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伝説の超ニート トロもず
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ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第42話

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10日目 12時00分 ―エイト―


・・・・・僕らはアベルさんが開けた扉をくぐって、その部屋から出た。
扉が閉まった瞬間、迫ってくる歯車のひどい振動も音もぴたりと止んだ。

・・・空気が無音に満ちる。

エックス「・・・・なんで・・・・・・・・・・・」

レック「・・・・・・・」

エックス「・・なんでだよ。・・もう誰も死なせないんじゃなかったのかよ。どうして・・・・・・・・・・なんで」

レック「もう、手遅れだった。誰が助けに入っても無駄だった。例えあの場所から引きずって連れてきたとしてもすぐに」

エックス「なんでそんなことわかる!?まだ息があった、喋ってたじゃねえかよ!!」

アベル「自力で移動するのは不可能だった上に、あんな場所に刺さったんじゃあ失血死は免れない。傷口が焼けていても無理がある。・・もし連れてきていたら彼が事切れる瞬間を間近で見ることになっていたよ。それでも、よかったのかい」

エックス「ッ・・・・・・・・・」

アベルさんの声は低く、抑揚がなかった。その表情はこれ以上ないほど沈んでいる。うつむき気味になっているせいで目もとに影が落ちていたが、それだけはわかった。

エイト「・・本当にどうにもならなかったんですか。・・・ソロさん。貴方の力を以てしても不可能だったんですか」

ソロ「・・・・・・・・・・・・」

僕が声をかけたその人は、右肩から先がなく、普通に立っていられるのが信じられないほどの重傷を負っていた。怪我と表現するのがおかしいくらいに、全身がズタボロで・・・残っている左腕も砕けた骨があちこち露出していて、未だに血が床に滴り落ちている。

ソロ「・・・・・・そうだな。彼を助けることは絶対に不可能だった。どう足掻いても絶対に」

そう言って、僕の方を振り返る。
・・背筋が冷たくなるほど・・・無表情だった。

ソロ「俺がそう言いさえすれば、満足なのか?」

レック「・・・ソロ」

エイト「・・・だとしたら、まだ助かる保証のあるサマルさんだけを連れてきたのは正解でしたね」

僕はずっと見ていた。
泣き叫びながら手を伸ばすサマルさんの右足を掴んで引きずり、容赦なく引っ張っていく。一度たりとも振り向くことなく迷いなく・・・
普通の精神を持っていたらあんなことができるわけない。

エイト「もちろん貴方を責めるつもりはありませんし、僕にはそんな権利ありません。ただ気付いたことがあったんです」

・・・・。ムーンさんが亡くなった時のあの様子が演技じゃなかったってことは、もうわかった。だったら。
・・もしそうじゃないなら、深く傷付いた彼の心にひどい追い討ちをかけてしまうことになるだろう。でも・・・これだけは。

エイト「貴方は・・・こうなることを、知っていましたよね」

エックス「・・エイト!」

エイト「そうでなければおかしいです。いくら貴方が無感情を装っていようと、あそこまで迷いのない行動ができるなんて不自然すぎる」

・・ソロさんは一切表情を変えず、黙って僕を見ている。

アレル「・・やめないか、エイト」

エイト「貴方の冷酷は演じているだけだ。僕達はもうそれを知ってるんです・・・貴方が本当はどんな感情を持っているのか。敢えて酷な言い方をしますけど、あんなに早く仲間を見捨てられるなんておかしい」

レック「っ・・・・・――・・・・・」

・・レックさんが何か思い出したように顔を上げかけて、しかし苦しそうにまた視線を下げた。

ソロ「・・・そうかもな。でももし俺が何もしないで自分だけ戻って来てたら、サマルだって今頃挽き肉だぜ」

エイト「ええ。それはわかってます。それを差し引いたとしても、あまりに決断が早かったように思えるから言ってるんです。教えてください。貴方はこうなることを知っていたんですか」

・・決して考えられないことじゃない。むしろその方がしっくり来る。彼は今や、僕らの考えの及ばない領域に達しているのだ。現に彼は「鍵」が何なのかわかった時、これだけはやりたくなかったと呟いていた。

ソロ「・・今はとりあえず、そうだと答えておく。じゃないと納得できないんだろう」

エイト「――っ」

ソロ「俺は、俺たちにとって最善となることをした。それだけは間違いないが、同時にそうとしか言えない。・・後悔する権利なんてないさ」

閉じた扉を見つめて、下を向く。

ソロ「感情に左右されて判断を誤れば取り返しのつかないことになる。俺の心なんてどうだっていい。どう思われようと構わない。その時にできる、最善のことだけをする」

エイト「・・・・・・・・・・」

・・何も言えなかった。今さら彼に、自分の心を蔑ろにするななどと言っても仕方がないことはわかりきってる。もはやそんな綺麗な言葉で動くほど、彼の心は正直でも健全でもないのだから。

エックス「・・・そんなこと。・・・っ・・・もう、やめよう・・・ここで何を言ってたって時間が戻るわけじゃない・・・・」

・・・・・・・・・・。・・・確かにそうだ。ソロさんが知っていようがいまいが、きっとあの人のやることは変わらないだろう。

ソロ「・・だな。・・・・急いでここを出よう。ぐずぐずしてると失血死する」

アベル「・・・これで「鍵」は手に入ったということかい?」

ソロ「ああ。ただ一人分の魂が欠損してしまった。それを埋めるために新しい何かが必要になる」

レック「・・・・・それは何だ・・・・?」

ソロ「・・・・・誰か一人の、命だ」





━─━─第四十二話 Apocalypse






アレル「・・・どういうことだよ。・・・まさか今からまた誰かが死ななきゃならないなんて言い出さないよな・・・・?」

ソロ「・・・・・・・・」

エックス「おかしいだろ、欠けた魂を埋めるのにさらに命を減らすなんて・・・ッ」

ソロ「そうじゃない。この条件を求められているのは俺だけだ。今足りない一人分の魂をどうにかして手に入れなければならない・・・」

アレル「魂を?・・・どうやって」

ソロ「それは兎も角としてだ。問題なのは・・・この世界を出るための手段がさらに厳しくなったこと。・・・・無事では済まない」

レック「・・もう既に無事じゃねえよ・・なあ、勝算はあるんだろうな?」

ソロ「さあ。・・何があろうとできる限りの最善をとるだけだ」

その時、豪音と共に天井に亀裂が走った。そして地面や壁が揺れ始め、砂煙を上げて崩れだす。

アレル「・・・・・!」

ソロ「走れ!あとホイミでも何でもいい、できる奴は俺に回復呪文を!」

そうか。部屋を出て少し時間が経ったから、ほんの少しだが魔力が回復しているはず。
僕を含めて何人かがホイミを唱えると、彼は・・どうやったのかは知らないけれどその回復効果を自身の右腕だけに集中させ、元通りには程遠いが動かせる程度に再生した。

そして足を止め、どんどん崩壊していく通路の奥へ向けてその腕を振りかぶった。

エックス「っ・・・みんな、行こう!!」

つられて立ち止まりかけた僕達に、エックスさんが声を張り上げる。
僕達はすぐに走り出し、降り注ぐ瓦礫を避けつつ屋敷の出口を目指した。

――――――――――――――――