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伝説の超ニート トロもず
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ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第12話

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嫉妬    恐怖    驚愕    激昂    絶望 


この5つの感情こそ、究極の進化を得る第一歩となるのだ。
ヒトとは不思議な生き物で、このように負の感情を持てば持つほど強くなり、それを乗り越えるべく努力するため力を持つようになる。

ではヒト以外ではどうか。

憧心    歓喜     愛情    慈悲    悦楽

正反対の感情を対比した結果、つまりはどれも似たようなものなのだ。

MT.kWSとは進化を極めたる生物の真骨頂と言える。
弱きものと強きものとの格差を知らしめ、弱者の魂と肉を糧として生きるのが当然の権利とされる強者――この世で唯一、王者の資格を持つ生物と言っても過言ではないだろう。

これまで、おこがましくも食物連鎖の頂点に立ち、“この世で最も優れた生物”を名乗り続けてきた我々ニンゲンは・・・・・・

今こそ真の意味で本来の姿を取り戻し、傲慢を慎み、ひれ伏すべきではないのだろうか。


─────────── MT.kWS(ミクスタ・メティクローサ)提案・著作・創作者、調合生物学人間科教授 ヴィンセント・E・スワードソン氏の論文より




━─━─第十二話  Deep sea





5日目 02時39分 ―レック―

ロベルタ「わかってるだろうけど、この体はもともと僕のだったんだ。お兄ちゃんは僕が兄になるはずだったって言ったんだろうけど、ちょっと違う。お兄ちゃんが自分でそういうふうに思いたくて思い込んだだけなんだよ」

レック「つまりその体で最初に生まれてきたのはお前で、もうひとりの兄弟なんて最初からいなかった・・・そうなんだろ?」

ロベルタ「そう。僕は普通にこの体で生まれてきた。その時はお兄ちゃんなんていなかったし、現実的には今もいないんだよね。ただ、マスタードラゴン様から命令があったの」

レック「地上に降りろ・・・と?」

ロベルタ「うん。なんとかっていう地獄の帝王が復活したから、人間の血を引くお前が地上に降りて倒してこいって。でもその時は・・・」

レック「ちょっと待て。人間の血を引いてるってどういうことだ?」

ロベルタ「あれ?お兄ちゃんこのことも話してなかったんだ・・・。あのね、僕は人間と天空人の混血なの。お父さんは人間で、お母さんは天空人。・・お母さんはお城でも有名な学者だったんだけど、どういうわけか地上に憧れるようになって、掟を破って降りてきちゃったんだ。それで生まれたのが僕なんだけどね・・・」

レック「・・・そうだったのか・・・あいつ、本当に何も言ってくれなかったな・・・」

オレたちは、あいつに信用されてないんじゃないのか・・・?

ロベルタ「もともとそういう性格なだけだと思うよ。僕は違うけどね」

・・・・・・・・・。

ロベルタ「・・・で、僕は地上に降りることになったんだけど、その時にね・・」

少し視線を泳がせ、ロベルタは少し笑って言った。

ロベルタ「マスタードラゴン様が、地上で生きるときに都合が悪いからって・・僕のそれまでの記憶を消して新しい“人間”にしたんだ。それで作られたのがお兄ちゃんだった。
ソロっていう名前の、地上の隔離された村で育った17歳の人間。
地上で人間たちと静かに暮らしていた・・・
その時僕は事実上、消えてなくなった」

レック「生きたまま転生したようなもんか・・・」

ロベルタ「そう言うとわかりやすいかもね。でもちょっと違うかな・・・お兄ちゃんは、僕という人間の体に植えつけられた意識体のひとつに過ぎないってこと。
お兄ちゃんは地上世界を救う「勇者」として生まれたわけだから、当然そのままの暮らしは続かなかった。
確かピサロって言ったかな・・・お兄ちゃんの居場所を突き止めた魔族の王が、魔物たちを連れてお兄ちゃんを殺しに来たんだ。
その時お兄ちゃんはまだ何も知らなくて、いくら勇者って言われてても実戦経験があるわけでもないし役には立たなかったんだろうけど・・・村の人たちが、勇者を死なせるわけにはいかないってお兄ちゃんを簡単には見つからない場所に隠した。幼馴染だったシンシアって言う人が身代わりになって死んだことでとりあえずお兄ちゃんは助かったんだけど・・」

レック「・・・・・・シンシアさんが・・・そうか・・・そういうことだったのか・・」

ロベルタ「まあ普通の人間が王の側近の魔物たちと渡り合えるわけがないから、村の人はひとり残らず死んじゃった。今まで自分の親だって当たり前に信じてた人たちからも、お前は本当の息子じゃないんだとか言われて、わけもわからないうちにその状態だからね・・・相当ショックだったんじゃないかな。
・・・それで・・運が悪かったのか何かわからないけど、多分人間として育ったからあんまり頭が良くなかったんだと思う。お兄ちゃん、馬鹿だよね。そのまま隠れてればいいのに出てきちゃったの」

・・・・・!

ロベルタ「せっかく村の人たちが命を捨てて守ってくれたのに、見つかっちゃったんだ。そのピサロって人に。お兄ちゃんはもう死ぬんだって覚悟して、殺すなら殺せって言ったみたい。けどやっぱりそのせいで殺されなかった。
・・ピサロっていう人も意地悪だけど、お兄ちゃんも大概馬鹿だよ。だって一番敵対してる相手に望むものを与えるわけがないじゃない?
だから多分命乞いとかしてたら逆に殺されてただろうね。そう考えると運が良かったのかも」

レック「まさか・・・それで・・・」

ロベルタ「生かしてやるから、その代わり戦えるようになるまでは服従しろって言われたんだって。それでようやく馬鹿なお兄ちゃんも、「自分がここで死んだら犠牲になった人たちの命が無駄になる」って気付いたらしくて、従った。

・・でもそれは単なる遊びだった。その日は2・3回死ぬまで魔物に犯されたぐらいで済んだけど、次の日からは本当に酷かったらしいよ。
1日中酸を頭から浴びせ続けられたり、自分の手足を食べさせられたり、腕を歯車に掛けられて吊るされたりとか・・・そんなことを、死ぬまで何度も何度も繰り返される。もちろん死んだら生き返らせられてまた・・・ああ、両手足をもぎ取られた状態で魔物の幼虫の群れに放り込まれたこともあったみたい。
お兄ちゃんが足のない虫が嫌いなの、そのせいなんだよ」

なんでもないことのように淡々と話すロベルタに、オレは顔中の血の気が引いていくのを感じた。

ロベルタ「あはは、想像しただけで気持ち悪いよね。ちっちゃい虫にちまちま食い嬲られるほうが、大きい魔物にばくっと食べられるよりよっぽど痛いと思うよ」

レック「・・・お前は平気だったのか」

ロベルタ「え?だって、その時はまだ僕は消えたままだよ。そういうことをされたのはお兄ちゃんだけ」

だから笑っていられるのか。

レック「じゃあなんで知ってる?」

ロベルタ「・・・うーん。その後に僕が戻った時、体が変だったから聞いてみたの」

レック「聞いてみた?ソロに?・・・どうやって・・・・・。・・・・・!!」

ロベルタ「・・あ、気付いた?」

そうか・・・・筆談だ!メモを残しておくことで筆談が可能だ。
そう、そうだ・・・わかったぞ。初日にソロの部屋で見たあの筆談用紙は・・・・・・