ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第25話
・・・・・・・・・・?
何だ?
ロト「・・・何かあったのか?」
レック「あ・・・まあ、・・・暗号・・・・・?」
それを見ると、ロトも首をひねった。
と、その時。
足元でかさりと音がした。注意書きだと、すぐにわかった。
『その扉は閉めておけ。数字の列の問題は君らが考える必要はない』
・・・・どこまでも親切だな。
エックス「・・・・・・・・・どうしろってんだ・・・・」
レック「・・・・・・・・・・・・・・・・」
わからない。どうすればいいのか、何をするべきなのか。
どうすれば・・・・・・・
突然鳴り響く、爆音。ふっ。と、体が宙に浮いた。一瞬。
倒れそうになったが足で踏ん張り、辺りを見回す。
衝撃波のようなものが洞窟全体に走ったらしい。
サマル「なっ・・・・何・・・!?」
ロト「・・・・・・・」
ロトは地面の揺れが伝わってきた方を凝視していた。さっきオレたちが入ってきた扉がある。
少しすると、その扉は音を立てて不自然に折れ曲がり、崩れ、外れた。
鉄の扉とは思えぬほどあっさり、まるで紙でできているかのようにくしゃっと。
そして次の瞬間、強い風が壊れた扉の向こうから流れ込んできた。
エックス「・・・!?」
アベル「・・・・・・・・」
誰もが無言で表情を険しくし、その方向を見る。
やがて風が弱まっていく。
同時に、その奥から走っているような足音がかすかに聞こえ始めた。
オレはこの時なぜか、体が熱くなるのを感じた。
ふと意識が遠くなる。
隣にいたエックスが目を見開き、今にも駆け出しそうになって、何かを大声で叫んでいる様子がスローモーションになる。
その目には涙が浮かんでいた。
ロトも、アレンもアレフもアベルもみんなみんな、誰ひとりとして平然としている者はいない。
オレも同じだった。
暗闇の中から姿を現したのは、間違いなく――――・・・
・・何かを考えるより先に、目からは大量の涙がこぼれ落ちていた。
ソロ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・間に合った」
エックス「・・・・・・・・ソロ・・・どうして・・・!」
何も言えずただただ驚くばかりだった。
でもその時オレは、どうして死んだはずのソロがそこにいるのか考えるのを無意識に拒否していた。
そして崩れるようにその場に膝立ちになり何も言えぬまま涙を流した。
これ、幻覚じゃないよな?また夢を見てるんじゃないのか?
オレは強く目を瞑り、夢から覚める時しているように、意識を遠くに飛ばそうとする。が、何も変化はない。目の前の景色は変わらず、涙が流れ続けるだけだった。
夢じゃない。ひょっとしたらオレは絶望のあまりおかしくなってしまったんじゃないかとも思ったが、それも違う。
・・はっきりとした痛みがあった。
オレの方に歩み寄り、無表情のまま、ソロはオレを抱きしめた。
力の加減を間違えてる。あまりに苦しかったもんだから、思わず文句が漏れた。
レック「・・・ソロ・・・痛てぇよ・・・」
ソロ「・・・・・ごめん・・・本当にごめん・・・・・・・」
しばらくの間そうしてから、ソロは立ち上がり、オレに手を差し伸べた。
オレはその手を取り体を起こすと、涙を拭うこともせずソロの目を見た。
ソロ「俺の身勝手のせいでこんなことになった。取り返しのつかないことをお前にさせてしまった。まず、そのことを謝らせてくれ」
落ち着いた声だったが、ソロは無表情のまま、やっぱり泣いていた。
だがオレはその瞳の中に何か、決意を秘めた力強い光が宿っていることに気付いた。
ソロ「償っても償いきれないことはわかってる。永遠に許されないことだと理解してる。・・・だから俺は本当の自分を享受した上で、持てる全ての力をみんなを守ることにかける。今度こそ絶対に」
オレはその思いを受け取るべく大きく頷く。そして微笑むと、ソロも微笑を返した。
そしてさっきオレたちが数字のプレートを見つけた隠し扉付近まで行くと、みんなに言った。
ソロ「本当にすまないが、説明はあとでする。・・・この先で起こることはどうか俺に任せて欲しい。こんなことで罪滅ぼしになるとは思わないが、自分で決めたことがどこまで通るか試したいんだ」
ソロが右手を横に出すと、扉の裏に付いていたあのプレートがひとりでに剥がれ、吸い寄せられるようにその手に収まった。
そこに彫られた数字の羅列に数秒間目を通すと、それを地面に放り、頷いた。
ソロ「ついてきてくれ」
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―――――――
さっきは異様な気配を感じ、進まない方がいいと判断した道。
進むにつれてあの嫌な臭いが濃くなり、空気の振動も強まっていった。
この先に敵がいるのは確かだ。ソロは、どうか自分に任せて欲しいと言った。
ひとりで戦うというのか?
ひとことに言えば、無茶だろう。だが、オレも含み誰も異を唱えようとはしない。
なぜならその言葉に、他には代え難い強い決意が見えたから。
もう何者にも、たとえ自分自身にも、決して邪魔はさせまいという強靭な意志。
それを信じるからだ。
道を抜けるとひときわ広い場所に出た。
が、オレたちの目線は全て上空に集まっている。
・・・オレたちの身長の何十倍はあろうかという巨大な金色の歯車。
だがその中央には大きな1つの目があり、鋭い眼光でオレたちを捉えている。
幾重にも重なり、壁と結合していたそれが大きな音を立てて離れ、宙に浮かび上がっていく。
と同時に結合していた部分から、何十、何百、何千という数の紫色をした触手のようなものが出てきた。その先端は鋭く尖っている。
そして歯車本体の真後ろに、それが闇の魔力で動いていることを意味する赤と黒の混じった色の魔法陣が浮かび上がった。
とてつもない邪悪な魔力の波を感じる。
次の瞬間、紫色の触手がオレたちに目にも止まらぬ速さで向かってきた。
が、それは一歩前に出ていたソロの目の前で、まるで何かにぶつかり阻まれているかのように止まり、火花を散らし、強烈な風と衝撃波を生む。
ソロは少しだけこちらを向き、下がっていてくれ、とだけ言うと。
オレたちがその通りにしたのを確認してから敵に向き直った。
静かに右手を高く掲げ、空気を掴むようにして拳を作った。すると目の前にあった触手がまるで風船のように破裂し、消し飛んだ。
レック「・・・・・・!」
ソロはそのまま手を自分の顔の前まで下ろし、振り払った。
すると歯車のいたるところがまるで爆撃でも受けたかのように粉々になり、洞窟を揺らす。
オレは確信した。
ソロはもう完全に人間ではなくなったのだ。
爆発による振動と砂煙が収まると、歯車はすっかり元通りにまで回復していた。
だがソロは顔色ひとつ変えず、静かに相手を見据える。
そして、目を瞑った。
蠢いていた触手たちが再びオレたちに向かって飛んでくる。
ソロは何もせずに目を瞑ったまま、何かをつぶやいた。
すると驚いたことに、触手はオレたちに一番近いものから順に消えていった。
さっきのように爆発するのではなく、まるで砂が風に巻き上げられるように、小さな塵となって消えていくのだ。