ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第34話
9日目 07時17分 ―ロト―
俺は静かに席を立ち、廊下へ向かった。
・・特に考えていることは何もないが、何か得体の知れない不安を感じる。
話し声から離れると、切り離された静かで暗い孤独な空間に、一人取り残されたかのような錯覚に陥る。
廊下が以前よりも長く感じた。
・・・・・・奥の角を曲がると俺は立ち止まった。
ロト「・・・・・・・来たぜ。話って何だ?」
ソロ「・・ああ。悪いな、時間とって」
俺はその時、ソロの目線に僅かな違和感を覚えた。
俺の目を見てはいるのだが、何だか・・・俺の目ではなくその奥の空間を見ているような・・・。
ソロ「とりあえず質問なしで答えてみてくれ。・・お前の名前は?」
ロト「・・?・・ロトだ」
ソロ「上の名前は?」
ロト「上?・・そんなものはないと思うが・・・」
ソロ「そうか。・・それに違和感をもったことは?」
ロト「ないな。自分の名前だし・・・・俺の世界では苗字があるのは地位の高い人間だけだったから」
ソロ「・・成程。ではこのゲームに呼ばれる直前まで、自分がどこで何をしていたか覚えているか?」
・・・・・・・。
ロト「いや、何も・・・・世界を救ったあとどうやってどこに行って、何をしていたのかさっぱり思い出せない。でも俺は・・・・
・・・・・・・・・・・・!?・・・・・」
・・・・っ!?
ソロ「どうした?」
ロト「・・・・・・・俺は・・・・・・・どこかに帰ろうとして。・・・・どこかに・・・・」
・・・・・・・思い出せない。俺は大魔王を打倒したあと、どこかに向かおうとしていたはず。
そこはどこか懐かしくて、とても大切で・・・・よく知っている場所・・・・・
・・・・・の、はずだ。
今まで当たり前に覚えていたし疑問に思ったことすらない。なのに・・・
・・・・・・思い出せない・・・・。
・・そこが、どこなのか。何という名前の場所だったのか。そして、なぜ俺がその場所をよく知っていて大切に思っているのかも。
・・・・・思い出せない・・・・・・・・・・!
ロト「・・・っ・・・・・・・・・・・」
ソロ「・・・・・その場所は、お前の故郷だ。アリアハンという名の城下町。お前はそこで生まれ育った」
な・・・・・・
ロト「・・・・・・なんで知ってるんだ・・・・・・?いや・・・・・なぜ俺はそんな大事なことを忘れていた・・・?」
・・・・・おかしい。どうしてこんな。忘れるはずないのに。なぜ・・・・・・
ソロ「・・・・・他にもたくさん、忘れていることがある。どうしても思い出せないようなら・・・・いや・・・思い出せないだろう。どうやっても。お前はそれらの物事を忘れているわけじゃない」
ロト「・・・・・何を言ってるんだ・・・・・・・?」
ソロ「俺が何を言ってるかわからないということも、きっといつか認識できなくなる。
自分が何を思い出せなくなっているか、できうる限り考えてみてくれ」
ロト「っ・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・そんな・・・・・・・
ソロ「・・・・・・・ひとつ、ヒントを与える。
お前の名前は、『ロト』じゃない」
━─━─第三十四話 Notion
ロト「俺の名前が・・・・?」
ソロ「お前が一番最初に“忘れた”事柄がそれだ。お前は自分の本当の名前を思い出せなくなっている。そしてそれに誰も気付かず違和感さえ持てない」
ロト「待てよ・・・どういうことだよ?本当の名前って・・・・・・」
一体どういうことなんだ?俺の名前はロトで・・・・最初からずっと・・・・
・・・・・・・・・・・・・。
ソロ「お前の存在が上書きされかけているんだ。他には?」
・・・・・・待て。思い出せなくなっている事柄・・・・・・。
・・・まず、俺はそのアリアハンという街で生まれ育ったとして・・・なぜ突然魔王討伐の旅に出かけることになったのか?
たった一人でどうやって大魔王に打ち勝つことができたのか?
いや・・・もしかしたら一人ではなかったのかも知れない・・・。
いつからどれくらいの間、そして・・・・なぜ?
・・だめだ・・・・・思い出そうとすればするほどわからない。
思い出せない。今まで疑問に思ったことなどなくて、思い出せなくなっていることにすら気が付かなかった。
どういうことだ、なぜこんな・・・・・・?
