ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第11話
・・・・・・・・・・その夜、ボクは夢を見た。
どこかの地下通路みたいなところを、ひとりでひたすら進んでいく夢。
どこまでも続く、寒くて薄暗いその道をいつまでもいつまでも・・・・・・・・・・。
どんなに進んでも、出口が見えてくる気配はない。
永遠に続くのではないかと思うほど長かった。
しかしその通路は突然、行き止まりになる。
・・・その壁には・・・・・・・・・・・血で真っ赤に染まって、見るにも堪えない苦悶に歪んだ表情のムーンが・・・いや、ムーンの顔が。
釘のようなもので壁に打ち付けられている。
輪郭に沿って、何十本もの釘で壁に貼り付けられている・・・。
その周りには2本ずつの手足と胴体がバラバラに、同じように打ち付けてある。
・・・・・・・そんな光景を目の前にしても、ボクは膝を折って座り込んだりなんかしなかった。
泣きじゃくって大声を上げるなんてこともしなかった。
ただただ、静かにムーンの目を見つめていた。
涙なんて出てくるはずもなかった。
・・・・・・・・・・・ボクは、どうしてこんな無残な姿のムーンを見ているんだろう?
どうしてムーンがこんなふうになってると思うんだろう?
ムーンが死んだとわかったとき、悲しみすぎて頭がどうにかなってしまったんだろうか。
それとも、これがムーンの最期の姿だったとでも言うのか・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・あ・・?
―――本当に知りたいのなら教えてやるさ。ただ、もう少し時間が経ってから・・・な
・・・・・・・・・・・・・・そっか、そういうことか。
さっきまでのあの地下通路は、ボクにムーンの死んだ姿を見る覚悟が本当にあるかを試すためだったんだ。
そしてなんでこんなことになったのかも、いずれ・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
――――――
――――
――
―
━─━─第十一話 Undermine
4日目 11時31分 ―エイト―
僕たちはあの後、悲しみに暮れながら屋敷を後にすることとなった。
もう玄関扉は開かないので、どこか他の場所へ移動するしかない。
・・・・・・仲間が死んだのは悲しいことだ、とても。
そんなに頻繁に話したわけでもないけど、ムーンさんは・・・・・・
・・・・・・・。・・・何の罪もない人だったろうに。
どうして命を落とさねばならなかったのか・・・・・・・・・・・・・。
一体、屋敷の中で何があったのか。
レックさんは、何も訊ねても一向にこれといった答えを出してくれない。
曖昧に相槌を打ったり、適当に話をすり替えたりして、彼女の死については何も喋ろうとしなかった。
彼はきっと、ムーンさんの死に様を目の当たりにしたに違いない。
・・ショックが大きすぎたのだろう。このせいで戦闘に影響が出なければ良いのだけど。
ソロさんは最初からあてにしていない。・・どっちかと言うと彼にはあまり関わりたくないのだ。声をかけたくない。
だから唯一まともに答えてくれそうなロトさんに訊いてみたのだけど・・・
なぜか怪訝そうな顔をされた。
今するべき質問じゃないだろうともっともなことを言い、やはり何も教えてはくれなかった。
確かに少しばかり不謹慎だと自覚してはいる。
でも、知っておかなければならないはずだ、仲間として。
もう少し時間が経ってショックが薄れてから・・・というのなら頷けるが・・
あの様子だと、たとえこのゲームが終わっても話してはくれないだろう。
一体、なぜ?
話さないということは、話してはまずいことになるからだ。
ゲームの進行に支障が出ると踏んでいるのだろう、でもどうして話すとゲームが動きづらくなるんだ?
可能性が高そうなのは仲間が分裂してしまうことだ。心が離れてしまっては、このゲームがうまくいくはずもない。表面だけの協力でことが成功したためしはないのだから。
真実を明かすと、仲間が瓦解する恐れのあること。
それはすなわち・・・・・・・・・・・
ムーンさんが誰かに殺されたという真実。
あの3人のうちの誰かに。
・・・・・・・そうでなければありえない。あの3人以外は、間違いなく屋敷の外にいたのだから。
トラップや事故でというなら、あれほどまでに言うのを渋る理由もないだろう。
しかしあんなにあからさまにしていては・・・みんな気付いてしまうはずだ。僕のように。
それでは結局僕たちはどうなるのか。
いずれ、誰かが追求を始めるだろう。彼らだって僕らと共に生き残ろうとしている以上、話さなければならなくなる時が来る。
仲間が1人死んだのだから。
人の命が、失われたのだから・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・そう言えば・・・・・・・・・。
僕は自分に起きている、ある異変に気付いた。
ムーンさんが、共に生き残るはずだった仲間が死んだのはとても悔しく、悲しいことだ。
それは充分わかっている、悲しんでもいる。
なのに・・・・・・・・・・・・・
心が動かない。
悲しいと思っているのに、いつもはそう思うと流れてくるはずの涙も、あの胸が重くなって何もしようと思えなくなる感覚も・・・・・・訪れない。
「悲しい」とは思っていても、胸の奥のほうにある核のような何かは・・いつもと何ら変わらずにそこにあるのだ。
精神的な疲労で一時的に感情が麻痺しているんだろうかとも思った・・・・・だけど、それは違う。
泣き疲れて意識を失ったサマル君を見て、わかってしまった。
僕はムーンさんの死を心から悲しんでなどいない。
むしろ心のどこかでは、プレイヤーが死んだことでゲームがちゃんと進んでいるのだと判断し、安心さえ・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・おかしい、どうしてだ・・・?
