ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第25話
こんなことにならないようにするのに。
・・・レック・・・・どうか、無事でいてくれ。
早くお前の顔を見て謝りたい。お前は悪くないんだと言いたい。
みんなにも、謝っても謝りきれないのはわかってる。
そして俺は変わったのだと、早く伝えよう。
もう線は引かない。過干渉が何だ。俺が普通じゃないから何だ。
全部明かそう。知ってもらおう。
楽になるためじゃない、みんなを守るためだと言い訳もしない、心の底から本当のことを言おう。
俺はやっとわかったんだ。干渉しすぎることで危険を及ぼす本当の理由が。
だからもう大丈夫。
・・・その時、視界にちらりと白い何かが映った。
それが舞い落ちてくる注意書きだと気付くのには1秒とかからなかった。
走りながら手に取り、目を滑らせる。
『やっと理解してくれたようだな。そう、君の意思次第でどうにでもなることだ。
それに気付いてしまえばもうこのような失敗を繰り返すことはないだろう。
あとはあらゆることに耐えうる強さを身につけろ。
そして自分自身を認めろ』
・・・・・・・そうだな。
なんで俺、こんな簡単なことに気付けなかったんだろうな。
強さを持つことと自分を認めること、これはまさしく今まで俺がことごとく失敗してきたことと言える。
でもそのためにどうすればいいかは自分で考えろ、ってことか。
ああ、そうじゃないと意味ないよな。わかってる。
もちろん、そのつもりだ。
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??? ?????????? ―???―
ここはどこなんだろう?
僕はひとりで知らない場所にいた。何があったのか、全然思い出せない。
洞窟?みたいで、道はずっと奥に続いてる。
なんだろう。体が軽いような気がする。でもちょっと気持ち悪い。
少しだけ、さっきまでのことが思い出せた。・・えっと、確か4人でいたと思う。
あれ、違うか・・・3人?うん、3人。たぶん。
ずっと立ってても仕方がないから、歩き出す。なんだかすごく寂しかった。
誰もいない。少し怖い。
なんで僕は、ひとりぼっちでこんなところにいるんだろう。
みんなは?みんははどこに行ったの?
寂しいよ。
・・・・・・みんな、どこ。レック、・・・・サマル・・・
・・・お兄ちゃん・・・。
背中が痛い。気持ち悪い。頭、痛い・・・。
けっこう進んだはずなのに、景色は全然変わらない。
ずっと一本道のまま。
僕はどうしたんだろう。
何があったのか思い出せないのに、知らない誰かに言われた言葉だけははっきりと頭の中にあった。
・・・『権利は君にあるはずなんだよ。もともとは君の体だったんだから。憎いとは思わないのかい?今までたくさん邪魔をされただろう、たくさん嫌な思いをさせられただろう、本来君が歩むはずだった道を潰されて、すべての自由を奪われたんだ』
あれは誰だったんだろう。顔も声も思い出せないけど、言われたことはしっかり覚えてる。
『僕にはわかってるよ。本当の被害者は君さ、ロベルタ。
何も知らない他の人たちはみんな君のお兄さんばかり同情して、それによって彼も自分が一番の被害者なのだと思い込んでる。
でもね、それは違う。
僕は知っているよ。僕なら君の苦しみをわかってあげられる』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
『その苦しみを晴らすんだ。今こそ、本当の君の苦しみを思い知らせてやるんだよ。
今の君にはそれだけの力がある。君だってそれを望んでいたろう?』
・・・・・・でも・・・・・
『さあ、何もためらうことはない。君は何も悪くはないんだよ。
奪われたものを取り返すだけ。なかったものをなかったことに還すだけ。
そして君は自由の身だ』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
確かに、あの人の言うことは全部当たってた。
お兄ちゃんがいるせいで僕は何もできない。誰にも見てもらえない。
かわいそう、とか、辛いよね、とか、そういう言葉をかけてもらえるのはお兄ちゃんだけ。
励まされるのも同情されるのも優しくされるのもお兄ちゃんばっかりだった。
お兄ちゃんが辛いのはわかってる。でも・・・だったら、僕だって辛い。
誰にも知ってもらえない。これ以上成長できない。
そもそも最初は僕だけのものだった、僕しかいなかったのに。マスタードラゴン様の都合ってだけでお兄ちゃんが生まれた。僕のことが顧みられることはなかった。
どうして?僕がちゃんとした天空人じゃなかったから?どうでもよかったんでしょ、僕のことなんか。ただ都合のいい出来損ないがいたから、利用するだけしてあとは知らんぷり、どうにでもなれって、そう思ってたんでしょ?
みんなはそれでいいよ。それで自分たちが助かるんだから。
でも利用された方はたまったもんじゃない。
誰にも顧みられない。気にされない。もう誰も僕のことなんて覚えてない。
みんなの記憶に残ってるのは、世界を救った勇者のお兄ちゃんだけ。
そう、お兄ちゃんが悪くないのは知ってる、でも僕は恨まずにはいられなかった。
お兄ちゃんさえいなければ、僕は普通とまではいかなくても、せめて自分の生を全うできたはずなのに。
みんなに見てもらえた、気にしてもらえた、お友達だって出来たかも知れない。
それなのに。それなのに。
僕は悪くないのに。
考えると、だんだん胸の中に黒くてざわざわしたものが溜まって、膨らんでいくような感じがした。
それでも僕は、・・・それでも・・・・僕は嫌だった。あの人の言う通りにするのは。
お兄ちゃんを殺してしまえと、言われた。
今の僕ならそれができるって、できるようにしてあげたから、って。
望むなら他の人たちもみんな殺してしまえばいい、そうすれば救われるって。
・・・・やろうと思えば今すぐにでも実行できる。何分か息を止めてればいいだけ。
意識がなくなる瞬間に入れ替わればいい。
それ以上を望むならみんなを殺してから、同じようにすればいい。
生き残るのは僕だけになる。
でも・・・それでいいんだろうか。
僕は何日か前に我慢の限界で、どうしてもみんなに気付いてもらいたくて、名前も知らない女の子を一人殺した。
それで僕のことは気付いてもらえた。だけど結果的には、涙と苦しみしか生まなかった。
・・あの時は満足だった。知りもしない人だったし、正直に言うと、どうでもよかったから。
でもそれは間違いだった。
僕がそうしたことでお兄ちゃんは深く傷つき、みんなをひどく悲しませた。
それで初めて実感したんだ。僕がしたことは、いけないことだったんだって。
きっと謝って済むことでもないし、何をしても許してはもらえないと思う。
でも罪悪感よりも、僕の存在を知ってもらえた喜びの方が大きかったのも事実だ。
どうせ許されないのなら、みんなみんな殺して、ひとりで自由になるのもいいかも知れない。
だけど、だけど・・・・嫌だ。やっぱり嫌だ。
僕はお兄ちゃんのことがあんまり好きじゃないのに、僕がそうしたらお兄ちゃんはきっと死んだあとでも、二度と笑顔になることはできなくなるだろうと考えると、胸が痛んだ。