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伝説の超ニート トロもず
伝説の超ニート トロもず
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ドラクエ:Ruineme Inquitach 記録002

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―西暦2■27年 12月  エリアN20
              “アルカディア” 総合評議室にて



しかし揺れはすぐに収まり、職員たちはまばらに席を立ち始める。地震では・・・ない。揺れ方が地震のそれではなかった。
室内に困惑が広がる。

「・・・・。・・・ノーメマイヤーを再起動してみてくれ」

「・・それが・・・試行しているのですが応答・・・・・が・・・・・・」

スワードソン博士に指示され、マザーコンピュータのパネルに手を伸ばしていた研究員の言葉が不意に詰まり、動きが止まる。

・・それもそのはず。厚みのない操作パネルの上に、突然黒い靴が現れたのだから。

「・・・・・・・・・・・・」

研究員は恐る恐る、視線を上げてゆく。

エナメルと思われる材質のショートブーツ、ブラックジーンズ、同じく黒い―脚の7割を隠す丈の―革のロングコート。
胸元には金で縁取られた大ぶりの青い宝石のネックレス。右手には白、左手には黒の、手首から先のみを隠す薄手のグローブ。

・・・・そして、八割がたその人物が誰なのか予想し終えていた研究員に、彼の悪い意味での期待を裏切らず決定打を与えたのは・・・・目を引く翡翠色の髪と、青紫色の宝石のような目だった。

そう紛れもなく、その姿はたった今までこの評議の話題の中心となっていた―「訪問者」そのもの。

「・・・・・・・・――――!!」

研究員の目が見開かれる。あちこちで息を呑む音、後ずさり靴が床と擦れる音、体のどこかしらの部位を椅子や机にぶつける騒々しい音が鳴り出す。

数秒後、そこに銃を取り出し構える音もいくつか重なるようになった。

・・・・・やがて音たちは遠ざかり、室内に再び静寂が訪れる。

誰もが言葉を発することができずにいる中、・・・異質な雰囲気を放つ“彼”が唐突に唇を開いた。

「・・・忙しいのか暇なのか、よくわからん奴らだな。とりあえずその物騒なものをしまってくれ、話しづらい」

武器を構えた誰もが戸惑い、躊躇し、しかし結果的に姿勢を変えることはなかった。どれだけ情報としてこの状況でのテーザーガンの無意味さを知っていたとしても、それを実感するには彼らは長い間常識の中に身を置きすぎ・・・経験のまま無意識のうちに自身の安全を、その心もとない化学兵器に託していたためである。

「・・・聞こえなかったようだな。武器を、下ろしてもらいたい」

変わらず凍りつくような無表情のまま、“彼”が言う。
だが目の前にいた―銃を構えたままの研究員が震える腹部に力を入れて声を絞り出した――

「・・・・・・き、貴様は」

その瞬間。

白いグローブの嵌った手が軽く引き上げられ、ふわりと空気を優しく押さえつけるように少し動いた。

すると――まったく同時に、銃を手に持っていた全ての職員が、突然一斉に膝から床に崩折れ、そのまま倒れ伏したのだ。身体が床にぶつかる音と、銃が転がる硬い音が無数に鳴り響いた。

立っている状態から突如全身が脱力したかのように見えた。そして・・・誰ひとり、微動だにしない。

・・残った職員たちは絶句し、その場から動かぬよう全身に力を込めるしかするべきことがないのを悟った。

手を下ろし、腕組みをして“彼”は微笑んだ。

「二度同じことを言って理解できないような馬鹿は、今この場には必要ない」







━─━─記録002 異次元より来たるもの







「・・・・・・・・・・・っ」

「心配するな、眠らせただけだ。30分後には目覚める。      
・・本当はもう少し話が煮詰まってからにしようと思ってたんだが、どうもそんなところに拘ってる余裕がなくなってきたんでな。窓がないこの部屋じゃわからんが」

平然とそう言いながら、“彼”は空中を移動し、正面モニターの前に降り立った。

「君らは今この世界における危機を、ワンあるいは001番、あるいはエヴィギラヴィット、あるいはネイルダウナー、あるいは熱狂的なバトルジャンキー、あるいはあのクソヤロウなどと呼ばれる何かを使って阻止しようとしてるらしいが、俺はそれを止めなくちゃならない。
何故か?放っておくとヤツはお前らを絶滅させちまうからだ」

「・・・・・。・・・・・・・・・君が・・・・・オリジナルか」

ロープを捻り切るほどの労力を使い、スワードソン博士はやっとのことでそれだけを口にした。

「ん?・・ああ、俺か。俺のことはだな、ミスター・器用貧乏とでも呼んでくれ。ところで今言った意味は理解できてるか?」

「・・・ええ、・・・貴方がこのAIプログラムを壊した理由がそこにあるんでしょう?」

ベルティーニ博士が恐る恐る訊ねると、“彼”は微笑んで答えた。

「その通りだ、やっぱり君は冴えてるな。あれは確かにワンの意識そのものを押し込めるのには向いてるが、同時に理性で抑えられていた殺傷本能に好き放題させてることにもなるわけだ。ヤツが命令以上の仕事をすることに目を瞑っていると、そのうち痛い目を見るぜ」

「・・・それはつまり、あの子が私達に牙を向く可能性があるということ?」

「ああ。だからまずそれを警告しに来た。もう既にギリギリってとこだな・・・一刻も早く取り除くべきだ」

「いや、そういうわけにはいかないのだよ。彼は・・・ワンは我々に残された最後の切り札。・・・君の言いたいことはわかってるつもりだ。
しかし今の彼がいなくては我々の命はない。もっと根本的な解決策を生み出すまでは―」

「だから、それを補うために俺達がわざわざ来てやったんだよ。ワンはついでだ、ついで。
言っただろう、この世界を救いに来たと」

不意に、黒いグローブの手がさっと上がると、主電源が落ち反応しなかったはずのノーメマイヤーと正面奥のモニターが同時に光を放ち、再起動した。

「・・・!」

壁一面のサイズのモニターには、この研究所があるエリアNの外側の風景が映されていた。
暗闇に降り注ぐ雪、光り輝く無数の建造物・・・そして。

その巨大な建造物を凌駕する、異様な大きさの・・・柱?
しかしその柱は三本ずつ対になって並んでおり、その六本すべてが真ん中あたりに関節のようにも見える折れ目を持っている。

さらにその柱たちは・・・・―動いている。よく見れば枯れた植物のようなものや赤黒い得体の知れない汚れにまみれたそれは、動物の骨のようにも見える。
そしてその六本の柱は、上にある巨大な山らしきものを支えていた。

その山のような黒い肉塊の先端には、不気味に蠢く大量の触手と、それに囲まれた大きな口がついている。その口が開き、空気が震え上がるような低い振動―おそらくは咆哮か―が響き渡ると、肉塊の背中の部分にある無数の切れ目が開き、目玉らしきものが現れた。

「・・・・ファック・・・・」

その異様な姿の怪物に見覚えがあるべクスター博士は、思わずまた悪態をついた。

「・・アシエル!?ば・・・馬鹿な」

「エリアEが壊滅するぞ・・・!」

次々と襲い来る予想外の出来事に、研究者たちは慌てふためいて面白いほど冷静さを欠いていく。“彼”はそれを眺めながら悠然とテーブルの上に座って足を組んだ。