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伝説の超ニート トロもず
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ドラクエ:disorder 歪みゆく英雄譚の交錯 第42話

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―――――――――


全員が玄関扉を出ると、まるでそれを合図としたかのように屋敷が音を立てて全壊した。庭の地面には大きな亀裂が走り、それは広がって断裂する。ばらばらに別れて沈んでゆく地面の上を跳び、なんとか外に出た。

すると崩れて巨大な瓦礫の山となった屋敷から、何か大きくて透明な・・・

レック「・・・!!」

不可視なはずだが、それには大量の血が付いていて・・・巨大な手の形をしているということを見た者に理解させる。直後同じものがもう一つ、瓦礫を蹴散らして赤い空へ伸びてゆく。

それは赤と黒で彩られた不気味な空に浮かぶ黄色い月を、互いの掌を合わせる形で掴んで押さえる・・・やがて月の真ん中に、大きなひびが入る。

その隙間から赤い血のような液体が滲み出て、月の表面を伝って落ち――
その大きな雫が直線を描いて巨大な血の湖に落ちた瞬間、景色が斜め下に強烈な力で引っ張られた。

エイト「な・・・・っ!?」

アベル「ッ!?」

重力が、・・・上に。いや、下?
空中に投げ出された僕らの体は、ゆっくりと回転する景色の中、赤い空に吸い寄せられていく。

エイト「・・・上下が反転した・・・!!」

そうだ、動いているのは僕らじゃない。この世界だ。空が下に、地面が上に変わった。

レック「っ・・・みんな、移動できるぞ!!」

・・本当だ!まだ落下している感覚はあるけれど、脚を動かせば前に進むことができる。

アレル「・・どこに行けばいいんだッ!?」

レック「わかんねえ・・・でも進み続けないとやばそうだ!!」

頭上の遥か遠くにある湖から重力に従って溢れ、落ちていく大量の血は、何かに吸い込まれるように濁流となって僕らの後方に流れていっている。
放り出されて空中を漂っていた瓦礫や紫色の木々も、物凄い速さで飛んできて背後の大きな闇に消えていく。

エックス「何だよあれ・・・冗談じゃねえ・・・!!」

アベル「・・みんな!足を止めちゃ駄目だ!!」

・・・この世界が、崩壊する。闇に吸い込まれて消える。
その前に、脱出しなければならないということか・・・・・!





10日目 12時49分 ―アレル―


俺はサマルの手を引いて、次々と飛んでくる大きな瓦礫を避けながら必死に走った。
あの部屋を出てから一度、なけなしの魔力で気休め訳程度の回復はしたものの、この子の足はまだ満足に走れるほど治ってはいない。

それでもサマルはそんなことをまるで感じさせないほどしっかりと走っていた。時折傷から血が吹き出し、痛みに悲痛な声を上げるがそれでも・・・何一つ弱音を吐くことなく。

アレル「・・サマル・・・大丈夫か・・・?」

この状況で「大丈夫か」などと声をかけることがどれほど無意味かはわかってる。返ってくる返事は本人の状態に関わらずひとつしかないし、それどころか俺が心配することがこの子にはさらに負担となるのだ。

だが、声をかけずには・・・いられなかった。

サマル「・・・っ・・・本当は・・・残りたかった・・・」

アレル「・・・・!」

しかしその小さな唇から出てきたのは、思いがけない言葉だった。

サマル「ムーンやアレンが生きられなくて、・・ボクが生きられるなんて納得できない。ボクはあの二人に生かされてたようなものだったのに」

息を切らせながら懸命に。・・俺の手を握る力が少し強くなった。

サマル「でも・・・でもボクがここで死んだらッ・・・アレンが命を捨てて庇ってくれたことが無駄になる・・・!みんなにもっと悲しい思いをさせてしまう・・・!だから、だから・・・っ!」

・・ついにその目から、溜まっていた涙が零れ落ちる。

サマル「ボクは生きます、生きなきゃいけないッ・・・!そのためにどうか力を貸して下さい・・・アレル様・・・ッ!!」

サマルは俺の目を見てそう言った。
・・その瞳は絶望の涙に濡れながらも、それを踏み越え自らの生命を許す覚悟を帯びていた。
まだだ。まだこの子は負けてなんかいない。


この子は・・・・強い・・・・・!