ソロ「疑問に思ったことなどなかった・・・正しくは、お前にはそれらの事柄を疑問に思うことが許されていなかった。今まではな」
ロト「・・・お前には・・・・・わかってるのか、何もかも」
ソロ「ああ。これではっきりした。破壊神・・いや、上層の神々が一体何をしたのか。俺たちを使って何をしようとしていたのか。ようやく納得がいった」
ソロは右手を自分の目の前にかざし、一度閉じると、開いた。
ソロ「手がかりになるかはお前次第だが、少しだけこの世界の内側を見せてやるよ」
するとその手が指先から砂のような粉状のものに変わっていき、ふわりと空中に漂った。
手首・・・肘・・・腕・・・・肩・・・・・・・だんだんと形を失って・・・・・・
ロト「・・・・・・・・・・・――――――――」
やがてソロの全身が姿を失う。俺の目の前にはごく細かな砂粒たちが、かすかに人間の形を残して浮いているだけになった。
するとそれらが突然、上から下に向かって波打つように揺れ始める。その波が通った箇所は色が変わり、時折真っ白で大きな球体のようなものがその隙間から見えた。
ちょうどソロの心臓があったであろう場所に。
何度目かの波が通ったあと、俺は目を見張った。
・・・・・いや、見張る目はなかった。
目の前にあった景色は姿を消し、半透明で不定形な何か―密度の低い透明な何かの塊―がただ、そこにはあった。
そして俺の身体はなくなり、代わりにそこには青い光を放つ球がある。
なぜそれがわかるのかというと、俺の視界は絶え間なく場所を移動しているからだ。
回っていると言うべきか・・・今の状況をあらゆる場所、角度から見ているようだった。
今までソロがいたところにあるゆらゆらと揺れるそれは、異様としか言えなかった。
何もない真っ暗な空間のそこらじゅうに、赤や白、青、緑、黄色などあらゆる色の細い光の線を一定の間隔で飛ばし続けている。
その光はさっきまで俺が見ていた床や、壁、そこにかかっていたランプ、天井などの輪郭を形作っては消える。
つまり・・・・・・・・・これは・・・・・・・・・・・・・
『・・・今見えている景色が、この世界の真の姿だ。青い光の塊が見えるだろう。それが本当の今のお前だ』
・・ソロの声が聞こえる。
『そしてお前の目の前にある半透明のそれが、俺の本当の姿。
・・・催眠術を解いた状態と言うべきか。俺がこうして光の速さや角度を操ることで、お前やみんなにはこの世界やお互いの姿が見えている。俺が何もしなければ、ここは何もない無の空間になる』
・・・・・・・・・・・。
『お前にだけこの状態を見せておく。来るべき時が来たら、詳しく説明するつもりだ』
俺は静かに席を立ち、廊下へ向かった。
・・特に考えていることは何もないが、何か得体の知れない不安を感じる。
話し声から離れると、切り離された静かで暗い孤独な空間に、一人取り残されたかのような錯覚に陥る。
廊下が以前よりも長く感じた。
・・・・・・奥の角を曲がると俺は立ち止まった。
ロト「・・・・・・・来たぜ。話って何だ?」
ソロ「・・ああ。悪いな、時間とって」
俺はその時、ソロの目線に僅かな違和感を覚えた。
俺の目を見てはいるのだが、何だか・・・俺の目ではなくその奥の空間を見ているような・・・。
ソロ「とりあえず質問なしで答えてみてくれ。・・お前の名前は?」
ロト「・・?・・ロトだ」
ソロ「上の名前は?」
ロト「上?・・そんなものはないと思うが・・・」
ソロ「そうか。・・それに違和感をもったことは?」
ロト「ないな。自分の名前だし・・・・俺の世界では苗字があるのは地位の高い人間だけだったから」
ソロ「・・成程。ではこのゲームに呼ばれる直前まで、自分がどこで何をしていたか覚えているか?」
・・・・・・・。
ロト「いや、何も・・・・世界を救ったあとどうやってどこに行って、何をしていたのかさっぱり思い出せない。でも俺は・・・・
・・・・・・・・・・・・!?・・・・・」
・・・・っ!?
ソロ「どうした?」
ロト「・・・・・・・俺は・・・・・・・どこかに帰ろうとして。・・・・どこかに・・・・」
・・・・・・・思い出せない。俺は大魔王を打倒したあと、どこかに向かおうとしていたはず。
そこはどこか懐かしくて、とても大切で・・・・よく知っている場所・・・・・
・・・・・の、はずだ。
今まで当たり前に覚えていたし疑問に思ったことすらない。なのに・・・
・・・・・・思い出せない・・・・。
・・そこが、どこなのか。何という名前の場所だったのか。そして、なぜ俺がその場所をよく知っていて大切に思っているのかも。
・・・・・思い出せない・・・・・・・・・・!
