ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第22話
はっ、と我に返る。
その瞬間、尋常じゃないほどの冷たさが体の前面を覆っていることに気付いた。
寒い。寒い。
息が苦しい。
目線を上げると、ぐるんっと視界が回り、激しい頭痛が襲ってきた。
レック「う・・・・・ぅ・・」
ほぼ感覚のない手を前に動かし、懸命に力を込めて体を起こそうとした。
地面から離れた体に生暖かい空気が触れる。
血が体と地面の間で糸を引いているのがわかった。
背中に激痛が走り、ミシ、という変な音が聞こえた。
レック(・・・背骨・・・・イってるかな・・・)
意識が朦朧としている。視界がぐるぐる回り、呼吸さえままならない。
そんな状態で、魔法なんて使えるはずもなかった。
体に空いた穴からドクドクと血が流れ出続けているのを感じる・・・。
レック「・・・・・・ぅぐ・・・・・っ・・・・」
体を支える腕が悲鳴を上げる。
骨にヒビでも入ったか、折れたか・・・・・
その時、オレの体を暖かい光が包んだ。
━─━─第二十二話 Extinction
サマル「ベホイミ!!」
少し離れたところからサマルの声が聞こえた。
傷がふさがって幾分か体が軽くなり、痛みも少し和らいだ。
レック「・・サマル・・!サンキュ」
オレはすぐに立ち上がり、自分にベホマをかける。
サマル「レックさん・・・大丈夫・・・!?」
駆け寄ってきたサマルは息も絶え絶えで、体じゅうに血の染みがついていた。
レック「危うく死ぬとこだった。マジありがとうな・・・」
サマルに感謝の言葉を言いながらも、オレの視線は別のものを捉えていた。
ソロは、まるで犬が相手を警戒している時のような唸り声を出しながら、血眼になってオレたちを探している。
その下の地面には・・・ロトが横たわっていた。
サマル「早く・・・早く回復しなきゃロト様が死んじゃう・・・・・っ・・」
だが、近づくことは簡単じゃない・・・ソロにとってはここは真っ暗闇だ。
文字通り手探りで、滅茶苦茶にクリアを振り回している。
あれに当たれば・・・運が悪けりゃ即死だ。
どうすればいい・・・・・・?
・・もう時間もない・・・24時までに合流できなければオレたちは死ぬ・・・
なのに今の目の前の状況さえ打開できる気配はない。
・・どうすれば・・・・どうすればいいんだ・・・・・・!!?
―――その時、さっきまで見ていた夢が頭をよぎった。
・・・・・・・・・・・ソロは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あんなにも辛そうにしていた。
誰にも迷惑をかけまいと、ひとりで苦しみ続けていた。
オレはそれを全部知ってる、助けてやりたいと思ってるのに・・・どうして・・・・・・
・・・・・・・どうして・・・・・・何もしてやれないんだ・・・・・・・・・・・。
思えば今まで、オレは何をしてきた?
ソロの気持ちを理解して、救ってあげたいと思ってはいた。
なのに実際は・・・・・・
何もしてない。
可哀想に、と同情してあいつの肩を持つだけで、・・・何もしてない。
強いて何をしたかといえば・・・何度か本音を聞き出そうとして、無駄に口論じみたことを強要しただけだ。
手を差し伸べようとして、・・・
・・・・手を差し伸べたつもりになっていただけだったんだ、オレがひとりで勝手に。
実際にはそれどころか・・・
レック「・・・・・・・・・・・・・・・・」
何を聞いても曖昧にしか答えないのは、勝手にあいつが諦めてるからだと決め付けて、・・実際にはみんなに危険が及ばないようにと配慮していたからだったのに、オレは・・・・・
オレは・・・・・・自分の主観で、ソロを責めたのだ。
手を差し伸べるどころか、そのふりだけをして突き放すような真似をしたのだ・・・・。
レック「・・・・・・・・・・・っ」
オレは黒い水晶がはまっている壁に向かって、メラミを打った。
爆音とともに壁が弾け飛び、・・・やがて紫色の光が薄くなって・・・消えていった。
サマル「レックさん!?」
オレは走り出し、横たわったロトにベホマを唱える。
体中の傷が塞がり始めたのを確認してから、・・前に向き直る。
・・地上に降り立ったソロが、静かにオレを見ていた。
・・・・・・・・・・オレはロトをかばうようにしてソロの前に立つと、
・・・両手を広げた。
ソロ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
レック「・・・殺すならオレだけにしてくれ。頼む、お前ならわかるはずだ。
思い出してくれ・・・・・・」
言い終わるか終わらないかのうちに、ソロの目が見開かれる。
そして見えない何かが、ものすごい速さでオレの眼前に迫ってきたのが空気の揺れでわかった。
・・・・・が。
・・・・・・オレの体は、どこも傷ついてはいなかった。
見えないはずだが、その時なぜかオレにはわかった。
オレの顔の目の前、ほんの1・2センチほど前に、2つの手が――僅かにゆらゆらと蠢きながら止まっている。
あと少し止まるのが遅ければそれらはオレの顔を貫き・・・もしくは握り潰していただろうとわかる位置だ。
そしてソロはさらに目を見張り、息を詰まらせると、・・苦しげにうつむき・・・
かすれた声でつぶやいた。
ソロ「・・・・・・・・レッ・・・ク・・・・・・」
目の前にあった何かが、ゆっくりと主のもとへ下がっていくのがわかった。
レック「・・・・・・・オレが、わかるのか」
・・・ソロはぎりっと歯を食いしばり、後ずさる。
その時、倒れていたロトが呻き、体を動かした。
途端にソロが視線をそっちに移す。
オレはとっさに、ソロの右腕を掴んで抑えていた。
レック「・・・・・やめるんだ・・・・・・・・・・」
今のソロに言葉が通じるのかわからない。だが腕を握った手に力を込めると、ソロは視線をロトから外し、恨めしげに地面を睨みつけた。
が・・・・・
ソロ「・・・・う・・・・・・・っ、くぐ・・・・・」
ソロは突然体を前に折り曲げ、よろめいた。
そしてオレの手を振り払うと、頭を抱え・・・・・・・
ソロ「・・・・がぁぁぁああぁぁああぁぁぁぁああああぁッ!!!」
咆哮。
ほんの少し戻りかけたソロの理性を、破壊衝動と殺傷本能が再び飲み込もうとしている。
レック「・・・・・・・ソロ!」
・・・・・・・その時だった。
背後から聴こえた叫びは、聞き覚えのある仲間の声・・・
オレは振り返る。
そして、目を見開いた。
2日目 09時39分(7日目 23時57分) ―サマル―
「・・・・・・サマル!!」
ボクを呼ぶ声がした。
・・すぐにわかった。
それは・・・もう二度と聞けないかと思っていた、あの声・・・・・・
サマル「・・・・・・・・・・アレン・・・・・・・!!」
振り返り、静止する。
・・・・・・・・・・みんな、いた。
アレン、アレフ様、アベルさん、アルスさん、エイトさん、ナインさん、エックスさん。
みんな手に銃を持っている。
アレフ「よかった・・・・間に合ったのですね・・・!!」
アルス「サマルさん、大丈夫!?」
みんなが駆け寄ってくる。
・・自然と涙が出てきた。