アレル「・・ああ、もちろんだ」

場違いながら、胸に熱いものがこみ上げてくる。
俺が・・・この子のために何か出来るなら。俺はその努力を決して惜しみはしない。

絶対に死なせるものか。俺の存在がこの子の支えになるのなら、俺自身の存在も守り抜こう。
だがいざとなれば、そう・・・この身を捨ててでも。

アレル「俺は君の勇気を無駄にはしない。その言葉を、心を決して無駄にはしない」

まだ・・・希望の光は消えてはいないのだ。

アレル「生きるんだ。一緒に。・・行こう、絶望の先へ」

小さな手を握り直し、眼前の赤い闇を見据える。
・・突如、その赤い空間に白い魔法陣が現れた。あれは・・・・

その眩い白の上に、同じ形をした黒い魔法陣が重なる。そしてその中央に・・・・・

アレル「・・・・・・!!」

レック「ッ・・あいつは・・・!」

・・・・目玉・・・・・。この悪夢のゲームが始まった時、俺たちの前に現れた目玉だ。
あの時より遥かに巨大だが・・・この邪気は。間違いない。


『・・・見事ダッタ、勇者達ヨ。
第一ノゲーム終了ニシテ、死者ハワズカ2人。自ラノ欲望ヲ刃トセヌバカリカ、互イニ手ヲ差シ延べアイ、ココマデノ人数デ生キ残ッテミセルトハナ・・・』


背中に悪寒が走る。こいつは一体何なんだ・・・破壊神なのか?


『コレヨリゲームハ、第二段階ニ移行スル。コノ世界ハマモナク消滅スル』


遥か後方の闇がやがて、全てを吸い込み消し去る。その前にここを脱出しなければならないが・・・まさか、今からコイツと戦うって言うのか!?


『ダガオ前タチハ例エ何ガアロウト、互イヲ傷付ケ殺シ合ウナドト愚カナコトハシナイダロウ。
ヨッテコレヨリ、ゲームノルールヲ大幅ニ変更スル』


突然、空間全体に黒い霧がかかり、空気が重くなって・・・


『第二ノゲーム。アル宇宙ニ、滅ビカケタ人間ノ世界ガアル。
オ前タチ勇者ノチカラデ、ソノ世界ヲ破滅ノ運命カラ救イ出シテミセヨ』


全身から軋むような音が聞こえ始める。
・・・・世界を、救う?


『制限時間ハ無イ。タダ、ソノ世界ヲ救エバ良イノダ。ソレガ達成サレタ時、ソノ時点デノ生存者ヲスベテ、元ノ世界ニ送リ届ケルコトヲ約束スル。
・・ソレデハ、健闘ヲ祈ル』


言い終わると、目玉はゆっくりと魔法陣に溶け込んで消えていく。

エックス「っ・・待て、この野郎ッ!!・・・・・・!?」

全身に焼け付くような痛みが広がる。まずい・・・身体の組織が闇に吸収されかかっている。

レック「い・・急がないとやばそうだ・・・でもどうしたら・・・」

・・・その時。背後の闇の方から、世界が流れていく方向とは逆に、凄まじい空気の流れが押し寄せてきた。

アレル「・・・!」

サマル「・・・・・ソロさん!」

・・・風と共に、血にまみれた夥しい数の透明な腕が高速で伸びてくる。
渦巻くように交差しながら飛んでいき、大量の瓦礫や破片を叩き割り、握り潰し、まるで津波のように赤を押し返して・・・・

レック「っ・・・・」

レックが上を見上げる。