ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第29話
自分が痛いのが嫌だからって、我が儘を言ってソロさんを困らせた。ロト様をひどく心配させてしまった。自分が身代わりになるとまで言わせてしまった。
なんて、なんて恥ずかしいんだろう。
ムーンの分まで生きるって、ちゃんと悲しいことや怖いことに向き合って、逃げないで、戦うって決めたのに。
ボクは・・・・・・これじゃ何も変わってない・・・・・!
ロト「・・・・・・・・・・・・サマル・・・・・・・・・・・・」
サマル「・・・・・・ボクは、強く・・・・・・なりたいんです・・・・っ
みんなみたいにはなれなくても、せめて・・・足手まといにならないようにっ・・・!
強くなりたいんです・・・・!!」
自然と涙が出てきた。
頼ってばかりじゃいけない。守られるだけの存在で終わりたくない。
今の自分にできるのは、目の前の試練に耐え抜いて打ち勝つこと。
5日目 10時16分 ―ソロ―
天井に格納してある網目状に並んだその装置は確実に、被害者を即行動不能にするためのものだ。
大型の注射器に似たものが無数に並んでおり、それらは全てHFのボトルに繋がっている・・・。
いつだったか、飛ばされた並行世界で見た。
まさしくあの装置で死に至り、そのまま放置され腐敗した自分の死体。
何があったのかはひと目でわかった。
大きな注射器のようなものが体のいたるところに刺さり、そこから体内にあの酸が大量に流れ込む。
それは刺さったその場所を侵食し破壊するだけでなく、血管に入り込み全身に回る。
体中が内側から破壊されていく激痛と絶望の中、息絶えることになったのだ。
サマルが死なない保証はどこにもない。だがそれは誰がやろうと同じこと・・・俺でさえまともに食らえば死ぬのだから。
・・しかし今俺にとって最も辛いのは、その一部始終を見届けなければならないこと。
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5日目 10時41分 ―サマル―
ボクは自分の手がスイッチを押したのを見届けると、どさりと床に倒れこんだ。
息ができない。もはや痛みは感じなかった。体の中身が全部なくなってしまったかのように冷たくて軽く、なのに焼けた岩を体内に埋め込まれたかのように熱くて重い。
喉の奥から溢れる血の濁流が止まらない。視界も赤くにじみ、頭がしびれる。
ボク、このまま死ぬのかな。
・・・・・・ねむい。
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「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ル」
・・・・・・・あれ?
・・・・いま・・・・・誰かに遠くから呼ばれた気がした。
「サマル・・・・・・・・・・・サマル」
・・・・・この声・・・・アレン・・・・・・?
サマル「・・・・・・・・・あ・・・・・」
アレン「サマル!よかった・・・・・!」
・・・ここ・・・は。
待機スペース・・・・・・・・・・・・。
じゃあ・・・・・
・・・!!
ロト「なっ・・・・・!!」
カチャ、と銃を動かす音がして顔を上げると、・・・ボクの目の前には光る銃口が向けられていた。
それを持っているのは・・・・・
アレフ「何をしているのです!やめ・・・・」
銃を取り上げようと近寄ったアレフ様に向かって、ためらうことなく発砲した。
その弾はアレフ様の後ろの壁に当たっただけだった。
ロト「おい、ソロ!!?」
ソロ「・・・・・・・・・・・。」
みんなが自然と戦闘態勢に入る。
そこで、驚きのあまりしばらく固まっていたアレンがボクをかばうように自分の背中に隠した。
アレン「いきなり何なんだ・・・気でも狂ったか!?銃を下ろせ!!」
ソロ「俺はいたって冷静だ。まずはそいつを放せ」
エックス「いやいや、全然意味わかんねえって・・・!どうしたんだよ!」
・・その時。
エイト「・・・銃を、下ろしてください」
チャキ。
・・・・ソロさんの背中に、銃口が当てがわれた。
エイト「貴方が突然何を思ったのかわかりかねますが、どうか落ち着いて。ここでこれ以上銃声が鳴ることは避けましょう」
ソロ「落ち着いているさ。だからこうしているんだ。これが今の俺達に必要なことだからな」
アレフ「なら説明していただこう。どうしようと仰るのです?」
ソロさんはしばらく黙って、無言のまま笑った。
ソロ「・・・・・・・・・・・お前には死んでもらう」
ボクに向けられた銃。トリガーにかかったソロさんの指が少し動いたその時。
ビ―――――――――――――ッ
エイト「!?」
サマル「う・・・!!」
けたたましいブザー音が鳴り響き、部屋全体が揺すられているかのように大きく揺れだした。
するとソロさんは銃をしまい、ボクらがここへ来たはずのドアを蹴破った。
エックス「なっ・・・何してんだ!!?」
ソロ「いいから行け、早く!!」
近くにいたエックスさんの腕を引っ張りドアの奥へ進むよう促す。
わけがわからないうちにボクとアレンも同じように追い出され、全員が出たあとにソロさんも部屋を出た。
その数秒後、ドアの奥に見える今までボクたちのいた部屋が、すっと消えた。
・・・ううん、違う・・・・・・・・・下に向かって消えたということは・・・
サマル「・・・・・落ちた?」
そのまた数十秒後、はるか下の方からガシャァ・・・・となにか大きなものが砕け散るような音が響いて、かすかに耳に届いた。
すると途端に、ボクらの後ろの方からとてつもなく冷たい風が吹いてきて、一瞬にしてボクたちの吐く息を白くした。
ソロさんは横目で後ろを見て、・・そのままボクたちの方を向いた。
ソロ「・・・・驚かせて悪かった。今からこの地下世界を脱出する」
ロト「・・まだあと1つステージが残ってるんじゃないのか?」
ソロ「心配ない。それをやらずに済むようあんな下手な芝居をしたんだ」
そう言うやいなや、ソロさんはボクたちの方を向いたまま―つまり落ちた部屋があった方には背を向けて―後ろ向きに倒れこんだ。
ロト「――――ッ!?」
エックス「おい!!」
もちろん、ソロさんが倒れ込んだ先はどんな高さかもわからない奈落。暗闇だ。
ボクたちがあわててそこを見る。当然ながらソロさんの姿はない。
しかしその直後、垂直に続く真っ暗な空間に白っぽい緑色の光が走ったあと、鋭い放電音が響き渡った。
ロト「・・ライデイン・・・・・――ソロ!!無事なのか!!?」
・・・・・返事はなかった。
アレン「・・・今度は一体何だ・・・・・」
しばらくすると、また光、放電音。しかし今度は目に見える電撃線がすごい速さで駆け上がってきた。そしてそれはボクらの目の前を明るく照らし、よく見れば壁に絡みついていた鎖のようなものに当たって光らせた。
そして、一瞬だったがその光の形は下向きの矢印に見えた。