ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第23話
「・・何してん・・・・・だよ・・・・・・・」
ざり。
背後からかすかな足音が聞こえた。
・・・痛い。苦しい。
胸の奥でビシッと音が鳴ったように思えた。
振り返ると、蒼白した顔でエックスが立ち尽くしていた。
エックス「何やってんだよ・・・何やってんだお前・・・・・!」
オレはもう何も考えられない。
恐怖と怒りでみるみる歪んでいくエックスの顔を見ても、足元に転がる“人だったもの”の残骸を見ても、広がっていく血だまりが自分の靴の裏を浸しても、・・・オレの胸には何一つ感情なんて湧いてはこなかった。
感情があったとしても、それが何なのか何という感情なのかわからないし、そんなことももうどうでもよかった。
・・・もう、疲れた。
ふっと・・・・体の力が抜ける。
気付いたときにはもう、倒れていた。
「・・・・・!・・・・!!」
あ・・・・・またこれ・・・・・
この状況、前にもあったな、おんなじこと。
エックスに抱きかかえられて名前を呼ばれてる。
オレ、なんでこんなことしたんだっけ?
―――――――――
―――――――
――――
━─━─第二十三話 Just Begun
??? ?????? ―???―
間違った選択肢を選ぶことも必要かも知れない。
ただひたすらに、弱さをひた隠してきただけ。克服することは愚か目を向けようともせず・・・
・・・・・・・・・無意識に逃げていた。
嘆いたって仕方がない。後悔したって、後ろを見たって、何も変わらない。
前に進めない。
そう思った。だから、ただ前だけを見て。
前だけを・・・。
それがいけなかったのだ。
背後に目を向けなかったから、こんなことになってしまったのだ。
そのことに気が付いたのは、とっくに駄目になってしまった後だった。
果たさなければならないことがあるから・・・と言い訳をして、自分自身をまるで顧みなかった。
身の回りで起こる失敗、悲しみの数々。「自分が弱いからだ、未熟だからだ」と決め付けて、真なる原因を突きとめたつもりになって、勝手に焦って、勝手に自己完結した。
世界を救うという責任を負った。だからもう自分の思いや感情なんて潰して、ただ最善を尽くすことだけが正解だと信じて・・・
それを基準に、正しいと思ったことだけをやってきた。
そんなことを繰り返した結果、気が付けば俺はもう取り返しがつかないほどに、ボロボロになっていた。
間違ったことはしてない、絶対に。
何がいけなかったんだ?
いや、何も間違ってなんかいない。
全て正しかった。完璧だった。
そうだろ?
なのに・・・なのにどうして、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺はこんなになっちまったんだ?
・・・・・・・・そう、最近になってようやくその原因に気付いた。
怖かっただけだったんだ。後ろを見るのが。
前しか見なかったんじゃない、前しか見れなかったんだ。
どんな時だって常にそれはついて来た。ぴったりと背中にくっつくようにして、忘れさせまいと、絶対に忘れさせまいとついて来た。
あの悪夢が。
まるで影みたいに、片時も離れることなく、時には両手両足に絡みつき、時には鏡に乗り移り、空間を閉ざし、俺を見下ろす。
必死に見ないふりをしているうちに、・・俺はそれを克服する力を、機会を、可能性を。
1つ、また1つと、手放していった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
そうして最後に残ったのは、膨れ上がり、放置した傷跡のように膿んだ暗い影。
俺は常に怯えていなくてはならなかった。
・・・・・冷たい。体が冷たい。ここはどこだ?
・・・・・・・?
『・・・・・・・・・・・・・・・・』
とても懐かしい気配を感じる。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
ああ、そうか。今までずっと、俺のことを見守っていてくれたんだな。
・・・・・・・・・・ううん。もう、無理かも知れない。俺は許されない。
・・・・気付くのが遅すぎたんだ。
もう、君に顔向けできないよ。
ごめん。もう忘れてくれ、これ以上君を悲しませたくないんだ。
俺の存在が君を悲しみの中に縛り付けてるなら、俺のことなんか、忘れてくれ。
せめて・・・好きだった人だけでも笑顔でいて欲しいんだ。
俺自身がどうなろうとも、もう構わない。
だから・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・・・・・・?
「!!」
目に飛び込んできたのは地面だった。乾いた血がこびりついている。
・・・どうやら俺はうつ伏せに倒れているようだ。
ここは・・・・・・・・・
・・・・・・・・・俺・・・・は・・・・・・・・・・・・どうして・・
・・・・・何が・・・・・・あったんだっけ・・・・・・・・・・・・
体を起こそうとすると、ビキビキと骨の軋むような音がした。
動かない。
見ると・・・赤い何か・・紐のようなものが俺を地面に縫い付けていた。
全身が痺れるように痛いが、どこにも怪我はしていない。
どうなってるんだ?