世界を救うために旅をしていた頃の感情が戻ってこない。
人の死を純粋に悲しむことができない。
こんなのおかしいじゃないか・・・・・・まるで・・・まるで・・・・
人の命の重さを忘れてしまったみたいに・・・・・・――
長い旅を経て心に刻み込んだ命の大切さ、守るために戦うことの尊さが・・・。
・・・・・・・・・・・・・理解できなくなっている・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・僕は・・・・・僕は、・・・・・・どうして・・・・・・・・・・?
・・・・・・・・・・・・・いや、違う。きっと疲れてるだけだ。やっぱりこんな状況のせいで心に悲しむ余裕がないんだ・・・そうに決まっている。
そうだ、だからこんなふうに不安になるんだ。僕は人の命がどんなに重いかちゃんと理解している。当たり前じゃないか。
・・・・・・心なしか呼吸が早くなってきている気がする。
心臓の鼓動が早まる。
ああ、どうしてだ。なんでこんなに不安になるんだ・・・・・
・・・・・・・・僕はこんなに心の弱い人間だっただろうか・・・・?
・・・・違う、・・違う・・・・・・・・・・!
僕は・・・・・・・弱くなんかない。
実際に死を目の当たりにして、少し動揺してるだけだ。大丈夫だ・・・・・ほら、涙だって出てきたじゃないか。・・・ははは、僕は悲しんでる、ムーンさんの死をちゃんと悲しんでる・・・・・・・・・・・。
大丈夫だ・・・・・・・・・・・・・・・・・。
どこかの地下通路みたいなところを、ひとりでひたすら進んでいく夢。
どこまでも続く、寒くて薄暗いその道をいつまでもいつまでも・・・・・・・・・・。
どんなに進んでも、出口が見えてくる気配はない。
永遠に続くのではないかと思うほど長かった。
しかしその通路は突然、行き止まりになる。
・・・その壁には・・・・・・・・・・・血で真っ赤に染まって、見るにも堪えない苦悶に歪んだ表情のムーンが・・・いや、ムーンの顔が。
釘のようなもので壁に打ち付けられている。
輪郭に沿って、何十本もの釘で壁に貼り付けられている・・・。
その周りには2本ずつの手足と胴体がバラバラに、同じように打ち付けてある。
・・・・・・・そんな光景を目の前にしても、ボクは膝を折って座り込んだりなんかしなかった。
泣きじゃくって大声を上げるなんてこともしなかった。
ただただ、静かにムーンの目を見つめていた。
涙なんて出てくるはずもなかった。
・・・・・・・・・・・ボクは、どうしてこんな無残な姿のムーンを見ているんだろう?
どうしてムーンがこんなふうになってると思うんだろう?
ムーンが死んだとわかったとき、悲しみすぎて頭がどうにかなってしまったんだろうか。
それとも、これがムーンの最期の姿だったとでも言うのか・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・あ・・?
