尾に許可を貰っていないようだ。
「煩いのだよ」
「文句は言ってません。ボクは火神くんのところに行きます」
黒子は緑間から離れると火神の方へと行く。入れ違いに高尾が来た。
「真ちゃんの好きなものを作るからね」
「そうか……高尾……お前はここにいて幸せか?」
無意識のうちに緑間は聴いてしまった。
この都にはもう何も残っていない。緑間はただ残っているだけだ。
一人で居るのは慣れていたはずなのに、高尾と一緒に居ることに慣れてしまってからは一人で居るのが怖くなった。
しかし高尾が何時までも居てくれるとは限らない。
聴いた緑間に高尾が左腕を抱きしめるようにしがみついていた。
「すっごい、幸せだよ」
笑顔を見せる高尾を見て、緑間はある決意をした。
「……近いうちに……少しぐらい出ても神々やアイツは許してくれるか」
「どうしたの?」
「後で言う」
──近いうちに都を一度出よう。
ずっと都にいた緑間が決めたことだ。高尾と外に出れば、黒子や他に旅をしている者のように楽しめることがあるかも知れない。
世界の何処かにいるはずの他の二人に逢いに行くのも悪くはない。
何よりも。
高尾は都にいるよりも喜んでくれるはずだ。
そう想い緑間は数百年ぶりに都を出る決意をした。
【Fin】