ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第41話
ロト「・・俺は勇者ではない。人間でもない。生き物でもなければ物でもない」
透けた自分の手を眺めながら、ロトは小さく微笑んだ。
ロト「なぜなら俺は、勇者という存在の中に自動的に生まれる思考の傾きであって、実体を伴うものではないから。・・・そうなんだろ、破壊神」
アレン「・・・っ・・・・ロト様・・・?一体何を・・・」
アレンが喋り出すと同時に、一人分の拍手の音が聞こえた。
イザリエだ。
イザリエ「よく気付いたわね・・・さすがだわ。自分という存在の在り処を探すのは決して簡単なことじゃない。私達でさえ時に迷う難問よ」
・・・・・・。今ここに存在している自分は、一体どれだけの物や生命を犠牲にしているのだろう。一体どれだけの人の人生を無慈悲に奪い、それに気付かず過ごしてきたのだろう。
オレは、・・・・いや。
オレたちは一体、何なんだ?
イザリエ「自分達を、それぞれが一人ずつの人間だと思わないことね。まずはそれを自覚しなさいな。貴方のようにね・・・“アレル”」
・・・・・アレル?
ロト「・・・・それが俺の名前なのか・・・?」
イザリエ「ええ、遥か昔のね。今はもう違うわ。
・・貴方は“ロト”。邪悪を滅ぼし世界に光をもたらす、「勇者」という概念そのものなのよ」
・・・・・やはりそうだったか。その“概念”の名前が、ロト。
アレフ「・・・・・概、念・・・・」
サマル「・・・・・・・・・・・・・」
イザリエ「思い出してご覧なさい。ゲームが始まった時、貴方だけは最初から意識があった・・・そして本来なら無条件で死に至るはずの場面を何度も生還している」
ロト「・・・・・・・・ああ。確かにそうだ」
・・・・なんという、無慈悲。不条理。
イザリエ「人間だった頃のことを、名前すらも思い出せなくなっているのはそのせいよ。実のところ、貴方の魂はもうとっくに消滅しているの。思い出せるはずがないのよ・・・」
少女のくすくす笑いが脳内に木霊する。・・ロトはゲームが始まる以前に、人間としての記憶を全て消去され、神々に魂を奪われていたのだ。そしてその存在は“概念”として上書きされていた・・・・。
アレン「・・・魂が・・・消滅してるだと・・・・?ほざけッ!!何を訳のわからんことを!!」
ロト「いいんだ、アレン。・・これは事実だ。俺はもう、人間の勇者じゃなかった。・・・何だかな・・・そんなような気はしてたんだ。俺という人間はもうとっくに死んで、消えてるんじゃないかって」
アレフ「そ・・・んな、ロト様・・・」
ソロ「その通りだ。・・お前の本当の名前は“アレル”、かつて大魔王を打ち倒し世界を救った人間。そして俺たちの生きた宇宙の中で一番最初に生まれた勇者だ」
━─━─第四十一話 Silver Fingers
突然背後からソロの声が聞こえた。振り返ると、半透明ではない完全な姿のソロが歩いてきていた。だが、上空からはまだ歌声が響いている。
見上げるとそこには、目を閉じ両手を広げて歌い続けるソロの姿がある。
・・ソロが二人いる。
ソロ「だが今のお前はここにいる一人の人間ではない。この宇宙の全ての場所、全ての時間に存在し、あらゆる生命と事象に影響を及ぼすもの。言葉にするならそう・・・“正義”だ」
・・・まさに、正義という概念。悪を倒し、世界に安寧秩序の光を取り戻す理。
アルス「・・・ソロさん?どうして・・・」
イザリエ「あら、鈍いのね。彼もまた同じものなのよ。もっとも彼は自分で自分を創り変えたのだけれど。この世界のルールから外れた存在・・・だからルールから逸れた超常的な現象を起こすこともある程度は可能なの」
おそらく今オレの隣にいるソロは、ソロの本体がクリアで造り出したレプリカ。肉体だけの人形を糸で操っているのと同じだ。
ソロ「そして俺たち勇者が生まれ、悪を倒すというセオリーを図らずも作り出したのがお前だ。そのために人間だったお前の存在は消え去った。世界を救う理を生んだ代償として」