―――本当に知りたいのなら教えてやるさ。ただ、もう少し時間が経ってから・・・な
・・・・・・・・・・・・・・そっか、そういうことか。
さっきまでのあの地下通路は、ボクにムーンの死んだ姿を見る覚悟が本当にあるかを試すためだったんだ。
そしてなんでこんなことになったのかも、いずれ・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
――――――
――――
――
―
━─━─第十一話 Undermine
4日目 11時31分 ―エイト―
僕たちはあの後、悲しみに暮れながら屋敷を後にすることとなった。
もう玄関扉は開かないので、どこか他の場所へ移動するしかない。
・・・・・・仲間が死んだのは悲しいことだ、とても。
そんなに頻繁に話したわけでもないけど、ムーンさんは・・・・・・
・・・・・・・。・・・何の罪もない人だったろうに。
どうして命を落とさねばならなかったのか・・・・・・・・・・・・・。
一体、屋敷の中で何があったのか。
レックさんは、何も訊ねても一向にこれといった答えを出してくれない。
曖昧に相槌を打ったり、適当に話をすり替えたりして、彼女の死については何も喋ろうとしなかった。
彼はきっと、ムーンさんの死に様を目の当たりにしたに違いない。
・・ショックが大きすぎたのだろう。このせいで戦闘に影響が出なければ良いのだけど。
ソロさんは最初からあてにしていない。・・どっちかと言うと彼にはあまり関わりたくないのだ。声をかけたくない。
だから唯一まともに答えてくれそうなロトさんに訊いてみたのだけど・・・
なぜか怪訝そうな顔をされた。
今するべき質問じゃないだろうともっともなことを言い、やはり何も教えてはくれなかった。
確かに少しばかり不謹慎だと自覚してはいる。
でも、知っておかなければならないはずだ、仲間として。
もう少し時間が経ってショックが薄れてから・・・というのなら頷けるが・・
あの様子だと、たとえこのゲームが終わっても話してはくれないだろう。
一体、なぜ?
話さないということは、話してはまずいことになるからだ。
ゲームの進行に支障が出ると踏んでいるのだろう、でもどうして話すとゲームが動きづらくなるんだ?
可能性が高そうなのは仲間が分裂してしまうことだ。心が離れてしまっては、このゲームがうまくいくはずもない。表面だけの協力でことが成功したためしはないのだから。
真実を明かすと、仲間が瓦解する恐れのあること。
それはすなわち・・・・・・・・・・・
ムーンさんが誰かに殺されたという真実。
あの3人のうちの誰かに。
・・・・・・・そうでなければありえない。あの3人以外は、間違いなく屋敷の外にいたのだから。
トラップや事故でというなら、あれほどまでに言うのを渋る理由もないだろう。
しかしあんなにあからさまにしていては・・・みんな気付いてしまうはずだ。僕のように。
それでは結局僕たちはどうなるのか。
いずれ、誰かが追求を始めるだろう。彼らだって僕らと共に生き残ろうとしている以上、話さなければならなくなる時が来る。
仲間が1人死んだのだから。
人の命が、失われたのだから・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・そう言えば・・・・・・・・・。
僕は自分に起きている、ある異変に気付いた。
ムーンさんが、共に生き残るはずだった仲間が死んだのはとても悔しく、悲しいことだ。
それは充分わかっている、悲しんでもいる。
なのに・・・・・・・・・・・・・
心が動かない。
悲しいと思っているのに、いつもはそう思うと流れてくるはずの涙も、あの胸が重くなって何もしようと思えなくなる感覚も・・・・・・訪れない。
「悲しい」とは思っていても、胸の奥のほうにある核のような何かは・・いつもと何ら変わらずにそこにあるのだ。
精神的な疲労で一時的に感情が麻痺しているんだろうかとも思った・・・・・だけど、それは違う。
泣き疲れて意識を失ったサマル君を見て、わかってしまった。
僕はムーンさんの死を心から悲しんでなどいない。
むしろ心のどこかでは、プレイヤーが死んだことでゲームがちゃんと進んでいるのだと判断し、安心さえ・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・おかしい、どうしてだ・・・?
世界を救うために旅をしていた頃の感情が戻ってこない。
人の死を純粋に悲しむことができない。
こんなのおかしいじゃないか・・・・・・まるで・・・まるで・・・・
人の命の重さを忘れてしまったみたいに・・・・・・――
長い旅を経て心に刻み込んだ命の大切さ、守るために戦うことの尊さが・・・。
・・・・・・・・・・・・・理解できなくなっている・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・僕は・・・・・僕は、・・・・・・どうして・・・・・・・・・・?
・・・・・・・・・・・・・いや、違う。きっと疲れてるだけだ。やっぱりこんな状況のせいで心に悲しむ余裕がないんだ・・・そうに決まっている。
そうだ、だからこんなふうに不安になるんだ。僕は人の命がどんなに重いかちゃんと理解している。当たり前じゃないか。
・・・・・・心なしか呼吸が早くなってきている気がする。
心臓の鼓動が早まる。
ああ、どうしてだ。なんでこんなに不安になるんだ・・・・・
・・・・・・・・僕はこんなに心の弱い人間だっただろうか・・・・?
・・・・違う、・・違う・・・・・・・・・・!
僕は・・・・・・・弱くなんかない。
実際に死を目の当たりにして、少し動揺してるだけだ。大丈夫だ・・・・・ほら、涙だって出てきたじゃないか。・・・ははは、僕は悲しんでる、ムーンさんの死をちゃんと悲しんでる・・・・・・・・・・・。
大丈夫だ・・・・・・・・・・・・・・・・・。