ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第18話
ソロ「まあそうなんだが。・・参ったな」
やっぱり知ってるんだ。
ソロさんはおもむろに部屋の隅にある木箱に向かって歩き出した。
それを開けて、何か取り出している。
戻ってくると、その手に握られていたのは・・・大振りなナイフだった。
どちらかというと戦闘に使うような、ずっしりとしたタイプの。
レック「・・何するんだ?」
ソロ「あんまり見ないほうがいいぞ。つうか見るな」
そう言うとソロさんは突然、
・・・・・・・・自分の左腕にナイフを突き刺した。
そのままナイフを横に動かして、腕の形に沿ってぐりっと円を描くように回す。
びくっ、と自分の体が跳ねたのがわかった。
レック「・・・・・・・・おい・・?」
ソロさんは平然とナイフを動かし、左腕の肉を肘から削ぎ落とすように切り離し始めた。
まるで林檎の皮でも剥いているかのように。
そして取れた部分を、扉の前の天秤の片方に乗せた。
目盛りを覗き込み、首をかしげる。
ソロ「駄目か・・・」
そう言って、今度はナイフの刃先を剥き出しになった骨に突き立てた。
関節部分をこじ開けるように刃を食い込ませ、レバーを引くように手前に動かした。
そしてふと、凍りついているボクとレックさんを見て動きを止める。
ソロ「・・見るなっつってんのに」
ボクは死にそうな思いで目を伏せた。レックさんはどうしたかわからない。
7日目 21時50分 ―レック―
ゴリュ、メキッ。
背筋が凍りつきそうな音・・・オレはもはや目を動かすことができなかった。
ただ食い入るように見つめることしかできなくなった、その光景のあまりの異常さに。
ソロはふいにナイフを抜き、手で腕―正しくは剥き出しになった腕の骨―を掴んでひねった。
骨の折れる音がして、ソロが手を引っ張ると肘から下が腕から離れた。
そしてそれを、さっき腕の一部を乗せたのと同じところに無造作に放る。
ガシャン、と天秤が傾いた。
その途端、それはまるで砂にでも変わったかのように、一瞬にして崩れ去った。
ソロの腕ごと。
ソロはベホマを唱えて腕を再生させると、上下左右に動かして感覚を確かめた。
ソロ「よし。行こう」
よしって・・・まったく、こいつはどこまでオレの寿命を縮めるつもりなんだ。
冷や汗が出てきた・・・。
レック「・・・・わかった」
サマル「・・・・・・・・・。」
文句を言おうかとも思ったが、口にするだけ無駄だと気付いて黙っておいた。
7日目 21時34分 ―エイト―
頭が重い。もう僕は、疲れきっていた。
24時までに合流できなければあの3人が死ぬ。僕たちには何の被害もない。
だったらもう、・・いいじゃないか。
みんな何をそんなに躍起になっているのか。
そんな考えが頭の中をぐるぐる回っている。もはや僕自身の意思ではそれに抗うことはできなくなっていた。
3人を探しに行って、途中で僕たちのうちの誰かが命を落として、そうなったらきっともう3人を探すどころじゃなくなるだろう。そうしたら時間にも間に合わなくなる。あの3人も死ぬ。
それが一番嫌だ。
・・そうか、ソロさんは“犠牲者”だ。彼が死んだら僕たちが生き残れる確率は限りなくゼロに近くなるんだった。
だからみんな必死になっているのか。
・・・・・・・・・・・・・とりあえず全員で進める方向に移動してはいるけど、どこに行って何をすればいいのか誰にも見当がつかない。
巨大な崖が、背後でだんだん遠ざかっていく。
気持ちが悪い・・・いつまでこの空気を吸っていなくてはならないのか・・・。
・・・それにしても、ロトさんたちは一体いつになったら真実を話してくれるのだろう?
もういい加減、時間は経ったはずだ。なぜ明かそうとしないんだ。
せめてムーンさんがなぜ死んだのかぐらいは話してくれてもいいと思うのだけど。
みんななぜ聞こうとしないんだろう?まさか気を遣っているとでも言うのだろうか?
仲間として知っておかなくてはならない情報のはずなのにどうして?
・・・・・・・・・・・・いや、・・・・・・・・もしかしたら・・・・・・・・・・・・
みんなもう既に知っているのでは?
知っていて、・・・彼らに協力しているのでは?
やっぱり彼らがムーンさんを殺したんだろう。・・・でもだったら、僕だけのためにあんなふうにわざわざ事故を装うような真似をする必要はあるのか?
知らないのが僕だけだったとしたらその説明がつかないけど、そうでないなら納得がいく。
・・つまり、ムーンさんを殺した3人の他に、僕を除いて全員未満の協力者がいること。
その可能性が高いのでは。
ああ、頭が痛い。何も考えたくないのに、思考が止まらない。
歪んだ思考が止まらない。
悪臭を放つ重い空気が体中にまとわりついてきて、足を踏み出すたびに絡みついて後ろに引っ張られているような錯覚に陥る。
気持ちが悪い。体が、頭が鉛のように重い。
僕は今8人の中で最後尾を歩いている。
顔を上げると、視界が赤く歪んでいるような気がする。先を行くみんなの背中が遠くなっていくような。
・・・・・・ふと、地面が揺れたような気がした。
顔を上げた僕の目に映ったのは、赤い色をした糸のようなものだった。
数え切れないほどの数の糸が空に向かって伸び、蠢いている。
視線を落とすと、僕以外の全員が銃を構えていた。
その周りには、茎も葉も花も血のように真っ赤な色をしたバラの花が、大量に咲き乱れている。
でもそれらはみな絶えず揺れており、花びらからはねっとりとした赤い液体が滴り落ちていた。
茎と花びらの間あたりから、あの赤い糸が無数に伸びている。
・・・モンスターだ。戦わなければ・・・!