ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第25話
2日目 10時37分(8日目 00時55分) ―レック―
今オレの頭の中にあるのは、後悔や悲しみではなく、ただ1人の仲間を救ってやれなかったという事実と、その無力感だけだった。
死を救済と取るか否かは、本人以外に決められることではない。
けどオレには・・・オレにはどうしても、ああすることが救いになったとは思えなかった。
なぜならあの時本人が死を望んだからだ・・・・・・・。
━─━─第二十五話 Merciless Changer
何日前だったか。オレは初めてソロが不安定であることを知った時のことを思い出していた。
走り去っていく後ろ姿と、床に落ちた血の雫・・・。
仰向けになっていなくても時々稀に、当時の夢を見ることがあったそうだ。
それで取り乱し、つい自分の体を傷つけてしまったらしい。
ずいぶん時間が経ってから本当のことを教えてくれた。
よほど弱みを知られるのが嫌だったんだろう。弁解された時は、あの言い訳が虚偽だなんてこれっぽっちも思わなかった。
・・・そうだな。嘘がうますぎたのもあいつの弱点の一つだったに違いない。
致命的だったのは、それでも自分を騙すことができないほど頭が良すぎたことだ・・・。
オレはそんなソロが心配で、あれから何度か部屋を訪れた。
最初はちっともしゃべってくれなかったが、お互いを知るにつれて自然と少しずつ打ち解けていった。
とても驚いた覚えがある。みんなといる時とのギャップに。
少しでも自分の想像と違ったことがあるとすぐに機嫌を損ねる。何を言っても無反応で、座ったままひたすら爪を噛んでいたこともあった。
思った通りにうまくいったらいったで、喜ぶわけでもなく「それで当然なんだ」と言わんばかりの態度をとる。
まるで世間知らずでわがままな子供だ。
本人に言ったらすごく怒るに決まってるから口には出さなかったが。
それが自然体の彼なのだと知って、不思議だったが嬉しくもあった。
でも・・・
夜中に悲鳴を上げて跳ね起きられた時は心底参ったっけ。
たまたま話が長引いて、2人してリビングで寝こけてしまった時だった。
豹変、という言葉がこれ以上ないほど相応しかった。
気でも触れたかのように叫んで暴れまわり、落ち着かせようとしたオレを蹴飛ばして血を吐くほどの怪我をさせた。
他の奴らが起きてこなかったのが奇跡だと思った。
それでもなんとか押さえつけて、動きを止めることはできたが、とてもまともな状態じゃなかった・・・泣き笑いしながら顔や体を滅茶苦茶に掻きむしり、それが終わると今度はオレを他の誰かと勘違いしてひどく怯えだした。
オレは、その時ソロの顔を覆う恐怖の表情の激しさに愕然とした。
泣きじゃくりながら同じような言葉をつぶやき続けていた。譫言のように。
そしてその口から漏れる言葉が全て、相手を罵る怒号でもなければ助けを求める悲鳴でもなく、ただただひたすらに許しを乞う懇願であったことが、ソロが味わった地獄の凄惨さを物語っていた。
オレはソロを固く抱きしめ、もう大丈夫だ、何も怖くなんかない、と懸命に、思いつく限りの安心させられそうな言葉をかけた。
ソロは目の前にいるのがオレだとわかると、半ば気絶するように眠りに落ちた。
そんなことが確か、3回くらいあった。
もっと、何か出来ることはあったんじゃないだろうか。
そうせめて、・・取り返しのつかない状況になった時、責任を全て背負い込んで「殺してくれ」だなんて言わせないくらいには、心を開かせたかった。
・・・・いや、違うのかも知れない・・・・。
逆にオレが干渉しすぎたから、あいつの過去や心に。
・・・・・・・・・そうだ。
注意書きが来たじゃないか。
ソロに干渉しすぎるな、と。さもなければソロやオレたちに危険が及ぶと。
ソロだってそれがわかってたから、素っ気ないふりをしてたんじゃないか。
なのにオレは・・・。
みんなに見せない面を見せてくれるのが嬉しくて。親交を深めようという軽い気持ちで、触れてはいけない部分に触れてしまったのでは。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・でも、でも。
だったらどうして・・・そうだって言ってくれなかったんだ、危険だからって。
注意書きが来るまではそんなこと知る由もなかった。仕方なかったとまで言うつもりはない、だけど。
・・そんなの・・・言ってくれなきゃわかんねえだろ・・・・・・・?
オレ、間違ってないよな?だってただ、心を開いてくれるのが嬉しかっただけで。
それによって良くないことがあるなら、教えてくれればよかったのに・・・そう思うのは、オレの身勝手な言い訳じゃないよな?
