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伝説の超ニート トロもず
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ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第15話

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7日目 11時22分 ―レック―



まるで夜空のような黒だ。星が1つもない、漆黒の夜空。
ここは部屋の中だろ?
丸い銀色の部屋の中だ。・・・天井は高すぎて見えない。

だから、黒い夜空のように見えるんだ。


アレン「・・・もうすぐか」

サマル「・・・・・・・・・・・・・・・。」

壁がほんの僅かに揺れているのを感じる。

レック「ソロ」

ソロ「・・・・・。」

レック「ここはどこなんだ?」

ソロ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」



━─━─第十五話 Abyss of the near



壁に手を当てていると、まるで地響きのような細かな揺れと、時折猛スピードで通り過ぎる熱を感じる・・・・・。
なのに、壁自体は冷たい。

みんなももう、そういったことには気付いているようだった。
今自分たちがいる場所が何なのか、どういう状態なのか。
普通ではないということに。

オレは自分の左手に握られている銀色の棒を見た。

・・・・・・・・・・・・・・・・・わかってしまった。オレは、さっきのソロの一言でなぜ今こんなことになっているかわかった。

オレを2日間眠らせたのはソロだ。
間違いない。

オレはこの時初めて、〝根拠のない確信〟を心から信じることが・・・いや、信じざるを得なかったと言うべきか。

何かをオレに知られたくなかったから。

何かに耐えられなかったから。

・・突然、壁の揺れが収まった。
と同時にどこかから、「カチッ」という音が聞こえた。

その途端、ソロがどっと地面に膝をつき、前かがみになって咳き込み出した。
あわててオレはそばにしゃがみ、肩を支えてやった。

みんなも驚いて大丈夫か、どうしたと声をかけるが、原因を誰も知らない上に本人は答えられそうにない。

ついには口に当てていた手のひらに血がつき、呼吸もままならないような状態になってしまった。

レック「おい・・・どうしたんだよ・・・」

回復したほうがいいんじゃないか、と言いかけ、・・だがオレは喉まで出かかったその言葉をギリギリで引っ込めた。

なぜなら誰一人それをしようとしないからだ。
普通ならこんな状態になれば、回復魔法をかけるはずなのに。

反応から見ると、・・ソロが事前にこのことを知っていて回復しなくていいと言ったとか、そういうのは・・・考えにくい。

だったら一番あり得るのは・・・・・
オレが眠ってる間に、みんなに何かが起きた。
暗黙の了解。そういう類の何かの異変。

つまりソロが直接どうこうというわけではないにしろ、みんなに伝えて、オレだけに伝えなかった何かがあるということだ。

そう考えるのが一番妥当だ。

ナイン「・・・大丈夫ですか・・?」

ソロ「はぁ・・・げほっ・・・」

だんだん呼吸が落ち着いてきた。
胸や肩、腕を抱え込むようにして手で押さえ、苦しそうに息をついている。
やがて歯を食いしばり、頭を押さえて小さな声で力なくこう言った。

ソロ「・・・・・・もう時間がない・・・・・・・・・・」

下を向いたまま静かに立ち上がると、壁の一点を見つめた。

ソロ「・・・ここは、扉の中だ。外の世界へ出るための」

アレン「扉?」

ソロは頷き、壁に手を当てた。

するとそこから白い光が壁を縦一直線に走っていき、一定まで進むと左へ、・・・下へ、・・・そして床にぶつかって消えた。

一度見た光景だ。

中の部分が消え、長方形の穴ができた。

ソロ「この〝扉〟を通過しないと出られない」

ソロはオレたちのいる部屋のほうに向き直り、床を指さした。

するとそこにはいつの間にか、ぽっかりと大きな穴が口を開けていた。

サマル「え・・・・」

その穴は、部屋の床全体より一回り小さい程度だ。
なのになぜか、誰もそこには落ちない。
浮いているんだ。足が。

エックス「何だこれ・・・!?」

オレは恐る恐る、その穴の中を覗いてみた。
そして自分の目を疑った。

穴の中は、今オレの左手にあるもので埋め尽くされていたからだ。
無造作に放り投げ入れられたかのように。数は数百はあるだろう。

オレは何かを考える前に、後ずさって背中を壁にぶつけていた。

その光景の異様さは、実際に目にしなければわからないと思った。

・・銀色の、鈍い光を放つ不気味な針の山・・・・・・・・・・・

エイト「・・これは・・・・・」

ロト「まさかこの中を通れなんて言わないよな?」

ソロ「そうは言わないが、誰か1人はこの中に入らなくちゃならないな」

誰も何も言わないが、空気が緊張したのがわかった。

ソロ「これから先で必要になる物が、この中にある。それを手に入れなければならない」

レック「・・・必要になるものって・・・」

またそんな曖昧な表現を、と言いたい気持ちでやっと口を開けた途端、

ソロ「お前はそれが何か知ってるはずだぞ」

何を寝ぼけてるんだと言わんばかりの口調で責められた。

レック「ぁ・・・・・・そうなのか?」

ソロ「・・・・・・先が思いやられる」

ソロは小さくぼやいて、ため息をついた。

・・・・・・・・・・・どうもソロの気持ちや考えが理解できない、と思いたいところだった。
でもオレは胸と喉の間で渦巻くそんな気持ちを噛み殺した。
オレにはそれをする義務があるんだ・・・・。

オレはオレだけが知ってることを常に理解してなくちゃならない。
そうでなければオレの目には、ソロはただ精神を病んで自我が崩壊しただけの哀れな男にしか映らないはずなんだから。

ソロは時々、ガラス玉のような目をして虚空を見上げることがある。
みんなと話していたり、何かをしている時はなんてことなく普通なのだが。

ただある一時、まるで周りの世界全てを拒絶するように黙り込む。
瞬き一つせず上を見上げたまま、ただの少しも動かずに。

人形にしか見えない。

話しかけられたり状況に変化があったりすると、決まって一度下を向いてから顔を上げ、いつもの調子に戻る。

・・・・・・みんなは気付いているんだろうか。オレが意識してしまっているだけなんだろうか。

それでオレは、今どうしたらいいんだろう。

ソロ「レック」

レック「ん?」

ソロ「それ、貸してくれないか」

オレの左手を指差してソロは言った。

レック「・・・ああ」

オレはそれを普通に手渡したつもりだった。

なのに。






レック「・・・・・・・えっ?」

カシャンと小さな音がして、先端に付いてたキャップが床に落ちて転がった。

オレはまだその棒を持っていた。

先端の長い針の部分が、ソロの手の平に刺さっている。
手を貫通して、甲から針が出ている。

驚いて手を離した。

その時オレは少し後ずさってから、ソロの顔を見た。

でも首から上が見えなかった。

その針が、ソロの顔と頭を埋め尽くしていたからだ。
全部顔の中の中心に向かって、数え切れないほどの針が刺さっていた。

当然顔は見えないわけだ。
針と針の間隔は数ミリもない。
絶えず血が噴き出し、胸元まで赤く染まっている。

そしてその大量の針の中からくぐもった笑い声が聞こえるんだ。
可笑しそうな含み笑い。

確かにソロの声だった。