ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第39話
ソロ「そうか、・・ならいい。お前には見せたくないみたいだ。・・・まったく意味がわからない。何がしたいんだ?」
レック「そりゃこっちのセリフだ。何だよそれ・・・何か伝えたいことがあるならはっきり言え。・・・言えるだろ?」
ソロ「・・・・これからはソロのことを聞きたいならサマルに聞け。
俺からは何も言えることはない。・・・・ただ不可解なだけだ・・・」
レック「何だ、どうしたいきなり・・・やけにショボくれてんな。感情とかないんじゃなかったのか?」
・・わかってる。こうするよう設定されているからだと。
このなんとなく寂しそうな、何かを考えているような表情も。
レック「何かあるなら、言ってくれ。そう予定されてないとしてもだ。あいつのことだから会話とかも最低限でいいように組んでんだろうが、それは却下だ」
ソロ「・・?・・・別に話ならいくらでもできるが」
レック「そうか、ならいいじゃないか。計算で答えをはじき出そうとしないでいてみろよ。そういうこともできるんだろ、一応」
ソロ「一応って。俺はロボットか。そんなにずっと計算してるわけじゃ・・・」
レック「ほら、その調子だ。・・・言ってみろって」
ソロ「・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・ん」
━─━─第三十九話 Fallen
・・・・・・ソロから聞いたのは、これまでに行われてきた平行世界のオレたちのゲームの話だった。サマルがソロの心理を完全に理解しつつある中、“平行世界”を生み出すきっかけとなったソロの特性の副作用か、他の世界の記録を感じ取る力を身に付けたらしいということも。
そこで行われてきた凄惨な、残酷な、悲しい儀式。傷つけ合い、助け合い、憎み合い、そして殺しあった勇者たち。駒を入れ替え、舞台を入れ替え、何度でも繰り返されるゲーム。
そしてこの世界のオレたちは・・・1_1_A01と呼ばれる、すべての平行世界の中で最も優れたオレたちであること。神々は単純に勇者を消そうとしているのではない、それだけはみんなに伝えられると。
レック「・・それだけか?・・他にオレに言いたいことがあるんじゃないのか?」
ソロ「・・・?」
レック「こら、オレの思考を読もうとするな。自分に心があると信じて、考えてみるんだよ。・・そうしないとお前の知りたいこともわからないだろう」
ソロ「・・・そうなのか?・・・・・少し時間をくれ」
そう言ったきり、ソロはそのまま下を向いて静止してしまった。
・・・・・1分、2分と無音の時間が過ぎていく。
レック「・・・・・・・・・どうだ、少しは浮かんだか?」
7分ほど待ったところで声をかけた。ソロが顔を上げる。
ソロ「駄目だ、時間が足りない。感情というものはどうも苦手だ・・不規則すぎて場合分けが」
レック「だからー、計算するなってば。何て言えばいいのかな・・・あ。
お前さ、その体は一応人間と同じ作りの肉体なんだろ?」
ソロ「そうだ。即席だからその場その場で多少誤差が出るがな」
レック「うん。じゃあ、クリアをまず全部しまえ。それなしで、頭だけで考えてみろよ」
ソロ「それは無理だ。俺の体が粉々になっちまう」
レック「あーそう、じゃあ思考には絶対に使うな。使うのは脳ミソだけにしろ」
ソロ「・・厳しいな・・・何百時間かかるかな」
レック「・・アホか!バカか!オレの言ってる意味わかってねーだろっ」
呆れ果てて溜め息をつくと、ソロは困った顔でオレを見た。・・・仕方ないなあ・・・・。
レック「クリアの細胞で計算してるんじゃ絶対、どんだけかかっても、人の心なんて理解できねえの!何か式に当てはめるとか、場合分けとか一切無視!その瞬間に思ったこと、感じたことだよッ」
・・ソロはうっすら口を開けたままきょとんとしている。
レック「よくわかんねーと思うけど、やってみろ。お前ならできるって」
ソロ「・・何を根拠に。第一俺がお前に伝えるべき感情論なんて・・・」
レック「とやかく言わず、やる」
オレにはわかるんだ。ソロが何か言いにくいことを言いたがってる時の表情は覚えてる。こいつには自覚がないだろうが、さっきのはまさにそれだった。
あいつ、ほんっとに忠実に自分を創ったんだな・・・。
ソロ「・・・・・。・・・・・・・・。・・・・・・・・・・。・・・・・・・・~♬・・・」
レック「・・!」
しばらく沈黙が続いた。オレは目を瞑ってソロが何か言い出すのを待っていた・・・が。聞こえてきたのは言葉ではなく・・・
ソロ「・・・~♬・・♫・・♪―~・・♪♬~♪♫―・・・・・」
つぶやくようなか細い声、聞き覚えのある寂しげなメロディライン。この歌は一度聞いたことがある・・・いや。
・・・2度だ。・・オレは2度この歌を聴いている。そう、2度目はつい数十分前に。・・そうだ、わかった。・・・・成功したんだな・・・。
レック「よし、それでいい。そのまま続けるんだ」
ソロ「・・・。・・―♬♬♪―~・・♬♬♪―~・・・♬♫♬―・・♫――~・・・・」
ソロは少しオレの方を見てから、もう一度歌いだした。
・・何かを思い出すように。歌詞の意味はわからないが、海の底を漂うような重く儚げな旋律から、悲しみを歌っていることはわかる。
そう、これは。「悲愴」の中で聞いたあの歌。
ソロの声は、あの時の「悲しみ」の歌声そのものだ。やはり・・・・
レック(・・・・・まさか、・・・・あいつ・・・・・・・・・・・・・!)
・・思考の片隅で何かが光った。・・・・あいつが・・・ソロがこいつにさせようとしてるのは・・・。
ソロ「♬♫―♫―・・・♫――~・・♬―♪♬―~・・・・」
レック「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ソロ「♬♪―・・・。・・・?・・・・・どうした?」
オレは、ソロがこいつに本当に託したものに気付いた。あいつは、あいつは・・・諦めてなどいなかったのだ。自分という存在を消し、記録を抹消し・・・・・そして・・・・・・。
涙が出ていた。気付かないうちに。そうか、やっと、わかった。今こそ全部・・全部オレにこれを、自分の力だけで気付かせるためだったんだ!夢での告白、あの感情の世界、そして生まれたばかりに戻った自分の分身!
ソロ「・・何で泣いてるんだ?・・・・・・悲しいのか?」
レック「違う。嬉しいんだ。・・オレは嬉しいんだよ。いいかよく聞け、
お前に感情がないなんて嘘だ!心がないなんて嘘なんだよ!!
全部・・わかったんだよやっと・・・!!」
ソロ「・・・・??・・・何がわかったんだ。クリア使ってもいいか?」
レック「・・・駄目だ。今は何もわからないだろ、それでいいんだ!
ソロはお前を創った最後の目的を、お前にインプットしてないんだよ・・・でもそれでいい、オレが何をするべきなのか・・・・・これでやっと・・・・・・」
ソロ「・・なあ・・・何言ってんのか全然わかんねえんだけど・・・」
レック「いい。気にするな・・・。なあ、お前は今どうしてその歌を?」
ソロ「え?お前の言った通りにしたんだよ。一旦全部シャットダウンして・・・何も考えずにしようと思ったことをした・・・理由はよくわからん」