ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第15話
そしてそのまま、針が刺さったまま手を少し上げてオレを指差して。
小さく笑い続けている。
ソロ「レック?」
レック「ッ!!!」
大きく息を呑むと、ソロが不思議そうな顔をしてオレの目を覗き込んできた。
手に、オレが渡したあの棒を持っている。
レック「・・は・・・・・・はぁ・・・っ」
全身が冷たい。
心臓が痛いほど早く打っている。
アルス「ど・・・どうしたの。大丈夫?」
・・・・・・・・・幻覚・・・・・・・・・・?
オレ、・・・・なんで・・・・・・・・・
・・・・・・・どうしちゃったんだ・・・・・・・・・・・・?
レック「ご、ごめん・・平気」
・・変な汗が出てきた。
ソロは心配そうに、けれどどこか・・・何かを探るようにオレを見ていた。
そしてふと睨みつけるように険しい目になって、
ソロ「・・・・・・・何を見たんだ?」
あの低く問い詰めるような声で言った。
レック「・・・・・・・・・・」
ソロ「・・・・・・・・・・・・・・・」
だがオレに答える気がないのがわかると、それ以上はもう何も聞いてこなかった。
その時、
ガシャンッ
レック「!?」
全員がその音に反応した。
ソロすらも。
知らなかったのか?
そしてその直後―――――
うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ
耳を劈くという表現では収まらないほどの、悲鳴・・・なのかどうかもわからなかった、それは。
空中に投げ出された身体・・・・・・・・
血の飛沫が壁に飛んだ。
エイト「あ゛ぁあああぁぁあああぁあああああ・・・!!」
見えない床に倒れこみ、両手で顔を押さえて・・・
え?
・・・・・顔が泡立っている。真っ赤な液体が沸騰している。
じゅううううううううううっ、という悪夢のような音と共に、悲鳴がどんどんくぐもっていく。
誰もが目を見開いて静止する、たった数瞬の時間だった・・・・・
オレは無意識のうちにソロの姿を追っていた。
まだ誰も一歩も動けずにいる中、気付いたときにはもうエイトの体を抱きかかえていた。
ドロドロした赤黒い液体が床に溢れ落ち、広がっていく。
ソロはエイトの両手を後ろ手に押さえつけていた。顔に触れさせないようにしているのかかなりの力で押さえているようだった。
ソロ「声を出そうとするな、力を抜いてろ!」
エイト「あう・・・うぁあっ・・・・・・」
エックス「え・・っ・・エイトッ・・!!」
少ししてからみんな動き始めた。
ソロ「まだ回復はするな」
喉元を押さえ、意識がなくなりぐったりしたエイトを床に横たわらせて立ち上がった。
その表情は悲痛に満ちていて、余裕など微塵も感じさせない。
サマル「ど、どうして・・・どうすればいいの・・・!?」
サマルの目には涙が溜まっている。
オレも泣きたい気分だった。
ソロ「・・・・・・なぜ・・・・・・・・・」
ソロはエイトを見つめながら、何か考えているようだった。
ロト「おい、どうするんだ?このままじゃ・・・」
アレン「なぜ回復してはいけないんだ?何か理由があるのか?」
ソロ「あるといえばあるんだが・・・憶測でしかない」
アレン「ならそれを話せ。いい加減俺たちを納得させろ」
アレンは切羽詰まった表情をしていた。
ソロ「それはできない」
アレン「っ・・・」
アベル「なら話せない理由だけでも教えてくれないかい?僕らの気持ちの問題だから」
確かに、こんな重傷を負ってる仲間に治療をしてはいけないだなんて、それなりの理由がなければ納得できないし気も重くなる。
ソロ「・・・・・・・・・・俺たちの命に関わるからだ。それ以外は言えない、今だけはわかってくれ」
ソロはそう言った直後、何かを思い出したようにはっと顔を上げた。
そしてオレの方を見ようとした――――
その時、・・・・・・・・・・・・・
まるで叩き落とされるかのような強い衝撃を体全体に感じた、次の瞬間にはオレは勢いよくそれに叩きつけられていた。
7日目 11時58分 ―サマル―
突然ガラスが割れるような音が聞こえた。
ボクがそっちを見たときには、みんなレックさんの名前を呼んだり、見えない床を殴ったりしていた。どうしてそんなことをしているのかわからなかった。
でも・・・・・・・・・・
透明な床の下、大量の銀色の棒で埋め尽くされた穴の中から絞り出すような悲鳴が聞こえた。
どういう状況なのかわかった。
・・・ボクは耳を塞いで、ただそこに立ちすくんでいるしかなかった。
7日目 11時58分 ―ロト―
目の前にいたレックが、いきなり俺たちの足下の穴に叩き落とされたのだ。
それはもう「落ちる」という現象とは呼べなかった。
スピードといいレックの体勢といい、何かに叩き落とされたようにしか見えなかった。
あまりにも一瞬の出来事で何もできなかった、俺たちは即座に手を差し伸べようとしたがどういうわけか見えない床に阻まれてしまう。
普通の床を拳で殴りつけているとしか思えない感触。
おかしいだろ、レックはどうやって落ちたんだよ。
体の側面から穴に落とされたレックは、しばらくの間目を見開いて硬直していた。
そして銀色をした棒の山に埋もれていた腕を自分の目の前に掲げる。
両腕にびっしりと刺さった大量の針、いや、銀色の棒の先端が針になっていたのだ。
貫通しているものや肉を抉っているものもある。
あんな速さで落とされたからだ。目や喉に刺さっていないのが不幸中の幸いだった・・・
レックの体は血まみれだった。まばらに針が刺さり、目を覆いたくなるような姿になっている。
レック「・・うぁ・・・・・あ・・・・・・・・・・あ・・・!?」
いたるところから血が流れて・・・レックは肩で息をしながら俺たちを見上げた。
ロト「レック・・!!!」
その時、背後からカシャンっと何かを落とす音がした。
振り返ると、ソロの足元にあの銀の棒が1つ転がっている。ソロは喉を押さえて激しく咳き込んでいる。
床にかなりの量の血飛沫が・・・・・・・・・・
ロト「なっ・・・おい!」
そのまま膝をつき倒れ込んで、なんとか肘で体を支えている状態になった。
・・・・・・ソロの右肩あたりからグシュッ、という異様な音が聞こえ、血が吹き出た。
そのうち頭からもボタボタと血が垂れるようになって・・・・
俺はとっさに両手でソロの体を支えて血を吐かせた。
・・・今までもそうだったがここにきてふと気になった、ソロはこういう状態になったとき絶対に呻き声や悲鳴をあげない。
ソロ「・・・・から、・・―を・・・・っ・・・・・・・」
ロト「っ!?」
かすれた声で必死に言葉を繋げようとしている。
ひゅうっ、と息を呑む音が聞こえた。
ソロ「・・枯れ草の中から・・・は、針を・・・探し出せ・・・・・・っ」
ロト「何だ・・・もう一度言ってくれ」
ソロ「枯れ草の中から針を・・・!」