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伝説の超ニート トロもず
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ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第35話

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9日目 13時02分 ―サマル―



アレン「・・・おい、サマル。聞いてるのか」

サマル「・・ぁ・・・うん。・・・ごめん、ちょっとぼうっとしてた」

アレン「・・お前やっぱり、しばらく何もしないでいた方がいいよ。
力になれることがあるなら、とか言ってやりたいけど」

アレンは椅子に腰を下ろすと、ため息をついた。

アレン「・・・もう・・・何がなんだかさっぱりだ。何もしてやれることなんかない。
サマル、お前ももうあいつについてあれこれ考えるのやめたほうがいいぞ」

サマル「・・・・・ん」

アレン「気持ちはわかる。俺たちだって何かの役には立ちたい。
けど、・・俺はな、お前が心配なんだ。あれからずっと顔色悪いし、話しかけても返事がないことが多い。多方ちゃんと眠れてもいないんだろ」

サマル「・・・・ごめん。心配かけて」

アレン「謝ってほしくて言ってんじゃねえよ・・・わかるだろ?」


・・少し前、アベルさんに心配そうな声で顔色が悪いと言われた。
多分色んなことがありすぎて、一気に色んなことが分かりすぎて、疲れてしまっているんだろう、って。

実際にそうなのはわかってた。自分がかなり無理してるってことも。
・・でも。

無理してるのは、辛いのは、ボクだけじゃない。みんな同じだ。
・・レックさんはもっと辛い。ボクなんかより何倍も。


アレン「サマル。・・お前がソロから一体何を聞いたのか、俺は知らない。
でも分かることがある。・・・もう、やめろ。あいつを等身大の人間として扱うな。
俺たちがどうこうできる問題じゃないんだよ」

サマル「・・・・わかってるよ。・・わかってる。でも、ボク・・」

アレン「・・サマル・・・お前は優しすぎるんだ。お前は」

サマル「わかってるよっ・・・。・・・・・でもやっぱりこのままじゃダメなんじゃないかって。
僕たちは何か、とっても大事なことを間違えちゃったんじゃないかって・・・」

アレン「もういい。・・もういいんだ」


・・・アレンは苦しそうにそう言って、ボクを抱きしめた。

アレン「俺は・・・お前が辛そうにしてるの見たくないんだよ。もうどうにもできないんだ。だからもういい。お前が苦しまなきゃいけないことじゃない」

ぎゅう、と胸が痛くなって、喉の奥が熱くなった。
・・・・アレン・・・・・・。

・・・ごめんね。ボクのせいで。
ボクのせいで困らせて、心配させて、辛い思いさせて。
そしてこれからもきっと、させてしまう。

サマル「・・・・・・・っ・・・・」

アレン「・・・サマル。あのな・・・」


アレンは僕の両肩を持って、少しの間うつむいてから顔を上げた。







━─━─第三十五話 No one in sight











アレン「・・ひどい言い方になってしまうが、聞いてくれ。
ああいうものはな、まっすぐ見ちゃいけないんだ。
あいつ自身だってそうだ、見ちゃいけないものをずっと見てきた結果だ。
もうやめろ。・・このままじゃお前まで」

サマル「違うよアレン。・・・ボクは大丈夫。強くないから。全部一人で背負うなんて、到底できっこないもん。そんなところまで行けないよ。だから、大丈夫」

アレン「本当にそう思ってるか?・・・お前多分、勘違いしてるぞ。
勘違いっつうか、・・お前どっか勘が良すぎるところあるから。あいつが遠まわしに言いたかったことを違う解釈で・・・お前自身気付かないうちに了解してしまってるかも知れない」

サマル「・・・・・・?」

・・・・・どういうこと・・・?


アレン「・・・やっぱり気付いてないんだな。自分は弱いから平気だって思い込んでるみたいだが、それは違う。よく考えろ、あいつだって最初はそうだったんだよ」


・・・・・・・え・・・・・・・・・・?


サマル「・・・・・・・・・・ぁ・・・・・・・」


アレン「・・お前にはずっとお前でいて欲しい。
だからもう考えるな。理解しようとするな。
・・このままじゃお前が、壊れてしまう」



――自分を見紛えず生きてきた人間に、俺のことを理解できるはずがなかったんだ。できたとしたら、そいつはイカれてる



・・・・・・ボクは、既に警告を受けていた。それはわかってた。
それでもボクはまだ、気付かないうちにソロさんの思考を追いかけようとして。

・・・・・・自ら破滅に向かっている・・・・・?


サマル「・・・・ッ!!!」

アレン「・・どうした?」


・・・・・やっぱりボクは・・・・ボクは。

楽になりたがってるんだ。壊れたがってるんだ。

ソロさんの気持ちを、考え方を分かりたいんだ。
それが自分そのものを破壊しかねないと知っていながら。

あの人は・・・そうすることでしか自分自身に救いを施せなかった。
自分で自分を壊すしか、報われる道がなかった。

でもボクは違う、あの人とは違う・・・違うはずなのに。

・・・・・・・どうして・・・・・・・・・・?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!


サマル「・・・アレン・・・」

アレン「ん?」

サマル「・・・あの、あのね。ボク・・・信じたいんだ。
ボクはみんなに迷惑かけてばっかりで、いっつも足手まといになる出来損ないで、誰にも必要とされてないって」

アレン「はぁッ!?いきなり何言ってんだ、そんなこと・・!!」

サマル「このまま一生みんなに迷惑かけながら、何もできずに死んでいくんだろうなって。
でも・・・ボク、自分でそう思ってないんだね。
まだ何か希望を持ちたがっているんだね。
これでもまだ諦めてなかったんだね」

アレン「・・・・サマル・・・?・・一体何を」

サマル「ボクわかったんだ、今。アレンのおかげで。
ボクはソロさんを思いっきり見下してたんだよ。自分より遥かに下の存在だと。そう思ってたんだ。
今まで真逆だと思ってたけど、違った。そうじゃなかった」


ソロさんは自分の弱さを認めたくなかった。無力さを信じられなかった。他人に見せたくなかった。
だから努力した。そして強く立派になった、誰からも認められるほどに。

じゃあボクは?

自分の弱さを盾にして自分の身を守ってたに過ぎない。
弱いことを言い訳に努力せず、どんなに努力しても駄目なのだと自分を卑下し続けてきた。
何もしなかった。・・何もしなくてよかった。

・・だからこそ、今ならわかる。

彼の破滅を知った、今ならわかる。

・・・ボクは成功者で、ソロさんは失敗者なのだ。

苦痛に耐えて努力を重ねることで、表面上の安心と引き換えに奥底での消耗と崩壊を余儀なくされたソロさんを、ボクは見下していた。
そんな危険な方法でしか身を守れなかったソロさんを、ボクは見下していたんだ。

自分を守るということにおいて、ボクは彼より遥かに優れていた。
強くなるということは自分に頼るということ。同時に他人に頼らなくなっていくこと。
それは自分を追い込み、追い詰めていくことに等しい。
そしてそれを極め完璧な存在となり、誰の助けも必要としなくなった時。

それは・・・・終焉だ。
その人の、終わりの時。

自分以外の全ては、一切必要なくなるのだ。