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伝説の超ニート トロもず
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ドラクエ:Ruineme Inquitach プロローグ

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報告: 2■27年 11月4日 現時点での問題解決の糸口について

       第二等生物研究科 アレッサンドラ・ベルティーニ


今回の実験結果は、最終的に当プロジェクト責任者であるV.Eスワードソン博士の主張を裏付けることとなりました。

我々は人道的倫理という観念、及び広い意味での道徳などという物を視野に入れる程の余裕を持ち合わせてはいないのです。
これは因果応報、若しくは思い上がりによる愚かな間違い。私個人としては早急に当プロジェクトの廃止を求めたいところだけれど、それももう叶わない。


・終焉阻止プロジェクト概要

Ⅰ KTクラスの警戒態勢を施設内の全領域に適応。
Ⅱ 2.5以上のライセンスを持つ全ての職員は、早急にNM保護領域に避難。
Ⅲ レベル3以上に属する全てのオブジェクトを、早急に拘束しNM格納庫へ移動。
Ⅳ レベル2以下に属する全てのオブジェクトを、NM緊急措置にて“処理”。
Ⅴ 対象を完全遮断領域にて格納解除、開放。
Ⅵ 対象が生命活動を完全に停止した時点で、NMにて“処理”。

以降の段取りは予測が困難なため、状況の進行と同時に指示を行います。

各自、自身の生命を保護することを最優先に行動して下さい。

――――――――――――――――
―――――――――








━─━─記録■■■ プロローグ、或いは事実ではない現象











―西暦2■27年 10月  エリアN19 
             “アルカディア” 生物科学棟にて         




・・静まり返った連絡通路内を、一人の研究員が歩いている。
栗色の髪を束ねて白衣を身にまとい、左手には電子端末の資料。

胸元に着けられたライセンスには、“Dr A. Bertini  Llv 5”と表示されている。

このレベルのライセンスを所有しているというのは、彼女がこの施設内のあらゆる場所を自由に行き来することを許されている証であると同時に、まだ若く経験は少ないであろうにも関わらず、それを弊害としない彼女の能力の高さを示してもいる。

年齢による安直な序列がいかに役立たずで質の悪い仕事を生むかは、ここに勤務する人間ならば経験を以て知り尽くしていることだろう。

さらに彼女の立場がどのようなものか知らしめるのは、この通路だ。
レベル5 “Riemann hypothesis”、つまり研究所の最高機密のオブジェクトを取り扱うフロアへ続く通路。
彼女は手頃な大きさの端末を片手に、たった一人でそのフロアへ向かっているのだ。

一般ライセンスレベルの職員であれば、専用の対応マニュアルを隅から隅まで暗記し、実技訓練を含む徹底的な研修を3ヶ月経た後、規定の人数を満たした上でようやく足を踏み入れることが許されるその領域に。

通路の端では大掛かりな生体認証ユニットが冷たく光を発している。

しかし彼女はまるで自宅の扉にカードキーを翳すかのように、現れたモニターに要求コードを入力する。
装置から放たれる小さな光の糸が彼女の網膜と指紋を読み取り、すぐに柔らかな・・・それでいて少しばかり冷たく無機質な女性の声が彼女の耳に届く。

『ライセンス取得。承認しました。ご機嫌よう、アレッサンドラ・ベルティーニ博士』

大袈裟にも見える分厚い金属扉が音もなく左右に開き、通路の壁に吸い込まれてゆく。
・・・博士と呼ばれた彼女は開いた扉の先を見つめ、小さく息を吐く。
そして再び歩き出した。

――――――――――――――――
―――――――――

二重になった金属の壁が下がり、冷たい床に収納される。
辺りに冷気が立ち込め、白い空気が煙のように流れて消えた。

格納庫内の温度は氷点下20度を下回っており、本来ならば精密機器を持ち込むべきではない。だが彼女の首元に光る一見アクセサリーのような装置が、自動的に温度の変化を察知し彼女の体温を適正に保つ。その肌とそこに触れている端末が凍えることはない。

広い庫内に、一人分の足音が一定間隔で響き渡る。
彼女が歩を進める先には高さ25m程の格納装置が、ただでさえ暗い庫内に大きな影を落としていた。


「・・・ワン、私よ。聞こえているなら返事をして頂戴」

目の前の巨大な装置に向かって、優しく柔らかな声色で彼女は呼びかける。
・・その労わるような声が密かな寂寥感を帯びていることに、彼女自身は気付いていない。

数秒後、装置の前に浮かび上がったモニターが弱い光を発した。

『Yes,I am』

厚みを持たない青いそれに、白い文字が表示される。
彼女は・・・アレッサはほんの少し安堵の表情を浮かべると、再び口を開いた。

「こんな時間にごめんなさいね。10分後、D173実験室に私と一緒に来て欲しいの。一応あなたの脳も調べておきたいってクロウ博士が」

ここまで喋って初めて、アレッサは自分の声のトーンが落ちていることに気が付いた。
少し間を置き、続きを話す。

「前に話した、生体感染性の電子のことよ。覚えているでしょう?確率は低いでしょうけど・・・万が一あなたの身体に入り込んでいたら大変なことになるわ」

同時に端末を操作し、格納装置の内部モニターにデータを送信する。
コンピュータ並みの記憶力を持つ“彼”には、あまり意味を成さないとわかってはいるが。

「念には念を・・ということね。ちょっと複雑な手術検査だから、すぐには終わらないかもわからないけれど。・・いい?」

少しして、モニターの文章が変わった。

『Yes,Ma'am. I will』

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――当プロジェクトについての個人的記録 2■26年 ■■/■■
   第二等生物研究科 アレッサンドラ・ベルティーニ
       これはデータとして残すべきじゃないわ。削除申請済み


まったくあの連中は揃いも揃ってどうかしているのよ。頭の螺子がいくつかなくなってるに違いないわ!

あの子の担当医は私なのに、まるで私の意見を聞いてない、誰も! 私の論文の優先度を下げるためだけにわざわざ一等科室長を呼び寄せるだなんて卑劣が過ぎる。

自分たちで勝手に作り出して、理不尽に危険に晒して消耗させて、自分たちのミスが招いた事故なのにあの子をまるでモンスターのように扱って・・・あんまりだわ。

あれは全て私達の責任よ。あの子は何も悪くない。
みんなわかってるのに。会議じゃない時はそう言っていたのに。どうして誰も反論しないの。そんなに責任を負うのが怖いの?

当然の責任を追及されたくないからってあの子に全部それを押し付けて、最低だわ。
彼らには罪悪感というものがないの!?

それとも、道具に罪悪感など感じるはずもないとでも言いたいの!?

・・・まさか私が機械相手に愚痴をこぼすことになるなんて。
少しナーバスになっているのかも知れない。あくまでも私個人の主観でしか今は語ることができないわ。でも彼らは間違ってる。それだけははっきり言える。

散々ひどい仕打ちをしておきながらそれをあっさり正当化して、そしてそれでも懸命に私達の役に立とうと努力していたあの子の気持ちを踏みにじって。