ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第24話
2日目 10時11分(8日目 00時29分) ―レック―
いつの間にか、みんな起きていた。
エックスがベホマズンを唱えたんだろう。誰も怪我などしていない。
無事だ。・・1人を除いては。
こっちを見る、エックスの顔が引きつっている・・・。
・・・・・・・麻痺していたものが、少し冷静になったオレの中で火を噴いた。
殺したのだ。オレは。人を。勇者を。
一番やってはいけないことをしたんだ。
どうやって償うべきか、もう考えている余裕なんてどこにもなかった。
オレはゆっくり、ベルトに挿してあったハンドガンを手に取って安全装置を解除した。
弾は入ってる。
何気ないことのように、当然のように、オレはその銃口を
・・・・・・自分のこめかみに当てがった。
指先に力を込めたその時、エックスがすごい速さで走ってきてオレを突き飛ばした。
銃声。
焼けるような痛み。
地面に倒れこむ・・・エックスがオレの手から銃を奪った。
誰かが何か叫んでる。
走ってくる。
・・・・・弾は、かすっただけだった。
そうわかった時、オレをとてつもない自責の念と絶望が襲った。
涙が滝のように溢れてくる。
オレは死ぬこともできないのか。何もできなかった、救いを求めていた仲間に手を差し伸べることもしなかった、そしてそれを償うことももう叶わない。
初めて味わう感覚だ。
無力感もここまで来ると、もはや笑いさえこぼれてくるのか。
・・・・・・地獄。
オレは、自分の体が大きな穴になったような気がした。
━─━─第二十四話 Equalizer
レック「あ゛ぁぁああぁぁああぁぁああああッ・・・・・・!!!
うわああああぁぁぁああぁぁああぁぁああぁぁああぁぁああぁぁ・・・・・!!!」
なんて滑稽なんだろう。
エックス「馬鹿野郎ッ!!なんでだよ・・・なんでこんな!!
おい、聞けよ!!聞きやがれぇぇええぇぇッ!!!」
オレはうずくまるようにして顔を押さえ、言葉にならない悲鳴を絞り出し続けた。
エックス「どうすんだよ・・・っ俺らが助かる確率、これでもうほぼゼロなんだろ!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?
その言葉を聞いた瞬間、それまで嵐のごとく吹き荒れていた負の感情が嘘のようにはたと消えた。
なぜなのかはわからない。
え・・・・・え?
助かる確率?
・・・ちょっと・・・・・・待てって。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?
アレン「・・自力で策を考えるしかなくなったみたいだな」
アベル「でも仕方がなかったことでもあるよ。こうしなきゃ・・・僕らが殺されていたんだから」
ナイン「・・そうですね。その点はレックさんに感謝しないといけませんね」
え?
ロト「・・・・・・・・でもやっぱり他にも方法はあったんじゃないのか・・・・・・ぎりぎり殺さないくらいに止めておくとか。まああの状況じゃ難しかったか」
アルス「終わっちゃったことをぐちぐち言っててもしょうがないよ。・・死んでるのは死んでるんだからさ」
みんなソロの死体を見て、悲しそうに、平然とそう言った。
・・まるで、落として割れてしまった高価な花瓶の欠片を未練がましく拾うかのように。
・・・・・待てよ。なんでみんな・・そんな顔するんだよ。なんでそんなこと言うんだよ。おかしいじゃないか。仲間が死んだんだぞ?
なんで・・・なんでそんな、平気でいられるんだよ・・・・・。
まるでソロのことを、何とも思っていなかったみたいじゃないか。
じゃあ今、みんなはソロという1人の仲間が死んでしまったことを悲しんでるんじゃなくて、“自分たちが生き残るために必要だった案内役”がいなくなったことを悔しがってるだけなのか?
・・みんな、そんなふうに考えてたってのか?
みんなは・・・・・そんな人間、だったのか・・・・・・?
レック「・・う・・・・・っ」
その時、いきなりエックスに胸ぐらを掴まれた。
その顔は怒り一色に染まっていた。
エックス「どうしてくれるんだよ!!お前どう責任取るつもりなんだ!!?
これで俺らが助からなかったら全部お前のせいだからなッ!!!」
すごい剣幕で怒鳴りつけられた後、乱暴に突き飛ばされる。
・・・みんな、冷たい目でオレを見ていた。
・・・・・・なんで、なんで・・・・・?
みんなどうしちゃったんだよ・・・・・・?
どうしてこんな、・・・どうして・・・・・・・・・・・・・・・?
ふっと目の前の光景が消えた。そして・・・
レック「!!」
・・・・・・どういうわけか、視界に入ったのは洞窟の崩れかかった天井だった。
ロト「・・・・・大丈夫か・・・・・・?」
心配そうにロトが覗き込んでくる。
オレは地面に倒れていた。横にエックスもいる。
・・少しの間呆然とする。そして起き上がった。
頬が少し冷たい・・・涙の跡みたいだ。
・・・今のは、夢か?
エックス「・・びっくりしたんだぜ、いきなり気絶しちゃったから・・・・・。
なんか苦しそうだったけど、本当に大丈夫か?」
え・・・あ。
・・・・・・・・そっか・・・・・・・そうだよな。
エックスが回復したんだろう、みんな無事だ。
夢・・・・・・・・。
なんでオレ、夢だって気付かなかったんだ?いつもならすぐにわかるのに。
だってそうに決まってるだろ、みんながあんなこと言ったりするわけないじゃないか。
馬鹿みたいだ。
・・オレってこんなに心の弱い人間だったかな・・・・。
いや、そうじゃない。この状況がオレを弱らせてるからだ。だって、オレは・・・
エックス「・・・ごめん、レック」
え?
レック「・・・・・・・・・・・・?」
エックス「・・・・・俺さ、・・・・・実は・・・知ってたんだ。・・・」
突然のことだった。
エックスは何かをオレに告白しようとしている。だが、どうも言いにくいのか途中で言葉をつぐんでしまう。
オレは急かさずに待った。
すると、エックスは静かに涙を流した。・・辛そうな姿を見ると自分も胸が締め付けられるようだったが、次の一言でそれははっきりとした痛みに変わった。
エックス「・・最初の屋敷の落書きと、ムーンを殺した奴のこと・・・」
レック「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
今考えると、不思議はなかった。誰もいないところへ移動していたとは言え、大声で怒鳴り合いをしたこともあったのだから。
エックス「聞いちゃったんだ・・・お前とソロが話してるの。・・あいつの、弟の話・・・・・・・・・・ごめんっ・・俺その時、すげえびっくりして、・・・これ絶対触れちゃいけないことだって、瞬間的に思っちまってさ・・・なんにも、できなかった・・・・・・・」
レック「・・・そう、だったのか」
エックス「・・本当にごめん・・・・知ってたのに何もしなかったんだ。・・・俺にも責任、あるよな・・・・・っ」
エックスはソロの死体を見つめ、崩れ落ちた。
両手で顔を押さえてすすり泣いていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・違う。
違うんだ、エックス。