ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第29話
エイト「・・・・そうですか。・・行きますよ、どうせ手はもう使い物にならないですから」
苦笑気味なエイトの声の直後、アベルの声が下から聞こえた。
アベル「・・ごめん、ナイン君に続くようなんだけど・・・僕も足をやられた。完全にちぎれてるわけじゃないんだけど・・・それから頭からの出血がひどくて。動かないほうがいいのかな・・・」
ソロ「・・・・・・・そうしてくれ。悪いな」
これで瀕死になる通路を通ったまたは通るのはソロ、エックス、ナイン、エイト、アベルの5人。あと1つ以外の4つは行動不能にならない程度ということ・・・
俺は必死になって、残り1つの通路を探した。アレフの通路は・・・見たところ歩けないほどの重体にはならなさそうだ。アレンとアルスも・・・・ということは、あとの1つは・・・・・・
ロト「・・・サマル!サマル、聞こえるか!?」
サマル「う・・・うん、ロト様・・・・」
だいぶ右奥の方からだ。
ロト「多分だが、お前のいる通路は今一番危険だ。何かわかったら言ってくれ」
サマル「・・・・・はい・・・・・・・」
サマルが怯えた声で返事をする。恐怖を煽る言い方になってしまうのは心苦しいが、贅沢は言えない。
しかし・・・子孫であるアレフやアレンが、そして最も今守らなくてはならない存在であるサマルが大怪我をして、下手をしたら死ぬかもしれない事態に陥っているというのに・・・俺はただ1人安全な状態で何もできずにいるというこの事実が、最も苦痛だった。
できることなら代わってやりたい。できるなら・・・・・いや・・・・・・
サマル「ロト様・・・・!」
ロト「!・・どうした?」
サマル「何か見える・・・一番奥の壁にスイッチみたいなのが・・・」
・・!
そうか、おそらくそのスイッチがソロの通路を開くものなんだろう。
ロト「ソロ!」
ソロ「・・ああ、聞いていた。それだな」
サマル「あれを、押せばいいんだよね・・・?」
ソロ「そうだ。・・・その前には何がある?」
サマル「わかんない、けど・・・何か、さっきのユニットにあったのと同じ毒の噴出機が」
ロト「!」
・・あれなら、息を止めていけば平気だったはず・・・・
ソロ「・・待て。それの突起は何色だ・・・?」
サマル「え・・・・・赤い、けど・・・・・」
ソロ「・・・・・・・・・。・・・・サマル・・・・・・それはさっきのとは違う。
その部分の天井に同じ色の突起がたくさんあると思う。それは、この部屋全体の壁にあるHFのボトルと繋がってる」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・どういう意味だ・・・・・・・まさか・・・・・・・・
ソロ「一番最初のステージで出てきただろう。・・・・・・苦手だとは思うが・・・・・・・・奥のスイッチを押してロックを解除しないと進めないんだ」
サマル「・・・・・え・・・・・・・・・?」
サマルのいる通路に目をやり、その天井から伸びている無数の太い管を見ると、それらは途中で枝分かれして暗闇の奥へと続いている。
サマル「え・・・じゃあ・・・・・・・」
ソロ「よく見ると形が違うはずだ。霧を噴出するんじゃなく、液体を注入するものだ」
・・・・・・HFは、初めのステージで俺たちが苦しめられたあの強力な酸だ。
あれが体に触れることで発生する痛みは想像を超えるものだった。サマルのいる通路にある装置がどういうものなのかわからないが、通ろうとすれば絶対に無事では済まないことは確か。
サマル「・・・・・そんな・・・・・・・」
サマルも、きっとあれの恐ろしさを体で知ったのだろう。声がさらに怯えと恐怖を帯び、弱々しくなる。
ロト「・・っ・・・・・・サマル・・・・・・・・・」
・・・・なんてことだ・・・・。なぜ、よりによって・・・・・
5日目 10時13分 ―サマル―
・・・嘘だ・・・・・・・。
あ・・・・あんなに痛い思いを、またしなくちゃならないの・・・・・・?
最初のステージで味わった、じりじりと足を侵食されていく恐怖と激痛を思い出し、体が震え始める。
嫌だ、嫌だ・・・・あんなに痛いのはもう嫌だ。怖い・・・・・!
サマル「やだ・・・嫌だよ・・・・・・・もう痛いのは嫌だ・・・・・・・」
無意識のうちにそう言っていた。
5日目 10時13分 ―ロト―
俺は絶望的な気分で、何も出来ずここにいるしかない自分を呪った。
でも・・・・・方法はあるんだ。
あの子が苦しむ姿を見るくらいなら、自分がその役目を負った方がどれほどいいか。
ソロ「・・・サマル、早くしろ。嫌なのはわかるが時間には限りがあるんだ」
ロト「・・・・・・・・ソロ。時間を戻そう。・・俺がやる。入る通路を入れ替われば・・・」
ソロ「いや、駄目だ」
言い終わる前に、強い口調で断られた。
ロト「・・何故だ・・・?」
ソロ「たった数回しか時間の巻き戻しはできないんだ。死者が出た時しか使うことは許さない」
その時、右奥からすすり泣くサマルの声が聞こえた。
ロト「・・・・・お前にはあの程度、どうということもないのかも知れないけどな・・・サマルは、・・・あの子は違うんだ。お前のように強くは・・・ない・・・」
・・・・・サマルにはやらせない。
俺ははっきりと、そう言い切った。
ロト「お前の言うことは正しいし、理に適っている。あの子を甘やかしてるのは俺たちだ、それは事実だ。お前が好き好んでそう言ってるわけじゃないことも充分わかってる」
ソロ「・・・そうだろうな。でなければどうしようかと思った」
ロト「でもわかってくれ・・・あの子が苦しむところを見たくないんだ。耐えられそうにない」
ソロ「・・・・・・・・・・・・。それは、俺も同じだよ」
その言葉を聞いて、俺はため息を漏らした。
そして詠唱をし、時間を戻す装置に向かってメラミを放った。
・・・が。
ロト「!」
それは空中で起こった魔力の爆発によって阻まれ、相殺された。
その呪文の術者が誰かは考えるまでもなくわかった。
ロト「ソロ・・・!」
ソロ「許さないっつったろ。駄目なんだよ。・・・・理由なんかなんだっていい・・・・・っ・・・・・サマルがやるしか・・・ないんだ」
出血多量で弱っている状態で魔法を使ったからか、少し苦しそうだ。
ソロ「・・・俺がどう思われたって構わない・・・だが絶対に、あの装置を無駄に作動させることはしない。させない。
・・・・全員で生きてここを出るために許さない」
ロト「・・・どうしても、駄目なのか」
ソロ「ああ・・・・・可哀想だがな」
俺はそれ以上何も言えなかった。
その時。
サマル「・・・ロト様・・・ボク、できます・・・やれますっ・・・!
ごめんなさい・・・ごめんなさいっ・・・・できます、からっ・・・・・!」
ロト「・・・・・・・・・・・・サマル・・・・・・・・・・・・」
5日目 10時15分 ―サマル―
2人の会話を聞いているうちに、ボクは今の自分がどれだけ情けないか、どれだけみんなに迷惑をかけているかにようやく気付いた。
ボクがやらなきゃいけない。ボクがやるしかないのに。