ソロはどうして、自分への過干渉が危険に繋がると知っていて、オレに・・・オレたちにそれを伝えなかったのだろう?
それを言わずに、愛想のないふりをしたのだろう?
・・・・・・・・・・なあ、どうしてなんだよ。
それに、まだ聞きたいことはたくさんあった。言いたいことも。
ロベルタのこととか、今までこの世界でどうしてたのか、みんなのことはどう思ってるのかとか、オレが嫌な夢を見ないようにしてやれることとか・・・・・・・
干渉しすぎてはいけないとわかっている。けど、それでも伝えたいことや聞きたいことは山ほどあって、それだけじゃない、オレにはあいつを放っておくことなんてきっと出来やしなかった。
危なっかしくて一人にさせておけない、一人になりたがってて、独りが嫌いなあいつを。
・・まだまだあったのに。
色々・・・みんなに言わなきゃいけなかった、あいつの口から言わせなきゃいけなかったこと。オレが伝えてやらなきゃいけなかったこと。聞きたかったこと。
でも・・・・・・・・・でもそれは、
・・・もうできないんだ・・・・・・・・・・・・・・・・・。
涙がこぼれた。
結果的にオレが追い詰め、文字通りオレが殺してしまったのだ。
・・・もし今時間が戻せるのなら、絶対に間違えないのに。
こんなことにならないようにするのに。
ああ、いくら悔やんでももう遅いんだ。
もう・・・・・・・・・・。
――――――――――
―――――――
―――――
2日目 10時55分(8日目 01時13分) ―ソロ―
ひたすらに続く、長く暗い道を進んでいた。
ここを奥まで行けばみんなと同じところにたどり着くはずだ。
・・もう、言い訳はできない。
これで決着をつけるんだ。正真正銘、何を偽ることなく。
今度こそ。
誰の言葉だったか・・・いつだって、本当の敵は自分自身だ。
俺はいつだって自分に負けてきた。立ち向かうことすらしていなかったかも知れない。
それがこういう結果を招いたのだ。
たまたま破壊神たちの気まぐれで再びチャンスを与えられたからいいものの、もしそうでなければ。
ああ、腹立たしい。今までにないほど自分に腹が立った。
なんて弱いんだ、俺は。自分のせいで他人に迷惑がかかるのが一番嫌なんじゃなかったのか。それがどうだ、この有様は。
迷惑をかけるどころか―――・・・・・・・・・
・・・・もし今時間が戻せるのなら、絶対に間違えないのに。
今オレの頭の中にあるのは、後悔や悲しみではなく、ただ1人の仲間を救ってやれなかったという事実と、その無力感だけだった。
死を救済と取るか否かは、本人以外に決められることではない。
けどオレには・・・オレにはどうしても、ああすることが救いになったとは思えなかった。
なぜならあの時本人が死を望んだからだ・・・・・・・。
━─━─第二十五話 Merciless Changer
何日前だったか。オレは初めてソロが不安定であることを知った時のことを思い出していた。
走り去っていく後ろ姿と、床に落ちた血の雫・・・。
仰向けになっていなくても時々稀に、当時の夢を見ることがあったそうだ。
それで取り乱し、つい自分の体を傷つけてしまったらしい。
ずいぶん時間が経ってから本当のことを教えてくれた。
よほど弱みを知られるのが嫌だったんだろう。弁解された時は、あの言い訳が虚偽だなんてこれっぽっちも思わなかった。
・・・そうだな。嘘がうますぎたのもあいつの弱点の一つだったに違いない。
致命的だったのは、それでも自分を騙すことができないほど頭が良すぎたことだ・・・。
オレはそんなソロが心配で、あれから何度か部屋を訪れた。
最初はちっともしゃべってくれなかったが、お互いを知るにつれて自然と少しずつ打ち解けていった。
とても驚いた覚えがある。みんなといる時とのギャップに。
少しでも自分の想像と違ったことがあるとすぐに機嫌を損ねる。何を言っても無反応で、座ったままひたすら爪を噛んでいたこともあった。
思った通りにうまくいったらいったで、喜ぶわけでもなく「それで当然なんだ」と言わんばかりの態度をとる。
まるで世間知らずでわがままな子供だ。
本人に言ったらすごく怒るに決まってるから口には出さなかったが。
それが自然体の彼なのだと知って、不思議だったが嬉しくもあった。
でも・・・
夜中に悲鳴を上げて跳ね起きられた時は心底参ったっけ。
たまたま話が長引いて、2人してリビングで寝こけてしまった時だった。
豹変、という言葉がこれ以上ないほど相応しかった。
気でも触れたかのように叫んで暴れまわり、落ち着かせようとしたオレを蹴飛ばして血を吐くほどの怪我をさせた。
他の奴らが起きてこなかったのが奇跡だと思った。
