ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第41話
イザリエ「それは約束できかねるわね。貴方達の基準は私にはよくわからないの。まあ見なければいい話よ」
ぱちん、と細い指が鳴った。
イザリエ「それじゃあね」
何人かが瞬間的に目を閉じ、耳を塞いだ。
残念ながらオレはタイミングを逃し、ソロの身体が内側から弾けて飛び散る様をがっつり見ることになってしまったが・・・。
そしてそれを見届けると、破壊神は小さく笑み、くるりと回って消えた。
レック「・・・・・・・。・・・・・ソロ」
ソロ「ああ」
半透明の“概念”モードを解除したソロが、ゆっくりと降りてくる。
ソロ「・・さて。突然知らない言葉ばかり出てきて戸惑ったと思うが、まあ大半はもう説明しちまったな。何か補足で聞いておきたいことがある奴いるか」
エックス「・・・・・・えぇー・・・・・・」
アルス「・・・うん。なんかもう、いいや」
ソロ「あ、そう?・・じゃあ“概念”の説明だけしておくか」
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アベル「・・つまりは、今の二人は一個の生命体ではなく、僕たちが自然と認識している世界のルールみたいなものが具現化した存在だということかい?」
ソロ「ああ。ロトが“世界を救う正義”なら俺はさしずめ“多次元宇宙と運命”ってとこだな」
アレフ「・・・では・・・私達が、いえ、世界中がロト様の本来のお名前を存じていなかったのも、全て・・・」
ソロ「・・・・こればっかりはしょうがねえよ。相手は神だ。世界の記録や歴史を改変するのなんて朝飯前だろうよ」
エイト「・・では、このゲームが終わったあと、お二人はどうするんですか?もう人間には戻れない・・・ですよね」
ソロ「そうだな。まあ俺は自分で勝手にやったからいいとして。・・ロトは・・おそらく時間が経つにつれて人間だった頃の記録が消えていき、最終的には一人の勇者の伝説という形ではなく完全に“勇者”というとてつもなく広い意味の約束事になる。さらに時間が経てば人格や意識も消え、世界を包むルールそのものに変わるだろうな」
アレン「どッ・・どこまでもふざけやがって・・・!!何故ロト様がそんな!!」
その空間を出て、屋敷の玄関ホールまで戻ってきたオレ達は、緊張が解けて徐々に膨れ上がってきた疑問を解決する作業に追われていた。・・殆どはソロが質問に答えるのだが。
サマル「・・・それって、もしボク達が生きて元の世界に帰れたとしても、人間で勇者だったロト様のことはだんだん忘れていっちゃうってことだよね・・・?」
ソロ「ああ、記録が抹消されるからな。ただどこか漠然と、最初に世界を救った勇者がいた・・という事実は受け継がれていくだろう。その人物の名前や具体的な功績は、時間の流れによって風化したという設定になる」
アレン「そんなことが許されていいのか!?神だというだけで、ただそれだけでこんなにも理不尽に魂を弄ぶことが許されるというのかッ!!?」
明かされていく真実の大きさに比例して、そのあまりの不条理さに疑念が怒りへと変わっていく。・・当然だ。
ソロ「ああ、そうだ。悔しいだろうが逆らうことはできない。・・俺だって昔は理不尽だと思ってたさ。いや、今も少し思ってる。・・だがそういうものだ」
・・・・・。だろうな。そう言うだろう。そんな理不尽極まりないルールを押し付けられ続け、その中で何百年も生きてきたソロにとっては、これはもう理不尽ですらない。
納得せざるを得ないだろう。
・・・薄々感じていたことをきっぱりと言い切られたためか、アレンは拳を握り締めて地面を睨んだ。・・きっとみんなも同じ気持ちだろう。
オレは少し悩んでから、口を開いた。
レック「・・なあ。ちょい話変わるけど、今この世界でのロトはちゃんと人間の体を持ったんだよな?お前のおかげで」
ソロ「ああ。厳密には違反行為だけどな」
レック「でもって本当の名前もわかったわけだし・・・んー」
さっきからずっと黙ったままでいるロトに目を向ける。
レック「お前的には、どっちで呼ばれたい?・・やっぱもともとの名前の方がいいかな、えっと・・・アレル?」
すると当人が答えるまでもなく、
エックス「そりゃーそうだろ。せっかくわかったんだし、自分の名前じゃないので呼ばれたってなあ」
アレフ「そ・・・そのような単純なことではないのです、私どもにとっては以前より、その・・・」
レック「あー、確かに子孫組からしたら違和感すげえもんな。どう?」
サマル「・・・でもボクはやっぱり、本当の名前の方がいいと思うな」
アレン「俺も同意見だ。それが人間であり勇者であるロ・・アレル様への真の敬意となるはずだ」
エックス「だってよ」
アレフ「・・・・ふむ。一理ありますな」
アレン「あっいえ、アレフ様に強要しているわけでは・・・」
そんなやりとりが続く中、ロト・・・アレルはそれを聞きながら微笑んでいた。
その表情は安らぎに満ちていて、今までの張り詰めたような緊迫感が消えている。
レック「・・よかったな・・って言っていいのか?」
アレル「・・・ああ。単純に嬉しいよ。自分がどういう存在で、人間として生を受けた理由も本当の名前も知ることができた」
そして子孫たちに言った。
アレル「みんな、ありがとうな。なんか俺・・吹っ切れたわ、もちろんいい意味で。確かに俺はこのゲームが終われば、あとは忘れられていくだけの存在になるのかも知れない。だけど俺がいることで君達が生まれ、それぞれの生を歩んでいくことができるならそれで十分だ。それだけで十分に満ち足りて、幸せだ」
アレン「・・・・・・・・アレル様・・・・・・」
アレル「あ・・・ついでに言えば、ここで俺が死ぬことで君らが消えてしまうという心配もなくなったわけだしな。はは、なんだか肩が軽くなっちまった。率直なところ結構安心してる。・・ごめんな、あんま格好良いとこ見せられなくて」
サマル「・・・・そんな、っ・・そんなことないですよっ・・・ボク、・・・・・・ボクっ・・・」
アレンとサマルが感動で泣き出し、そしてしばらく固まって微動だにしていなかったアレフが突然高速でアレルの前に跪いた。
アレフ「・・なんという勿体無いお言葉・・・!!このアレフ、貴方様の偉大なるご覚悟に値する決心の元この命を賭しましても・・・!!」
エックス「あ、また始まった」
ナイン「・・・・・・・・くすっ」
・・・・・・・・・・・。
レック「・・・・。・・・」
ソロ「・・どうかしたか?」
レック「・・・・いや。その、・・・つくづく非道いゲームだなと思って」
ソロ「ああ。・・彼女はあいつの本当の名前を知らないままだったな」
レック「っ、言わなくていいっつの。・・いつかは・・・知ることができるのかな」
ソロ「・・そうさな。人間誰しもいつか死ぬ。きっと誰かが教えてやれるよ。なあサマル」
サマル「・・ぐすっ・・・え?・・呼んだ・・・?」
ソロ「ん、聞こえてたか。・・ちなみに、“ロト”ってのはどこからどう由来したのか知ってるか?」
アレル「ああ、それはさっき思い出したぜ。アレフガルドの創造に関わった大精霊の人間名だったんだろう?」