ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第24話
・・確かにオレ以外にもあいつの話を聞いてやれる奴がいたら、少しは状況が変わったかも知れない。
でも違う。
液状化が始まってしまったら、もう助からないんだ。
どうすることもできなかったのはオレだ。何もせずに眺めていた。
そして、殺したのは他でもない、オレだ。
・・・お前には何の責任もないんだ・・・・・・!
・・だがその時、その言葉を言う勇気がどうしても出なかった。
なぜならそれを言ってしまったら、オレは責任が全て自分にあると再確認して・・・今度こそ本当に耐えられなくなってしまうかも知れない。
さっきの夢のように、衝動的に自分の頭に銃口を突きつけるような真似をするかも知れない。
もうこれ以上、みんなに迷惑をかけるわけにはいかない。
でも・・・でも。
エックスは悪くない・・・・・・・・・・・・・・・・・
どうすればいいんだ。わからない。
・・オレが弱いせいで。傷つく必要のない仲間が傷ついているのに。
・・・・・・・オレが弱いせいで・・・・・・・・・・。
オレはうなだれて、自分の無力さを呪った。
エックスだけが、ソロを殺したのがオレだということを知っている。
オレは何も言えずに、ただ悲痛に顔を歪ませることしかできなかった。
耳に痛いほどの静寂。小さく響く息遣いと弱々しいすすり泣き。
空間全体に染み渡り支配する、絶望。
今はそれだけが世界の全てだった。
――――――――
――――――
――――
??? ?????? ―???―
「うぐッ・・・!」
血飛沫が飛び、その雫が暗闇に吸い込まれていく。
千切れかかった腕の付け根を押さえながら体勢を整える。
「もうその状態で理性が保てるようになったか。さすがに飲み込みが早いねえ」
余裕の笑みを浮かべながら、そいつは巨大な鎌を振りかざす。
洞窟を模してあったその空間はほとんどが崩れ落ち、ひたすらに闇が続くだけの景色が顕になっていた。
リトセラ「・・やっぱり僕が相手じゃあ、まだ完全体じゃない君には荷が重かったかな?」
満身創痍の俺を見て嘲笑し、ゆっくりと片手を上げ・・・人差し指を俺に向けた。
ソロ「!!」
瞬間、鼓膜が破裂するかと思うほどの凄まじい轟音。
やつの目の前に現れた魔法陣から、収束した魔力の波が放たれ俺を貫いた。
体が瞬時に蒸発する。
が、すぐに魔法で回復し、クリアで壁を作ってそれを防いだ。
ソロ「・・・・っ・・・・!!」
押さえている右手に痺れが生じ、やがて炎で炙られているかのような痛みが伴う。
壁が徐々に削られていく。
・・クリアは神経と、動力を担う細胞の集合体のようなものだ。普通の皮膚組織を破壊される時の何倍もの激痛が生じる。
クリア自体は意識するだけで修復できるから大した問題ではないが、俺ほどに痛みに免疫のある者でもここまでの苦痛を感じるとは。
ソロ「・・はぁ・・・・はぁ・・・!」
全身が焼けるように熱い。
俺は渾身の力を込めて魔力の波を壁ごと押し返すと、その一瞬の猶予を使って横に飛び退いた。
息をつく暇もなく、今度は魔力の塊でできた槍が八方向から俺に向かってくる。
回復させたクリアを激痛覚悟でぶつけ、なんとか回避すると、上空に飛び上がり別のクリアで剣を形作った。
それを掴み、すまし顔で魔力を操る破壊神に向かって振り下ろした。
その瞬間、放電時の音によく似た轟音と共に、魔力のシールドが現れ攻撃が阻まれる。
衝撃波で崩れ落ちそうになるが、堪えて力を込め続けた。
ソロ「ぐッ・・・・・・く・・・・・!」
俺は無論必死だが、相手は余裕どころか腰に手を当て、まるで興味のないつまらないものを見るかのような表情だ。
リトセラ「・・・・・もう少し出来る子だと思ったんだけどなあ」
そうつぶやいて奴が無造作に手首から先だけを振り払うと、俺の体は埃のように吹っ飛んだ。
空中で体勢を整え着地する。
リトセラ「本当にそれで精一杯かい?・・だとしたらこれは重大なミスだなあ。彼の」
苦笑混じりに腕組みをして明後日の方向を見ている。
ソロ「っ・・・・・・・・・」
どれくらいこの時間が続いているかもうわからない。
予想通りだが予想を上回る圧倒的な力の差に、俺は完全に焦っていた。
魔力はもう尽きかけている。体力だってとうの昔に限界を超えた。
このままじゃ俺が倒れるのは時間の問題だ。
リトセラ「・・・時間が経てば経つほど、君の大事なお友達の苦しみが増えるよ。・・まあ、もしかしたらもう無駄かも知れないけどねえ・・・」
にやりと笑んで片手を少し上げる。
それが円を描くように動かされると、突然がちりと両手足が引っ張られるように動いて固まり、動かせなくなった。
ソロ「・・!」
リトセラ「早くしないと、彼らはあそこを去る。そうなれば扉は閉ざされて、もし君がそのあと復活できたとしても彼らと合流することができなくなる。すなわち、彼らは」
バキッ。
右手が音を立てて折れた。
リトセラ「死、ぬ」
左手が折れる。
ソロ「ぅ・・・ぎぃ・・・・っ!」
リトセラ「ひとり残らず・・・・ね」
ゴキュッ。
右の足首がおかしな方に曲がる。
リトセラが1歩踏み出すたびに、俺の体が壊れた。
絞り出された血が足元に広がる。
リトセラ「いいのかな?」
ソロ「・・・・そんなことには・・・・させない・・・・・っ・・!!」
左足首が捻れた。
ソロ「ッ・・・!!・・・・・俺は・・・・・」
かすかに残る記憶。・・レックはあの時、自分が殺されるのを覚悟で俺の前に立ちふさがり、俺を止めようとした。俺を助けようとしてくれた。
このまま、何もできないままなんて・・・
ソロ「俺は負けない・・・負けられない・・・負けさせない・・・!!」
絶対に嫌だ!!
叫ぶような気持ちで、クリアを呼び寄せた。
何かが割れるような音がして、両手足の戒めが消える。
リトセラ「! ・・・・へえ」
俺はすぐに回復呪文を唱えた。
リトセラ「まだその程度の元気はあるわけだ」
まだ玩具で遊べることが嬉しいのか、破壊神は笑みを浮かべた。
ソロ「あいつらを死なせたりしない」
全身に力を込める。
ソロ「・・俺が・・・・・」
右手を頭上に掲げ、・・・
ソロ「守るんだ・・・・・・・・ッ!!」
出せる全ての力を集中させてぶつけた。
リトセラ「・・・ん?」
爆音。またさっきのような見えない力同士の攻防になる。
その時、限界などとっくに超えていたはずの体に力が満ちてくるのを感じた。
・・そうか、気持ちだ。クリアが俺の思いに反応した。
プラズマのような魔力の塊があちこちで弾け、衝撃波を生む。
俺はそれらの小さなエネルギーをかき集め、自分の力に足した。
リトセラ「・・・・・おかしいな・・・」
破壊神が疑問の表情を浮かべる。
リトセラ「君の魔力はもう尽きてるはずだ。どこにそんな力が?」
ソロ「・・・・!」
リトセラ「・・ああ、なるほどね。散ったのを集めてるのか」