それでもなんとか押さえつけて、動きを止めることはできたが、とてもまともな状態じゃなかった・・・泣き笑いしながら顔や体を滅茶苦茶に掻きむしり、それが終わると今度はオレを他の誰かと勘違いしてひどく怯えだした。
オレは、その時ソロの顔を覆う恐怖の表情の激しさに愕然とした。
泣きじゃくりながら同じような言葉をつぶやき続けていた。譫言のように。
そしてその口から漏れる言葉が全て、相手を罵る怒号でもなければ助けを求める悲鳴でもなく、ただただひたすらに許しを乞う懇願であったことが、ソロが味わった地獄の凄惨さを物語っていた。
オレはソロを固く抱きしめ、もう大丈夫だ、何も怖くなんかない、と懸命に、思いつく限りの安心させられそうな言葉をかけた。
ソロは目の前にいるのがオレだとわかると、半ば気絶するように眠りに落ちた。
そんなことが確か、3回くらいあった。
もっと、何か出来ることはあったんじゃないだろうか。
そうせめて、・・取り返しのつかない状況になった時、責任を全て背負い込んで「殺してくれ」だなんて言わせないくらいには、心を開かせたかった。
・・・・いや、違うのかも知れない・・・・。
逆にオレが干渉しすぎたから、あいつの過去や心に。
・・・・・・・・・そうだ。
注意書きが来たじゃないか。
ソロに干渉しすぎるな、と。さもなければソロやオレたちに危険が及ぶと。
ソロだってそれがわかってたから、素っ気ないふりをしてたんじゃないか。
なのにオレは・・・。
みんなに見せない面を見せてくれるのが嬉しくて。親交を深めようという軽い気持ちで、触れてはいけない部分に触れてしまったのでは。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・でも、でも。
だったらどうして・・・そうだって言ってくれなかったんだ、危険だからって。
注意書きが来るまではそんなこと知る由もなかった。仕方なかったとまで言うつもりはない、だけど。
・・そんなの・・・言ってくれなきゃわかんねえだろ・・・・・・・?
オレ、間違ってないよな?だってただ、心を開いてくれるのが嬉しかっただけで。
それによって良くないことがあるなら、教えてくれればよかったのに・・・そう思うのは、オレの身勝手な言い訳じゃないよな?
ソロはどうして、自分への過干渉が危険に繋がると知っていて、オレに・・・オレたちにそれを伝えなかったのだろう?
それを言わずに、愛想のないふりをしたのだろう?
・・・・・・・・・・なあ、どうしてなんだよ。
それに、まだ聞きたいことはたくさんあった。言いたいことも。
ロベルタのこととか、今までこの世界でどうしてたのか、みんなのことはどう思ってるのかとか、オレが嫌な夢を見ないようにしてやれることとか・・・・・・・
干渉しすぎてはいけないとわかっている。けど、それでも伝えたいことや聞きたいことは山ほどあって、それだけじゃない、オレにはあいつを放っておくことなんてきっと出来やしなかった。
危なっかしくて一人にさせておけない、一人になりたがってて、独りが嫌いなあいつを。
・・まだまだあったのに。
色々・・・みんなに言わなきゃいけなかった、あいつの口から言わせなきゃいけなかったこと。オレが伝えてやらなきゃいけなかったこと。聞きたかったこと。
でも・・・・・・・・・でもそれは、
・・・もうできないんだ・・・・・・・・・・・・・・・・・。
涙がこぼれた。
結果的にオレが追い詰め、文字通りオレが殺してしまったのだ。
・・・もし今時間が戻せるのなら、絶対に間違えないのに。
こんなことにならないようにするのに。
ああ、いくら悔やんでももう遅いんだ。
もう・・・・・・・・・・。
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2日目 10時55分(8日目 01時13分) ―ソロ―
ひたすらに続く、長く暗い道を進んでいた。
ここを奥まで行けばみんなと同じところにたどり着くはずだ。
・・もう、言い訳はできない。
これで決着をつけるんだ。正真正銘、何を偽ることなく。
今度こそ。
誰の言葉だったか・・・いつだって、本当の敵は自分自身だ。
俺はいつだって自分に負けてきた。立ち向かうことすらしていなかったかも知れない。
それがこういう結果を招いたのだ。
たまたま破壊神たちの気まぐれで再びチャンスを与えられたからいいものの、もしそうでなければ。
ああ、腹立たしい。今までにないほど自分に腹が立った。
なんて弱いんだ、俺は。自分のせいで他人に迷惑がかかるのが一番嫌なんじゃなかったのか。それがどうだ、この有様は。
迷惑をかけるどころか―――・・・・・・・・・
・・・・もし今時間が戻せるのなら、絶対に間違えないのに。