黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 25
ガルシアの魔術は無事に成功した。対象を定めてはいないため、仲間が吸い込まれていくような事はなかったが、ガルシアは万が一の事故が起きる前に魔術を停止した。
『クロスアウト』
死神の竜巻を無事発動させ、ガルシアはカロンとの融合を解いた。骨の翼は消え、緋色に変わったガウンも元の白に戻る。
ガルシアは、カロンの力を使いこなすため、彼が課した関門を見事に突破できた。
不意に、どこからかカロンの声がした。
ーーよくやったの。わしの出す試練を全て成し遂げるとは、人間にしておくのがもったいないくらいじゃよ。よろしい、これより先、わしは主の力の一部じゃ。わしの力を使いこなし、デュラハンをも討ち取れると信じておるぞ……ーー
カロンの声は止んだ。
「カロンの力、か……」
ガルシアは黒い魔導書を開き、カロンのページを開いた。
ページを開くだけで感じられるカロンの力は、他の召喚魔と段違いである。
死神の王であるタナトスさえも足元に及ばない。そんな召喚魔の力を使える事にも、最初は実感がわかなかったものだったが、カロンの力は圧倒的で、彼の出した試練を乗り越えて、その上彼の魔術を発動できたことも、ガルシアは信じられなかった。
「大したものね、ガルシア」
メガエラの声に、呆けていたガルシアは我に帰った。
「私は魔術の類は得意じゃないけど、そんな私でもあれの魔力はよく分かるわ。けど、いい気になってはだめよ。デュラハンに通用するかどうかは分からないから」
メガエラらしい言葉だった。恐らく褒めてくれているのであろうが、それにしては素直さがない。
「メガエラさんが褒めたやと……? しかも魔力を……!?」
アズールは大袈裟なまでに驚いた。
メガエラが他者の剣の扱い、武を褒めるだけでも十分驚くべきことであるが、まさか魔力を褒めようとは思わなかったのだ。
「これは、やっぱり世界が終わるんとちゃうか……」
「……本当に失礼な水竜ね。私も女神の端くれ、エナジーや魔術だって分かるわよ」
怒る気も失せたのか、メガエラはため息をつきながら言うだけだった。
「……私も失礼を承知の上で申し上げよう。よもやメガエラ殿がそこまで魔術を見る目をお持ちだとは……」
ユピターも驚きを告白する。
「……はぁ、あなた達、この戦いが終わったら覚悟しておきなさい。数々の私への侮辱、かならず復讐してあげるわ。そんなことよりもガルシア、先を急ぎましょう。ロビンの仇を討って、シバって子を助けたいんでしょ?」
忘れていたわけではないが、ガルシアは改めて本来の目的を思い出す。
デュラハンの不意打ちに倒れたロビンの仇を討ち、デュラハンに浚われた仲間を助け出す。そのためには、ここでいつまでも立ち止まっているわけにはいかない。
「皆、行こう。ロビンの無念は必ず晴らすのだ!」
ガルシア達は頷き合った。
「行くぞ!」
ガルシアの号令と同時に、一同は神殿の奧へと足を踏み入れるのだった。
カロンのいた部屋の奥を進み、長い回廊を行くと、再び大きな部屋についた。そこにはやはり、ガルシア達を足止めするものの存在があった。
「こいつらは……!」
ガルシアだけでなく仲間達も驚きを見せる。
部屋にいたのは、三体の謎の存在である。しかし、ガルシア達の記憶には新しい。
群青色のローブを身に纏い、つばの広い三角帽子を被り、横からはカールのかかったプラチナ色の髪を垂らす、魔法使い風の女が一人。
その隣にいるのは、赤黒い肌で筋肉隆々としている、様々な魔物を足したような姿をし、手には見るからに重そうな槌を持っている魔獣。
この二体だけは、忘れられるはずのない。スターマジシャン、シレーネとビーストサマナー、バルログに違いなかった。
しかし、残る一人だけは分からない。
血濡れていつしか焦げ茶色になったサーベルを担ぎ、痩躯でくしゃくしゃの髪の、狂人という言葉がいかにも似合う男がそこにいた。
一人だけ何者か分からないが、残る二人は倒したはずのシレーネとバルログに違いなかった。
「こいつら、生きていたのか!?」
「待て、やつら様子が変だぞ」
シンの言う通り、行く手を阻む三人組は、明らかにおかしかった。
一言も言葉を発することなく、肌つやもよくない。その様子はさながらただの人形のようであった。
かつて敵対した者の復活にうろたえていると、謎の三体は動きだし、攻撃してきた。
「危ない、下がりなさい!」
メガエラが危機を察知し、両手に剣を出現させ、ガルシア達を押し退け立ちはだかった。
メガエラに続くように、アズールとユピターも前に出る。
「こいつら……、どうやらデュラハンが無理矢理復活させたみたいやな」
「敵とはいえ死者を冒涜するとは、デュラハン、許すまじ!」
「あら、復讐するにはちょうどいいじゃない。こいつらにはたんまりと借りがあるんだから……!」
メガエラ達は、それぞれ相手にした敵を押して下がらせた。
「ガルシア、ジャスミン、さっさと行きなさい。私達はこの傀儡どもに借りを返すわ」
「メガエラ、何を言って……!?」
「今回ばっかりはメガエラさんに賛成するわ。オレら、こいつらにたっぷりと礼せなあかんからな」
「右に同じだ」
アズールとユピターも戦闘態勢になっている。
「ちょっと待て、お前達だけでここを凌ぐつもりか!?」
シンは叫ぶ。
「そうですよ、戦力を分散させたら、デュラハンの思う壺です!」
ピカードもここでの散開は無謀だとした。
「はよ行くんや!」
アズールが語気を強めて叫んだ。
「ここで全員で戦ったら、デュラハンの所に着く頃にゃ、余計な消耗してまう。ここはオレらに任せて行くんや!」
「アズール……!」
「安心されよ、ピカード殿。すぐに片付けて我らも追い付く。デュラハンの足止めを頼みたい」
「皆、ここは彼らに任せよう」
仲間同士意見がわかれ、どうにもならない状況下に一石を投じたのはガルシアである。
「ガルシア、本気か!?」
「兄さん、メガエラ達を見捨てるつもりなの!?」
ジェラルド、ジャスミンから反感を買うものの、ガルシアは本心を告げる。
「逆だ、俺は三人を信じる。かならずや敵を討ち、後からやって来てくれるとな。俺達にできることは、この先のデュラハンを少しでも消耗させることだ」
メガエラは不敵に笑う。
「分かってるじゃない、ガルシア。こんな奴ら私達の敵じゃないわ。デュラハンに刃を向ける一番を譲ってあげるのよ、ありがたく思いなさい」
メガエラはバルログの幻影へと刃を向ける。
「さあ来なさい、傀儡。この復讐の女神、メガエラが今度こそ消し炭も残さず消し去ってあげるわ!」
「ほんに血の気が濃い女神さんやな。ならオレはシレーネの成れの果てをやったるで!」
「ならば私はあの剣士を……」
アズールとユピターも標的を定めた。
「頼んだぞ、皆! さあ、俺達は先に進むぞ、続け!」
「ガルシアっ!?」
「待ってよ兄さん!」
ガルシアが駆け出してしまい、天界の女神と神子を除く皆は後に付いていくしかなかった。
「……行ったようやな。これで周りを気にせんで戦えるわ。なあ、メガエラさん?」
「話しかけないでちょうだい。うっかり斬っちゃっても知らないわよ」
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 25 作家名:綾田宗