ロト「・・・・・そうか。・・そうだったんだな。俺は・・・・・・・」
・・・ロトはうつむき、握り締めた両手を見つめる。
・・そして、顔を上げた。
ロト「わかった。それが俺に与えられた運命なら、戦おう。魂が消えてもなお人のために、世界のために戦えるなら、“正義”としてこれほど嬉しいことはない」
その瞳には力強い光が宿り、悲しみや絶望など微塵も感じさせない勇壮な力が溢れていた。
同時にその体を包み込むようにして眩い光が渦を巻く。
レック「・・・・・!!」
ソロ「・・その言葉が聞きたかったぜ。これでようやく自分の役目を全うできるってもんだ」
光が薄れて消えると、ロトの身体は半透明ではなくしっかりとした輪郭と色を持っていた。
そしてオレたちと同じように、ソロの歌の力が及んでいる。
ソロ「心配はいらない。魂が消えたところでそう変わりゃしないさ」
アレル「・・ああ。頼りにしてるぜ」
――――――――――
―――――
――プレイヤー人数変動、概念の“具現化”を確認。
生存者残り??名。要観察。至急、記録の確認及び改竄をされたし。
イザリエ「・・・ふふ。やっぱり貴方達を選んだのは正解だったわ」
全員の体力が尽きかけた頃、破壊神は徐ろに動きを止めた。
イザリエ「楽しみねぇ・・・・くすくす、本当に楽しみだわ。さすがに最優秀者をかき集めただけあるわね・・・」
湧き上がる愉悦を堪えきれないといった様子で笑み、歓喜に打ち震える。そして天を仰ぎ・・・
イザリエ「うっふふふふふふ、素晴らしいわ!!これがニンゲンの可能性と言うものなのね・・・!!貴方たちならきっと成し遂げてくれる、私達の辟易を次元の彼方まで吹き飛ばしてくれるに違いないわッッ!!」
ソロ「・・・ああ、約束しよう。今までの退屈が億単位で消し飛ぶくらいのゲームにしてみせる」
満身創痍のまま、ソロはイザリエのもとへ歩いて行った。そして、小さな西洋人形に手を差し伸べる。
ソロ「・・つーわけで、今日のところは見逃してくんね?」
ふっと空間が暗くなり、ソロの本体が発している歌声が途切れた。
レック「・・・・うっ」
エイト「っく・・・・」
途端、羽毛のように軽かった身体に本来の重さとダメージが蘇る。
イザリエ「・・ええ、いいわよ。私は満足したわ。見事よソロ・・・リトセラがご執心なのも頷けるわね」
破壊神は嬉しそうに微笑み、その凶悪な魔力を収めた。
そしてソロの手を取り、空中に浮かび上がる。
イザリエ「それから、ささやかだけどご褒美をあげる。貴方のその不可解極まる性質はまさに賞賛に値するわ」
小さく白い手が、血で汚れたソロの頬に添えられる。
イザリエ「このよく出来た血肉人形を分解する手間を省いてあげる。造作もないことでしょうけど、お仲間さん達にとっては、貴方が自分でやるのと私が破壊するのとでは雲泥の差だわ」
ソロ「お心遣い、痛み入る。・・できればあんまりグロくならないようにして欲しいんだが」
透けた自分の手を眺めながら、ロトは小さく微笑んだ。
ロト「なぜなら俺は、勇者という存在の中に自動的に生まれる思考の傾きであって、実体を伴うものではないから。・・・そうなんだろ、破壊神」
アレン「・・・っ・・・・ロト様・・・?一体何を・・・」
アレンが喋り出すと同時に、一人分の拍手の音が聞こえた。
イザリエだ。
イザリエ「よく気付いたわね・・・さすがだわ。自分という存在の在り処を探すのは決して簡単なことじゃない。私達でさえ時に迷う難問よ」
・・・・・・。今ここに存在している自分は、一体どれだけの物や生命を犠牲にしているのだろう。一体どれだけの人の人生を無慈悲に奪い、それに気付かず過ごしてきたのだろう。
オレは、・・・・いや。
オレたちは一体、何なんだ?
イザリエ「自分達を、それぞれが一人ずつの人間だと思わないことね。まずはそれを自覚しなさいな。貴方のようにね・・・“アレル”」
・・・・・アレル?
