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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 25

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 メガエラは左の剣を中段に、右の剣を上段に構えた。
「おお怖、こりゃメガエラさんからは離れて戦った方がよさそうや」
 アズールはふと、ユピターの方を見る。
「はああっ!」
 ユピターはすでに戦いを始めていた。
「やれやれ、敵と見れば容赦ないなあ、ユピターさんも……」
 アズールは身構えた。
「……さて、オレものんびりしてられんな。オレも借りは返させてもらうで……、十倍にしてな!」
 アズールは指先に水を滴らせ、横に一閃した。間髪入れることなく冷気を放ち、水を凍らせる事によって氷結した槍を作り出した。
「さあ、もう後悔しても遅いで? 消えてまえやぁ!」
 天界の三人の怨敵との戦いは、今まさに始まりを告げるのだった。
    ※※※
 アテカ大陸西に停泊したレムリアの船。
 翼を携えし船の一室に、デュラハンの急襲に倒れたロビンの遺体が安置されている。
 必ずやデュラハンを倒し、仲間達が帰ってきてくれる事を信じ、女が二人船に残っていた。
 ヒナとハモの二人が船に残り、ロビンの亡骸を守っていた。
 形式的な葬儀は執り行ってから他の仲間と別れたが、ヒナはその後もロビンの遺体の側にいた。
 デュラハンに斬られ、致命傷となった傷の周りの乾いた血を拭き取り、衣服も質素ながら清潔なものを身に着けさせた。
 そして今、ヒナは短い棒の先に綿を付けた物を手にし、それを水の汲んである小さな容器に綿を浸していた。
 綿にほどよく水を吸わせると、ヒナはそれをロビンの口元に塗った。すっかり乾ききったロビンの唇は、しっとりと水気を帯びた。
 ふと、船室のドアが開けられた。
「失礼します、ヒナさん」
 ハモがロビンの眠る船室へと入ってきた。手には果実と、小さな酒瓶がある。
「船の食糧庫から、ヒナさんのおっしゃっていた物を持ってまいりました。……とは言ったものの、ご注文通りとはいきませんでしたが……」
 ヒナがハモに持ってくるように頼んだのは、米と酒、そして果物であった。しかし、船の食糧庫にヒナが頼むような物などあるはずもなく、近隣の村であるギアナ村は壊滅させられてしまい、誰かから譲り受けることもできない。
 強力な瘴気で腐敗した村には食糧が残っているはずもなかった。
「ありがとう、まあ、足りないものや無いものはしょうがないわね。ロビンもきっと許してくれるでしょう……。そこに置いといてちょうだい」
 ヒナは、ハモの持ってきた果物や酒をテーブルに置かせ、例の綿を付けた棒でロビンの口を湿らせ続けた。
「あの、ヒナさん。つかぬことをお伺いしますが、それは一体何をしていらっしゃるのですか?」
 ヒナのやっていることは、ハモには全く見慣れないものだった。まるで死人の口をこじ開け、棒の先の綿を飲ませて喉に詰まらせる事で、以後絶対に目覚めないようにしているように、ハモには見えてしまっていた。
「ああ、これ? やっぱりイズモ村の外ではあんまりやらないか。これは、死に水を取ってあげてるのよ」
「死に水、ですか?」
「末期の水ともいうんだけど、要は死んだ人がこの先でのどが渇かないように水をあげてるの」
 ハモの文化での葬儀では、おおよそ考えもつかない行為である。
 しかし、死者に対するねぎらいの気持ちはよく分かった。
 死後の世界、それは天界という神々が統治する世界であるが、そこまでの旅路はまた長いものとなるであろう。渇きの辛さを死してなおその者にさせない心配りは、とても素晴らしいものだとハモは思う。同時に妙な邪推をしてしまった自分を恥ずかしく思ってしまう。
「イズモ村の方々は優しいのですね」
「そう思う? だったら嬉しいわね。あたしは曲がりなりにも巫女。あたしなりにロビンを手厚く葬るつもりよ。ハモ、お供え物は持ってきてくれた?」
 ハモが頼まれた供え物とは、果物に米、同じく米で作られた酒であったが、そのどれも用意することはできなかった。
 供え物に近い物は、果物類と料理酒しかなかった。
「ごめんなさい、ハモさん……」
「うーん、いや、気にしないで。あたしもそんな都合よくあるとは思ってなかったし、ロビンだってきっと許してくれるわ」
 ヒナが手を差し出してきたので、ハモは持ってきた果実と安酒を手渡した。
 そしてヒナは、簡易的に作った儀式用の棚にそれらを置く。
「さて、月並みだけど、祝詞を奏上させてもらうわね」
 ヒナは耳慣れない言葉を口にした。
「のり、と? そう、じょう……?」
「まあ、分からないわよね。祝詞っていうのは、言ってみればおまじないみたいなものよ。あたしの村では葬儀で神職、あたしみたいな人が唱えるの。讃美歌にちょっと近いかもしれないわね」
 ハモは讃美歌ならば分かった。他にも死者に対して唱えるものとして読経も知っている。一時期ハモはアンガラ大陸中部の寺院にいたことがあったからである。
「あら、意外だったわね、ハモがお経を知っているなんて。知ってるなら、そっちの方が例えとして分かりやすかったかしらね?」
 ヒナは棚を隔てたロビンの遺体に向き直る。
「まあ、宗派が違うでしょうけど、あたしの中じゃあ、死は穢れなの。死者を穢れに満たして放っておくのは辛抱ならなくてね。ロビンには綺麗になって逝ってほしい。そんなことを考えてこんなものをこしらえたの」
 死者の新たな旅立ちを、死者を綺麗にしてから送る。ハモは、ヒナの信仰するものはとても素晴らしいものだと思った。
「あの、ヒナさん。私もその祝詞というもの、一緒に唱えてもいいですか?」
 ハモの急な願いに、ヒナは一瞬戸惑った。ヒナはこれまで何度か神職として葬儀を執り行ったことがあるが、祝詞を奏上する参列者はいなかったからである。
 しかし、あくまでいなかっただけであり、特に禁じられているということもない。八百万の神様もお許しになると考え、ヒナは奏上を許可した。
「分かったわ。二人で奏上すれば、ロビンの穢れは綺麗さっぱりなくなるでしょう。それじゃあゆっくりと奏上するから、ハモはあたしの後に復唱して」
「はい」
「それじゃあ始めましょう……」
 ヒナは二、三回軽く咳払いをした後、祝詞の奏上を始める。
「天津神国津神……」
「あまつかみくにつかみ……」
「八百万の神達共に聞こ示せと畏み畏み……、えっ!?」
 ヒナは何かに驚き祝詞を止めてしまった。
「や、をよろ、ずの……」
 ヒナの驚く声も祝詞の一部かと思うハモは復唱し続ける。
「ちょっと待ってハモ、あれを見て!」
 ヒナの驚きは尋常ではなかった。ハモも見てみると、目の前では信じられない現象が起きていた。
「これは、ロビンの体が!?」
 ロビンの骸が、紫色の光に包まれていた。それを見てヒナはあの現象を予感する。
「そんな、ロビンはもう死んだはずなのに……!?」
 紫色の光はロビンを包むだけに至らなかった。
 光はどんどん広がり、ヒナ達までも包まれていく。
「いけない、ハモ、あなただけでも逃げて!」
「どうして……!?」
「ロビンが復活するかもしれないの、狂戦士として。実力はデュラハンと同じかそれ以上。今やつが現れたらあたし達に勝ち目はないわ! とにかくここから離れ……」
「ロビンが復活……? そんな、ううっ!」