ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第33話
そんな真似が出来るとすれば恐らく・・・我々と同じかもしくは、より上にいる存在しかありえん
―えー!?君までそんなこと言うの!?
・・・・全く・・・これじゃ面白みも何もあったもんじゃないよ。抗いようのない運命の中で、人間たちが自分の意思でどうするかを見たかったのにさ?
はあーあ、興醒めだ。とにかく次からはその注意書きが彼らの目に止まらないよう、細工をしなくちゃね
―ふむ・・・しかし、完全に我らに任されているこの儀式に、部外者が手出しをするはずはないのだがな・・・・・
―うん。今しがたみんなに確認したんだけどね・・・誰も知らなかったよ。
でも彼だけは知ってる・・・・・・・“犠牲者”だけは
―・・どういうことだ?
―彼が手に入れた予知能力は生半可なものじゃなかった。
彼は注意書きを書いた存在の正体を知り、それが僕らにはわからないようにしてる
―・・・ただの人間に過ぎなかった奴にそんなことが可能なのか
―もうその認識は、間違ってるってことだね。
僕が言った通りこの儀式の目的を理解し、さらにその結果まで知ってしまった。そして注意書きの主と自分には何らかの、時空を超えた繋がりがあると気付き・・・・・それを隠蔽しようとした。そのために自分という概念まで捨てた。
・・・もしかしたら彼は・・・
―・・・もう、一個の生命体ですらないのかも知れんな。
情報という情報をかき集め、ありとあらゆる元素を取り込み操る細胞の集合体だ。
もはやあれは、生命とは呼べん
―・・・・・・・なんか・・・・可哀相なことしちゃったかも
―・・・・・つまらないこと、の間違いでしょ。馬鹿ね。
調子に乗って虐めすぎたからよ
―・・・お前も見たか
―せっかく面白くなりそうだったのに・・・あーあ、僕としたことが・・・ちょっと彼を過小評価し過ぎてたみたいだ
―全くだわ。・・私も、ここまで化けるとは思いもしなかった。
リトセラ。あんたのせいであれが使い物にならなくなったらどう責任取るのよ?
―わかってるってば。とりあえずそうだな・・・・
君、前から彼に直接会いたがってたよね?このステージでの残りの主権を君に譲ることにしよう。ここからは好きにしていいよ
―まあ。あんたにしてはいい考えじゃない。それじゃ、ありがたく受け取ることにするわ
―僕はその間に、ちょっと用事を済ませてくるかなー・・・
―・・・探しに行くのか?その犯人とやらを
―・・バレた?
―それなら俺も手伝う。お前だけだと相手を八つ裂きどころか存在そのものを消しかねないからな
―そんなに怒ってないよ・・・それに相手が僕らより上の立場である可能性もあるわけだし、そのへんはわきまえるから
―行くなら早めに済ませなさいな。帰ってきた時にはもうこのステージ、終わってるかも知れないわよ。ふふふ
―それはまずいな。よし、じゃあ急ごう
―・・・・・・はぁ・・・・全く・・・・・・
9日目 07時43分 ―レック―
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・。
レック「・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・・オレ・・・・・・なんでベッドで寝てるんだ・・・・?
・・あ、・・・・そうか・・・・・・・・・・・あのあと、倒れて。それで・・・・・
ソロ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
レック「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・ソロは椅子に座って、じっと鏡を見つめていた。
何も言わず無表情で、瞬きすらせず。・・・・呼吸をしているのかどうかも分からないほどに、微動だにしなかった。
オレがベッドから立ち上がり、そばまで行っても、動かないまま。
・・・人形のように、ただそこに在った。
レック「・・・・・・・・・ソロ」
ソロ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
反応はなかった。
オレはそっと手を伸ばし、肩に触れた。
するとアメジスト色の瞳が一瞬だけ揺れ、そしてオレの目の方を向いた。
ソロ「・・・・・・・・・ああ、すまん。少し考え事をしてた」
レック「・・・・・・考え事?」
ソロ「このあとどうするかだ。
・・もう、注意書きは来ないだろう。よっぽど何か特殊な事情がなければ」
レック「・・と言うと?」
ソロ「もう第三者からの手助けはない。自分たちの力だけでゲームに立ち向かわなければならない。そのためのシュミレーションをしていたんだ」
レック「・・・・・・お前には未来がわかってるんだったな・・・」
・・・・オレの知っているソロはもういない。
何も必要としない、本当に完璧な存在になってしまったのだから。
・・そのためにソロは、犠牲になったのだから・・・・。
ソロ「ああ。でも、予知しておくのは必要最低限のことだけだ。それこそ俺たちの生死に関わることだけ・・・それ以外のことはその場で判断するからな」
・・そう言って立ち上がると、ソロは部屋のドアに手をかけた。
ソロ「破壊神たちに勘付かれた。明日にでも行動を起こすべきだ。
それでも運が悪ければ奴らのうちの誰かと戦うことになる・・・」
レック「・・・・そうか」
ソロ「・・・・・・・・お前はどうするつもりだ?」
レック「え・・・?」
ソロは視線だけをこちらに向けて、じっとオレの目を見つめていた。
今までと変わらない、作った無表情。
質問の意味はすぐにわかった。
レック「・・・・・どうもしねえよ。お前に任せる。どうもできないだろうしな」
ソロ「本当にそう思っているか?」
レック「ああ」
あいつが、自分で決めたことだ。それが最善なのだと。
あいつがそう望んだ。
だったら、オレは。
それに従う。それがオレたちのためで、あいつのためなのだから。
・・そう決心したのに、心にはぽっかりと大きな穴があいたままで・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ。
これが後悔というものか。
本当の、後悔というものか・・・・・・・・・。
ソロ「・・どうだろうな。ソロはほんの少しでもお前の心にできる傷を小さくしようとしていた。
・・・・・・案外、お前の思ってた道の方が険しかったかも知れないぜ」
レック「・・・・・・・・・・それでも・・・・それでも・・オレは・・・・・」
ソロ「・・・・・。・・・少し用事がある。お前はまだ休んでいた方がいい」
・・・・・・・扉の閉まる音。
オレは再び横になり、重い体をベッドに預けた。
レック「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・また、涙が出てきた。
・・・・・・・・・・オレはいつまでこの感情に苛まれるんだろうか・・・・・・・・・・。
レック「・・・・・・・・・・・・・・・・ソロ・・・・・・・ソロ・・・・・・・・っ」
・・・・・・・苦しい。
苦しい。苦しい。
胸が痛い。
・・せめてオレがもう少しソロのことを知らなかったなら。
真実を告げられても、きっとあいつにソロの面影を感じることができた。
姿や声や性格が同じなのだから、きっとそう思い込んで言い張ることができた。