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DOODLES

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The Boondock Dogs


 暗い、埃とヘドロのにおいにまみれた路地だった。しとしとと降り続けている雨がまるで気にならないような黒スーツの男は、その金髪をぐっしょりと雨に濡らしながらビルの小さな軒の下にトン、と背を凭れ掛けさせた。そのまま、ポケットから煙草を取り出す。
「……現場だぞ」
 彼の口元から昇った煙を見咎めた相棒の低い声が傍らから響いたが、サンジはそれを無視して煙を吸い込んだ。やや湿気った煙草の味は、普段よりも舌にねばっこく張り付くようだった。気道を押し分け肺に侵入してくる煙に、生気が解放されはじめたような気分を味わう。空間に満ち充ちている濃い血のにおいをかき消すべく、サンジは紫煙を吐き出し続けた。

 路地裏で女が死んでいる、と通報があったのは、今からおよそ一時間ほど前だった。急行した所轄の刑事たちの検分により、被害者がさる連続殺人事件の被害者と思しきことが発覚するとすぐさまそれは本庁の捜査一課に伝えられ、荒々しい刑事たちはパトカーに箱乗りになって現場へと赴いた。それだけならば、まったく定石通りの光景であった。
 赤色灯の光を撒き散らしながら路地裏へとたどり着いた刑事たちの目に真っ先に入ったのは、むごたらしく破壊を施された女の遺体でも、血の装飾を施された現場でもなかった。彼らと同じくどこか陰気なスーツに身を固め、しかしまるで野生の獣のごとき手のつけられないような鋭い色をその瞳に宿した、同業者の姿である。
「おい、特査がいったいここで何してやがる」
「こりゃどうも、一課の皆さんがた。遅い到着クソご苦労様です」
 ニヤリと不遜に笑った男は、黒いスーツに不釣合いな金色のやたらと派手な髪を雨に濡らしていた。白い手袋で無造作にその髪を掻きながら、自然な仕草でゆっくりと中指を立ててみせる。てめえ、といきり立った若い刑事を、一歩進み出た老齢の警部が諌めつつ金髪男に鋭い批難の視線を送った。
「管轄違いじゃねえのか」
「そりゃ俺じゃなくて犯人が決めるこった」
「屁理屈を……」
 眉間をこれでもかというほど顰めてみせるも、金髪男はそれをまるで意に介していない様子で軒下へと入った。そして、冒頭のごとく煙草を吸い始めたのである。
「こいつ、いい加減に……」
「……いい。放っとけ」
「しかし、警部!」
「ここまでグチャグチャの現場を、今更荒らせるもんでもあるめえ」
 そう言いながらも、警部――ゼフは、金髪男、サンジをじろりと横目でにらみつけ、不自由な右足を引きずりつつ黄色いテープを跨いだ。
「あんまり見境なく暴れるもんじゃねえぜ」
「クソみてえな忠告、どうも」
 フゥ、とサンジは雨の中に煙を吐き出す。ゼフはそれにやはり眉間を寄せたきりだったが、彼らの間には、なにやらその一瞬のやり取りですら濃厚に思われるような奇妙な関係があるようだった。
「警部、いいんですかあの野郎放っておいて……」
「いいから黙って現場調べろ」
「しかしですね」
「うるせえ! 下らねえこと言ってる暇があったら手がかりのひとつでも上げてみやがれ! それに……あいつは、」
 ひっそりと呟かれた最後の言葉に、え? と若い刑事は怪訝そうな表情を浮かべた。それをぎろりとにらむと、ゼフはほとんど動かないはずの右足でそいつの尻を蹴り付ける。黙って仕事しやがれ!
 ――あいつは、もう、どうにもならねえ。変わっちまったんだ、あの日から……。
 びちゃりと、ひときわ大きな雨粒が赤色の水溜りに跳ねた。



「待てよ……おい!」
 煙草を一本吸い終わると、サンジは一課の捜査を見届けることもなく現場を後にした。薄暗い路地に停まったパトカーを縫い分けるように、金色がスイスイと進んでいく。その後を追いかけ、サンジの新しい相棒、ロロノア・ゾロは小走りに駆けながら声を上げた。
「んだよ」
 ゾロの声に、サンジは心底嫌そうな顔をして立ち止まった。細身のスーツに包まれた長い足が、ゆっくりと停止する。
「……どうして、この現場に来た」
「捜査のために決まってんだろ」
「一課でもねえのに、か」
「知るか。刑事は刑事だろ。捜査して何が悪い」
「管轄違いじゃねえのかよ」
「言ったろ? それは、俺らじゃなくて犯人が決めるこった」
「……はぐらかすな!」
 珍しく声を荒げたゾロに、サンジはにやりといやみったらしい笑みを浮かべる。しかし何も口にすることはなく、そのままくるりとゾロに背を向けると、再び猫のようにスタスタと歩き始めてしまった。
「……おい! "あの事件"と、関係あるんだろ」
「だから、知らねえって。犯人に聞け」
「てめえはまた……」
 チクショウ、とゾロは塗れたアスファルトに唾を吐きつけた。忌々しい。


あとがき : タイトルは処刑人のパクリ。書き出しは気に入ってますが、本当にそれだけの話です。

作品名:DOODLES 作家名:ちよ子