ロト「・・・っ・・・・・・・・・・・」
ソロ「・・・・・その場所は、お前の故郷だ。アリアハンという名の城下町。お前はそこで生まれ育った」
な・・・・・・
ロト「・・・・・・なんで知ってるんだ・・・・・・?いや・・・・・なぜ俺はそんな大事なことを忘れていた・・・?」
・・・・・おかしい。どうしてこんな。忘れるはずないのに。なぜ・・・・・・
ソロ「・・・・・他にもたくさん、忘れていることがある。どうしても思い出せないようなら・・・・いや・・・思い出せないだろう。どうやっても。お前はそれらの物事を忘れているわけじゃない」
ロト「・・・・・何を言ってるんだ・・・・・・・?」
ソロ「俺が何を言ってるかわからないということも、きっといつか認識できなくなる。
自分が何を思い出せなくなっているか、できうる限り考えてみてくれ」
ロト「っ・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・そんな・・・・・・・
ソロ「・・・・・・・ひとつ、ヒントを与える。
お前の名前は、『ロト』じゃない」
━─━─第三十四話 Notion
ロト「俺の名前が・・・・?」
ソロ「お前が一番最初に“忘れた”事柄がそれだ。お前は自分の本当の名前を思い出せなくなっている。そしてそれに誰も気付かず違和感さえ持てない」
ロト「待てよ・・・どういうことだよ?本当の名前って・・・・・・」
一体どういうことなんだ?俺の名前はロトで・・・・最初からずっと・・・・
・・・・・・・・・・・・・。
ソロ「お前の存在が上書きされかけているんだ。他には?」
・・・・・・待て。思い出せなくなっている事柄・・・・・・。
・・・まず、俺はそのアリアハンという街で生まれ育ったとして・・・なぜ突然魔王討伐の旅に出かけることになったのか?
たった一人でどうやって大魔王に打ち勝つことができたのか?
いや・・・もしかしたら一人ではなかったのかも知れない・・・。
いつからどれくらいの間、そして・・・・なぜ?
・・だめだ・・・・・思い出そうとすればするほどわからない。
思い出せない。今まで疑問に思ったことなどなくて、思い出せなくなっていることにすら気が付かなかった。
どういうことだ、なぜこんな・・・・・・?
ソロ「疑問に思ったことなどなかった・・・正しくは、お前にはそれらの事柄を疑問に思うことが許されていなかった。今まではな」
ロト「・・・お前には・・・・・わかってるのか、何もかも」
ソロ「ああ。これではっきりした。破壊神・・いや、上層の神々が一体何をしたのか。俺たちを使って何をしようとしていたのか。ようやく納得がいった」
ソロは右手を自分の目の前にかざし、一度閉じると、開いた。
ソロ「手がかりになるかはお前次第だが、少しだけこの世界の内側を見せてやるよ」
するとその手が指先から砂のような粉状のものに変わっていき、ふわりと空中に漂った。
手首・・・肘・・・腕・・・・肩・・・・・・・だんだんと形を失って・・・・・・
ロト「・・・・・・・・・・・――――――――」
やがてソロの全身が姿を失う。俺の目の前にはごく細かな砂粒たちが、かすかに人間の形を残して浮いているだけになった。
するとそれらが突然、上から下に向かって波打つように揺れ始める。その波が通った箇所は色が変わり、時折真っ白で大きな球体のようなものがその隙間から見えた。
ちょうどソロの心臓があったであろう場所に。
何度目かの波が通ったあと、俺は目を見張った。
・・・・・いや、見張る目はなかった。
目の前にあった景色は姿を消し、半透明で不定形な何か―密度の低い透明な何かの塊―がただ、そこにはあった。
そして俺の身体はなくなり、代わりにそこには青い光を放つ球がある。
なぜそれがわかるのかというと、俺の視界は絶え間なく場所を移動しているからだ。
回っていると言うべきか・・・今の状況をあらゆる場所、角度から見ているようだった。
今までソロがいたところにあるゆらゆらと揺れるそれは、異様としか言えなかった。
何もない真っ暗な空間のそこらじゅうに、赤や白、青、緑、黄色などあらゆる色の細い光の線を一定の間隔で飛ばし続けている。
その光はさっきまで俺が見ていた床や、壁、そこにかかっていたランプ、天井などの輪郭を形作っては消える。
つまり・・・・・・・・・これは・・・・・・・・・・・・・
『・・・今見えている景色が、この世界の真の姿だ。青い光の塊が見えるだろう。それが本当の今のお前だ』
・・ソロの声が聞こえる。
『そしてお前の目の前にある半透明のそれが、俺の本当の姿。
・・・催眠術を解いた状態と言うべきか。俺がこうして光の速さや角度を操ることで、お前やみんなにはこの世界やお互いの姿が見えている。俺が何もしなければ、ここは何もない無の空間になる』
・・・・・・・・・・・。
『お前にだけこの状態を見せておく。来るべき時が来たら、詳しく説明するつもりだ』