ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第26話
・・おそらくあの赤い蜘蛛の糸を切るために、刃に変形させていたクリアが、無意識に走り出したことによって反動で引っ張られ・・・運の悪いことに俺の足にぶつかったのだ。
俺は歯を食いしばった。
ソロ「なぜだ・・・・・なぜ殺した!
そんな必要なかっただろ!?どうして・・・!!」
リトセラ「どうしてぇ?」
眉を上げて目を見開き、大げさに驚きの表情を浮かべ、直後、大きな声を上げて笑い出した。
・・本気で笑っている。俺がまるでとんでもなく面白いジョークでも言ったかのように。
リトセラ「どうして!どうしてと来たもんだ・・・はっはっはははは!!
ああ可笑しい!!あっはははははは・・!!」
ソロ「・・・・・・・っ」
ふいにぴたりと笑うのをやめ、無表情でまっすぐに俺を見下ろした。
そしてすうっ、とその目を細め、にたりと笑った。
その赤い瞳の冷たさと異様な邪悪さを孕んだ笑みに、悪寒が走る。
リトセラ「・・面白いからさ。それだけだよ。僕らがそうしたいと思っているから。他に何があるって言うんだい?」
ソロ「・・・・・・!」
リトセラ「あー・・・そうだねえ。君が欲しがってる理由をあげるとしようか。
罪を犯した者に、生きながらえる資格はない」
ソロ「さ・・・最初からそのつもりで・・・ッ」
リトセラ「もともと1人余分にいたのと同じなんだよ。生かしておいた彼の気が知れないね」
含み笑いをしながら、どこまでも見下したような目で俺を見る。
リトセラ「まあ、面白かったからいいけど。それなりに楽しめたよ」
ソロ「・・・く・・・・・・・・っ・・・・
う・・・・・・ああぁぁああぁぁああぁぁああぁぁああッ!!!
うわああぁぁああぁぁぁぁあああぁぁああぁぁああぁぁああぁぁああああっ・・・!!」
・・・絶叫。
喉が張り裂けんばかりに叫んだ。そうでもしなければ、とても正気でいられないと思ったからだ。
まるで全身が内側から圧迫されているようだった。
溢れるというよりは絞り出されるといったふうに、目から涙が滲み出た。
ぼやけていく視界の中、黒い光が収束して消えたのが確認できた。
・・世界が飽和していく。
ふいに体が宙に投げ出されたような気がした。
・・・レックが俺を見下ろしている。抱きかかえられているんだ。
レック「・・・・・・ごめん・・・ごめんっ・・・何もできなかったっ・・・!!」
周りにみんないるのが気配で分かった。
きっと俺は今、ひどく気の抜けたような呆けた表情をしているだろう。
だがその時確信したものがあった。
まだだ。まだまだ俺は苦しみ足りない。
きっと運命は、俺に特別な力を与える代わりに、それ相応に苦しむことを課したのだ。
それが、力の代償。そうに違いない。
そしてそれを全て乗り越え、相応しいだけの何かを手に入れろ、と。
これは思い上がりなんかじゃない。確かにそうなのだ。
だとしたら、まだ足りない。これからより過酷で重い悲しみの試練が待ち受けているだろう。
これはその始まりに過ぎないのだ。
だからあの注意書きが来たんだ。
あらゆることに耐えうる強さを身につけろ・・・そして自分自身を認めろ。
掴め。
自分がすべきこと、その本来の意味、目的を。
ソロ「は・・・・・・はは・・・・・・・・・。
そうかよ、わかったよ・・・」
自然と笑みがこぼれた。
それなら、やってやる。絶対に耐え切ってやる。
そして自分の無力さを万能の力に変えてやる。
いつか絶対に。
そう決めると、なんだか晴れやかな気持ちになった。
未だに感情を支配する胸が締め付けられるような痛みも、心地よく感じられるほどに。
ソロ「でも・・・・・・悪い。今はまだ無理だ。
レック、ごめんな。迷惑ばっかりかけちまって・・・・・・」
レック「ソロ・・・・・・・いいんだ、もういいんだ・・・・・!!」
涙を流しながらレックが声を絞り出す。
レック「もういいんだよ・・・・・もう充分だろ!?
これ以上・・・・・ッ・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
レック「もうこれ以上、こいつを苦しめないでくれ!!
これ以上こいつを壊さないでくれ!!
頼むよ・・・・・・!!!」
レックは誰に・・何に向かってその言葉を発しているのだろうか。
考えなくたって、ある程度の見当はつくものだけどな。
駄目だ。レック、駄目なんだよ。まだまだ足りないんだ。
俺が自分の力で、自分の望むことができるに至るまでには、まだまだだ。
でもその時には絶対、何があったって、俺の望みどおりに事を運ばせてもらうからよ。
だから安心してくれ。
・・・・・だが今はもう、・・・いかんせん疲れた。
俺は泣き続けるレックの頬を小突いた。
レック「・・・・・・・・・・・」
ソロ「・・・・・・レック」
レック「・・・・・・・・・・・・・・・・何だ・・・?」
ソロ「・・・少し疲れた。・・・・楽になりたい」
俺はそれだけ言うと、静かに目を閉じた。