誰もいない・・・・・・・・・・
そうだ。俺は、俺はここで・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
思い出したくない。
でもどうして。俺は、・・・・・・・死んだんじゃないのか・・・・?
『やあ、天空の勇者ソロ。そしてあらゆる生物の頂点に立つ、究極の生命体エヴィギラヴィットのアダム』
!!
聞き覚えのある声だった。
ソロ「だ・・・・・誰だ・・・・・・・」
『ああ、僕と話すのは初めてだったか。扉の向こうで何度か会ってはいるんだけどね』
目の前に光が収束し、地面に黒い魔法陣が浮かび上がる。
ひと目で、それが闇に生きる者の現れる証だとわかった。
・・・・・・・・・・が、そこに姿を現したのは・・・・
光沢のある白い衣に身を包んだ、一人の青年だった。
途端、記憶の隅にあった何かが2つ、同時に目を覚ました。
ソロ「・・・・・お前は」
金と橙の混じった色の髪と、血のように真っ赤な瞳。
首や手足、いたるところに金色の装飾品を着けており、まるでどこかの王族のような風貌・・・
中性的で息を呑むほど整った繊細な顔立ち。
だが、・・・漂う雰囲気は異様、邪悪そのものだ。
そうか、こいつが。
「初めまして。僕はリトセラ。序列第2位の破壊神だよ」
胸に手を当て、そいつはにこりと微笑んだ。
ソロ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
レックに訊かれた時まさかとは思ったが・・・・・
リトセラ「ふふ、そんなに怖い顔しないで。別に意地悪がしたいわけじゃない」
ソロ「・・俺に何をさせたいんだ。何が目的だ」
リトセラ「まあまあ、まずは話を聞きなよ。君は自分がどうしてここに居るのかわかるかい?」
ソロ「・・・・・・わからない。俺は死んだ・・・のか・・?」
リトセラ「さあねえ。君が死んだと思うなら死んだんだろうねえ」
さも可笑しそうに笑う破壊神。何がそんなに面白いんだ。
ざり。
背後からかすかな足音が聞こえた。
・・・痛い。苦しい。
胸の奥でビシッと音が鳴ったように思えた。
振り返ると、蒼白した顔でエックスが立ち尽くしていた。
エックス「何やってんだよ・・・何やってんだお前・・・・・!」
オレはもう何も考えられない。
恐怖と怒りでみるみる歪んでいくエックスの顔を見ても、足元に転がる“人だったもの”の残骸を見ても、広がっていく血だまりが自分の靴の裏を浸しても、・・・オレの胸には何一つ感情なんて湧いてはこなかった。
感情があったとしても、それが何なのか何という感情なのかわからないし、そんなことももうどうでもよかった。
・・・もう、疲れた。
ふっと・・・・体の力が抜ける。
気付いたときにはもう、倒れていた。
「・・・・・!・・・・!!」
あ・・・・・またこれ・・・・・
この状況、前にもあったな、おんなじこと。
エックスに抱きかかえられて名前を呼ばれてる。
オレ、なんでこんなことしたんだっけ?
―――――――――
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――――
━─━─第二十三話 Just Begun
??? ?????? ―???―
間違った選択肢を選ぶことも必要かも知れない。
ただひたすらに、弱さをひた隠してきただけ。克服することは愚か目を向けようともせず・・・
・・・・・・・・・無意識に逃げていた。
嘆いたって仕方がない。後悔したって、後ろを見たって、何も変わらない。
前に進めない。
そう思った。だから、ただ前だけを見て。
前だけを・・・。
それがいけなかったのだ。
背後に目を向けなかったから、こんなことになってしまったのだ。
そのことに気が付いたのは、とっくに駄目になってしまった後だった。
果たさなければならないことがあるから・・・と言い訳をして、自分自身をまるで顧みなかった。
身の回りで起こる失敗、悲しみの数々。「自分が弱いからだ、未熟だからだ」と決め付けて、真なる原因を突きとめたつもりになって、勝手に焦って、勝手に自己完結した。
世界を救うという責任を負った。だからもう自分の思いや感情なんて潰して、ただ最善を尽くすことだけが正解だと信じて・・・
それを基準に、正しいと思ったことだけをやってきた。
そんなことを繰り返した結果、気が付けば俺はもう取り返しがつかないほどに、ボロボロになっていた。
間違ったことはしてない、絶対に。
何がいけなかったんだ?
