ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第11話
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・・・・・・・・たどり着いたのは、あの屋敷をひとまわり小さくして色遣いを変えたような屋敷だった。
これまでにはなかったものだと全員が頷いた。
ここが新しい拠点になるのだろう。
・・・・・・・・中は、前に比べたらこじんまりとした西洋造りの部屋だった。
広い玄関ホールやシャンデリア、赤いカーペットつきの階段などといった仰々しいものはなく、シンプルなリビングルームとそれぞれの寝室など、それとあまり広くはない吹き抜けの2階があるだけだった。
1階のリビングの奥のほうには背の高い本棚がずらりと威圧感を放っており、閲覧用の机と椅子がいくつか並べられている。
机の隅には羽根ペンとインクも置いてあった。
・・・・・・・・・・ムーンさんが死んだ途端に現れたこの屋敷。
ゲームの進行条件に死者の有無や数は含まれないんじゃなかったのか・・・・?
・・いや・・・偶然だろう。たまたまタイミングがあっただけ。そうだ。
屋敷に入ると、一番最初に目に入ったのはやはりあの本棚群だった。
・・僕は吸い寄せられるようにそれらに近づいていった。
別に本が読みたいわけじゃないのに、なぜだろう。
・・・・暫くの間、何をするでもなく本棚を眺めて回った。
・・10分くらいそうしていただろうか。ふと、ある1冊の本に目が止まった。
くすんだ紺色の革の表紙。他の本と違ってまだ人の手に取られたことがないかのような、小さな傷ひとつない新品の本だった。
手に取ってみる。
・・表紙には、堅い文字で「見捨てられた異端児たち」と書かれていた。
・・・・・・・・・・・・・・最初は、世界に存在する様々な生物と人間を対比した記録を綴ったものなのだと思った。
それぞれの特性や生態に関する論文のような文章が長々と書かれていたからだ。
しかし、半分位を過ぎると内容は徐々に変化しだした。
それらの生物と、人間の間に生まれた生命についての研究や、その特性を調べ上げて記したものに・・・。
中には、自然にはありえないような新生物や魔物との交わりなど、人工的にそういった生物を生み出したという記録もある。
・・・吐き気がした。
それを見ていたくなくて、思わず何ページも飛ばしてしまった。
・・するとそのページには、竜神族に関する研究記録が載っていた。
一瞬、体が固まった。
・・・僕は自分が竜神族と人間のハーフであることを、まだ誰にも言っていない。
そしてまだ誰にも言う気はない。
どうして今この瞬間、狙ったようにこのページを開いたのだろう・・・・?
これも偶然だと言うのか。
『竜神族:竜と人の2つの体を持つ長寿の種族。外見はほぼヒトと変わりないが耳に当たる部分が竜のヒレのような形状をしている。随意に竜の姿になることができるようだが、そのメカニズムは解明されていない。ヒトと非常によく似た感情性や理性を持ち、ヒトと共通の言語を多用する。各々の神に対する信仰心が厚いことでも知られている。
本来はヒトとは関わることのない種族だが、我々の実験以外でも自然にヒトとの混血が誕生したケースが何件か報告されている』
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
『混血種:一般に、竜との混血を示すミクスタクム・ディーレ(MA.d)と呼ばれている。
また、血液の濃度により混血種の外見が変化することもわかっている。このデータは細胞採取からの血液濃度操作実験による賜物で、自然のものを観察するだけでは得られなかったものである。混血種にはヒトの細胞を摂取させることで、外見を完璧な人間に近いものにすることができる』
・・・・・・・・この本はおそらく、僕らの生きる世界とは違う次元のものなのだろう。
挿絵はよくわからない機械や道具、聞いたこともない―おそらく薬物のものと思われる―名前、身体の部位の名称などがびっしりと書かれた意味不明なものばかりだ。
この本の著者は研究の成果や実験の結果を、このようにして綴って・・・一体何に使うつもりだったのだろうか?
読めば読むほど気分が悪くなってくる。
次のページを開いた。
『・天に生きる者との混血
飛燕竜や神に近い生物とヒトを交わらせることは不可能であった。
そこで、比較的ヒトに近い姿をしており、地上からの高度もさほどない空域に住む者との生成を試みたところ、驚くべき発見があった。
天空人:天使の如き翼と卓越した寿命を持つ種族。ヒトの背中に翼をつけたような姿をしており、浮遊及び飛行が可能。限られた一部の者はヒトとは比べ物にならない知力を持つと言われている。一昔前まではオリジナルの言語を使用していたが現在はヒトと共通であるようだ。
混血種:一般に、天の者との混血を示すミクストム・ヒズ・カエリ(MThK)と呼ばれる。
血液の濃さによって外見が変化することはあるが、翼によって浮遊・飛行するなどの能力は備わらない。が、MA.d同様ヒトの何十倍もの寿命を持つ。
しかし、特殊な例によりその特性は大きく変化することがわかった。
一部の卓越した頭脳を持つ者との混血を試みたところ、突然変異種が誕生することがわかった。
突然変異種:ミクスタ・メティクローサ(MT.kWS)
“恐るべき混血”を意味するこの学名は、実際にそれを目にした生物学者が名づけたものである。
彼らは』
ソロ「よう。何の本読んでるんだ?」
エイト「!!」
反射的に本を閉じてしまった。
エイト「・・ぁ・・・ああ、ソロさん・・・・・。
いえ、これは・・・・・・」
少し考えてから、
エイト「・・生物学の本ですよ。僕にはあまりよくわかりませんでしたが」
笑顔を作って言った。
ソロ「ふうん・・・」
・・・・・・なんでいきなり僕に話しかけてきたんだ?
何か用があるのか?
ソロ「調度いい。ちょっと貸してくれないか?その本。調べ物をしてるんだ」
エイト「ええ、いいですよ」
本を手渡すと、軽く礼を言って向こうに歩いて行った。
・・・・・・・・最初からこの本を取りに来たとしか思えなかった。
どうせ僕が何の本を読んでるかわかってたんだろうが・・・・・・・・・・。
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4日目 14時22分 ―レック―
突然、ソロがみんなをリビングに集めた。
重要な話があるとのことらしいが・・・・・・・・・
アレフ「明日・・・ですか」
アベル「平気なのかい?随分調子が悪かったみたいだけど・・」
サマル「うん。・・もう大丈夫」
アレン「・・・・・・・・・。」
ソロ「まあ、始まったら体調がどうのこうのなんて言ってられないから安心しろ」
少し嫌味気味にソロが言う。
アレン「そんなに強い魔物と戦うのか?」
ソロ「いいや、魔物じゃない。そうだな・・・強いて言うなら“自分自身の恐怖”との戦いか」
アルス「ねえ、一体何があるの?」
ソロ「それは今言っても何にもならん」
初日からその存在がほのめかされていた、「トライアングルの中心」。
ソロは明日、全員でそれに挑むことを提案したのだ。
武器や道具は何も持っていかなくていいらしいが、一体何をするって言うんだ?
ソロ「・・言わないほうがうまく進むんでな」