ロト「・・・・それが俺の名前なのか・・・?」
イザリエ「ええ、遥か昔のね。今はもう違うわ。
・・貴方は“ロト”。邪悪を滅ぼし世界に光をもたらす、「勇者」という概念そのものなのよ」
・・・・・やはりそうだったか。その“概念”の名前が、ロト。
アレフ「・・・・・概、念・・・・」
サマル「・・・・・・・・・・・・・」
イザリエ「思い出してご覧なさい。ゲームが始まった時、貴方だけは最初から意識があった・・・そして本来なら無条件で死に至るはずの場面を何度も生還している」
ロト「・・・・・・・・ああ。確かにそうだ」
・・・・なんという、無慈悲。不条理。
イザリエ「人間だった頃のことを、名前すらも思い出せなくなっているのはそのせいよ。実のところ、貴方の魂はもうとっくに消滅しているの。思い出せるはずがないのよ・・・」
少女のくすくす笑いが脳内に木霊する。・・ロトはゲームが始まる以前に、人間としての記憶を全て消去され、神々に魂を奪われていたのだ。そしてその存在は“概念”として上書きされていた・・・・。
アレン「・・・魂が・・・消滅してるだと・・・・?ほざけッ!!何を訳のわからんことを!!」
ロト「いいんだ、アレン。・・これは事実だ。俺はもう、人間の勇者じゃなかった。・・・何だかな・・・そんなような気はしてたんだ。俺という人間はもうとっくに死んで、消えてるんじゃないかって」
アレフ「そ・・・んな、ロト様・・・」
ソロ「その通りだ。・・お前の本当の名前は“アレル”、かつて大魔王を打ち倒し世界を救った人間。そして俺たちの生きた宇宙の中で一番最初に生まれた勇者だ」
━─━─第四十一話 Silver Fingers
突然背後からソロの声が聞こえた。振り返ると、半透明ではない完全な姿のソロが歩いてきていた。だが、上空からはまだ歌声が響いている。
見上げるとそこには、目を閉じ両手を広げて歌い続けるソロの姿がある。
・・ソロが二人いる。
ソロ「だが今のお前はここにいる一人の人間ではない。この宇宙の全ての場所、全ての時間に存在し、あらゆる生命と事象に影響を及ぼすもの。言葉にするならそう・・・“正義”だ」
・・・まさに、正義という概念。悪を倒し、世界に安寧秩序の光を取り戻す理。
アルス「・・・ソロさん?どうして・・・」
イザリエ「あら、鈍いのね。彼もまた同じものなのよ。もっとも彼は自分で自分を創り変えたのだけれど。この世界のルールから外れた存在・・・だからルールから逸れた超常的な現象を起こすこともある程度は可能なの」
おそらく今オレの隣にいるソロは、ソロの本体がクリアで造り出したレプリカ。肉体だけの人形を糸で操っているのと同じだ。
ソロ「そして俺たち勇者が生まれ、悪を倒すというセオリーを図らずも作り出したのがお前だ。そのために人間だったお前の存在は消え去った。世界を救う理を生んだ代償として」
ロト「・・・・・そうか。・・そうだったんだな。俺は・・・・・・・」
・・・ロトはうつむき、握り締めた両手を見つめる。
・・そして、顔を上げた。
ロト「わかった。それが俺に与えられた運命なら、戦おう。魂が消えてもなお人のために、世界のために戦えるなら、“正義”としてこれほど嬉しいことはない」
その瞳には力強い光が宿り、悲しみや絶望など微塵も感じさせない勇壮な力が溢れていた。
同時にその体を包み込むようにして眩い光が渦を巻く。
レック「・・・・・!!」
ソロ「・・その言葉が聞きたかったぜ。これでようやく自分の役目を全うできるってもんだ」
光が薄れて消えると、ロトの身体は半透明ではなくしっかりとした輪郭と色を持っていた。
そしてオレたちと同じように、ソロの歌の力が及んでいる。
ソロ「心配はいらない。魂が消えたところでそう変わりゃしないさ」
アレル「・・ああ。頼りにしてるぜ」
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――プレイヤー人数変動、概念の“具現化”を確認。
生存者残り??名。要観察。至急、記録の確認及び改竄をされたし。
イザリエ「・・・ふふ。やっぱり貴方達を選んだのは正解だったわ」
全員の体力が尽きかけた頃、破壊神は徐ろに動きを止めた。
イザリエ「楽しみねぇ・・・・くすくす、本当に楽しみだわ。さすがに最優秀者をかき集めただけあるわね・・・」
湧き上がる愉悦を堪えきれないといった様子で笑み、歓喜に打ち震える。そして天を仰ぎ・・・
イザリエ「うっふふふふふふ、素晴らしいわ!!これがニンゲンの可能性と言うものなのね・・・!!貴方たちならきっと成し遂げてくれる、私達の辟易を次元の彼方まで吹き飛ばしてくれるに違いないわッッ!!」
ソロ「・・・ああ、約束しよう。今までの退屈が億単位で消し飛ぶくらいのゲームにしてみせる」
満身創痍のまま、ソロはイザリエのもとへ歩いて行った。そして、小さな西洋人形に手を差し伸べる。
ソロ「・・つーわけで、今日のところは見逃してくんね?」
ふっと空間が暗くなり、ソロの本体が発している歌声が途切れた。
レック「・・・・うっ」
エイト「っく・・・・」
途端、羽毛のように軽かった身体に本来の重さとダメージが蘇る。
イザリエ「・・ええ、いいわよ。私は満足したわ。見事よソロ・・・リトセラがご執心なのも頷けるわね」
破壊神は嬉しそうに微笑み、その凶悪な魔力を収めた。
そしてソロの手を取り、空中に浮かび上がる。
イザリエ「それから、ささやかだけどご褒美をあげる。貴方のその不可解極まる性質はまさに賞賛に値するわ」
小さく白い手が、血で汚れたソロの頬に添えられる。
イザリエ「このよく出来た血肉人形を分解する手間を省いてあげる。造作もないことでしょうけど、お仲間さん達にとっては、貴方が自分でやるのと私が破壊するのとでは雲泥の差だわ」
ソロ「お心遣い、痛み入る。・・できればあんまりグロくならないようにして欲しいんだが」