ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第25話
オレは気付いた、ソロがつぶやいているのは数字だ。
さっき目を通したあのプレートから読み取ったものなのだろう。ほんの数秒眺めただけで、オレたちにはさっぱりわからなかった何かを理解し、それだけでなく完璧に記憶したのだ。
そして再び右手を上げ、地面を見つめながらひと呼吸おくと、わずかに笑みを浮かべ、指を鳴らした。
するとさっきの触手のように、今度は歯車全体が小さな粒子となって消えていった。
やがて、静寂が訪れる。
・・・・・・決着は、数十秒でついた。
あまりに一瞬の出来事で、今目の前にいた巨大な何かが本当にいたものなのか疑問に思ったほどだ。
何事もなかったかのように、息ひとつ切れていない状態でソロはオレたちを振り返る。
しばらく唖然としているばかりだったが、やがて歓喜と驚愕、そして賞賛の声が上がった。
エックス「すッ・・・げえぇ!何なんだよ今の!どうやったんだ!?」
アルス「あんな魔法があるの!?僕全然何してるのかわからなかったよ!!」
ソロは安心したのか次第に口元を綻ばせ、ついにはあの見慣れた、口角を片方だけ上げる笑顔を見せた。
ソロ「よかった。みんな元気そうだ」
ロト「ああ。お前もな」
ロトのその言葉の意味を汲み取り、ソロは真面目な顔になった。
そしてオレの方を少しだけ見る。オレは頷いた。
ソロ「・・・・・みんな、まずは謝らせて欲しい。俺の身勝手のせいで大変な思いをさせた。悲しませもした。本当にすまない」
そう言って深々と頭を下げてから、ソロは順を追って、なぜ自分がここにいるのかを説明した。
まず一度息絶えたあと、リトセラという破壊神に会い、ゲームを仕掛けられて勝ったから、特別中の特別に蘇ることを許されたということ。
そいつと戦ううちに、ある特別な力を自在に操ることができるようになったこと。
その力についてもごく最近知り、まだ使えるまでに至っておらず、あの時はそれが暴走し理性がなくなって、制御不能になってしまったのだということ。
サマル「リトセラ・・・って、あの・・・」
レック「会ったのか!?」
ソロ「ああ・・・・・奴はこう言っていた。このゲームは見せ物で、大勢の観客がいる、見応えがなくてはつまらないから俺に蘇るチャンスを・・・もといエキシビジョンを提案したのだと。
そしてどうやらこの先、奴らと戦うこともあるそうだ」
エックス「・・・マジかよ・・・」
ソロ「・・・・・・正直に言うと、俺は生き返ったのを申し訳なく思ってもいる。俺以外にも犠牲になった仲間がいるのに、俺だけなんて、ってな。でも今の俺はそんなわがままを言っていい立場じゃない。俺は自分の存在が、みんなの生き死にを左右することを知ってるから。
だから、俺はもう二度とあんな馬鹿げた間違いはしないと誓ったんだ」
レック「・・・・・・」
少し驚いた。あのソロがみんなの前でこんなことを言うなんて。
ソロ「それから、・・・みんなに聴いてほしいことがあるんだ」
突然少し表情を曇らせる。何事かと待っていると、ソロは顔を上げ、心を決めたように言った。
ソロ「俺が今知ってることを何もかも皆に話そうと思う。俺自身のことも、このゲームのことも」
!!
オレは思わず、息を呑んでソロの顔を見た。
ロト「・・・・・いいのか・・・・・・?」
ソロ「いいんだ。・・いや、そうしなくちゃいけない。俺はもう、後悔したくないんだ。もう絶対に、死ななくていい人が死ぬようなことはあってはならない。そのために全力を尽くすと決めたんだからな」
アレン「・・・やっと話す気になってくれたのか。安心した」
ソロ「・・すまん。レック、実はお前にも話してないことがいくつかあるんだ。言わないほうがいいと思ってた・・・けど」
申し訳なさそうにうつむいて、ソロが言葉を詰まらせたその時だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうして・・・・・・・・?」
オレは驚いて、ソロの方を見た。だが、どういうわけかソロも同様に驚愕の表情を浮かべている。
ソロが言ったんじゃなかったのか?でも、確かにソロの声・・・
でもそれは、それは・・・・背後から小さく聞こえたものだった。
オレは振り返ると、オレたちが入ってきた扉付近、どこか寂しげに佇むそいつを見て、状況を理解した。
ソロ「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
その時。
銃が揺れる時の金属音が、そこかしこで響いた。
見ると、エックスがハンドガンをそいつに向けている。
アレフやアレン、アベルやナインに至るまで。
レック「・・・・・・!」
そうか、みんなは・・・初日に話したことを覚えていたんだ。
注意書きによってほのめかされていた、「コピーを作り出せる存在」。それを裏付ける結果となってしまっていた、数々の迷いの跡。
ロト「・・・・・おい、レック・・・・・」
オレは慌てて、みんなに銃を下ろさせようとして・・・息を吸ったその時だった。
「・・・どうして・・・?どうして、お兄ちゃんがそこにいるの・・・?」
驚愕と絶望の混じったような表情で、そいつは声を震わせた。