いや、何も間違ってなんかいない。
全て正しかった。完璧だった。
そうだろ?
なのに・・・なのにどうして、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺はこんなになっちまったんだ?
・・・・・・・・そう、最近になってようやくその原因に気付いた。
怖かっただけだったんだ。後ろを見るのが。
前しか見なかったんじゃない、前しか見れなかったんだ。
どんな時だって常にそれはついて来た。ぴったりと背中にくっつくようにして、忘れさせまいと、絶対に忘れさせまいとついて来た。
あの悪夢が。
まるで影みたいに、片時も離れることなく、時には両手両足に絡みつき、時には鏡に乗り移り、空間を閉ざし、俺を見下ろす。
必死に見ないふりをしているうちに、・・俺はそれを克服する力を、機会を、可能性を。
1つ、また1つと、手放していった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
そうして最後に残ったのは、膨れ上がり、放置した傷跡のように膿んだ暗い影。
俺は常に怯えていなくてはならなかった。
・・・・・冷たい。体が冷たい。ここはどこだ?
・・・・・・・?
『・・・・・・・・・・・・・・・・』
とても懐かしい気配を感じる。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
ああ、そうか。今までずっと、俺のことを見守っていてくれたんだな。
・・・・・・・・・・ううん。もう、無理かも知れない。俺は許されない。
・・・・気付くのが遅すぎたんだ。
もう、君に顔向けできないよ。
ごめん。もう忘れてくれ、これ以上君を悲しませたくないんだ。
俺の存在が君を悲しみの中に縛り付けてるなら、俺のことなんか、忘れてくれ。
せめて・・・好きだった人だけでも笑顔でいて欲しいんだ。
俺自身がどうなろうとも、もう構わない。
だから・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・・・・・・?
「!!」
目に飛び込んできたのは地面だった。乾いた血がこびりついている。
・・・どうやら俺はうつ伏せに倒れているようだ。
ここは・・・・・・・・・
・・・・・・・・・俺・・・・は・・・・・・・・・・・・どうして・・
・・・・・何が・・・・・・あったんだっけ・・・・・・・・・・・・
体を起こそうとすると、ビキビキと骨の軋むような音がした。
動かない。
見ると・・・赤い何か・・紐のようなものが俺を地面に縫い付けていた。
全身が痺れるように痛いが、どこにも怪我はしていない。
どうなってるんだ?
誰もいない・・・・・・・・・・
そうだ。俺は、俺はここで・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
思い出したくない。
でもどうして。俺は、・・・・・・・死んだんじゃないのか・・・・?
『やあ、天空の勇者ソロ。そしてあらゆる生物の頂点に立つ、究極の生命体エヴィギラヴィットのアダム』
!!
聞き覚えのある声だった。
ソロ「だ・・・・・誰だ・・・・・・・」
『ああ、僕と話すのは初めてだったか。扉の向こうで何度か会ってはいるんだけどね』
目の前に光が収束し、地面に黒い魔法陣が浮かび上がる。
ひと目で、それが闇に生きる者の現れる証だとわかった。
・・・・・・・・・・が、そこに姿を現したのは・・・・
光沢のある白い衣に身を包んだ、一人の青年だった。
途端、記憶の隅にあった何かが2つ、同時に目を覚ました。
ソロ「・・・・・お前は」
金と橙の混じった色の髪と、血のように真っ赤な瞳。
首や手足、いたるところに金色の装飾品を着けており、まるでどこかの王族のような風貌・・・
中性的で息を呑むほど整った繊細な顔立ち。
だが、・・・漂う雰囲気は異様、邪悪そのものだ。
そうか、こいつが。
「初めまして。僕はリトセラ。序列第2位の破壊神だよ」
胸に手を当て、そいつはにこりと微笑んだ。
ソロ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
レックに訊かれた時まさかとは思ったが・・・・・
リトセラ「ふふ、そんなに怖い顔しないで。別に意地悪がしたいわけじゃない」
ソロ「・・俺に何をさせたいんだ。何が目的だ」
リトセラ「まあまあ、まずは話を聞きなよ。君は自分がどうしてここに居るのかわかるかい?」
ソロ「・・・・・・わからない。俺は死んだ・・・のか・・?」
リトセラ「さあねえ。君が死んだと思うなら死んだんだろうねえ」
さも可笑しそうに笑う破壊神。何がそんなに面白いんだ。