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伝説の超ニート トロもず
伝説の超ニート トロもず
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ドラクエ:Ruineme Inquitach 記録002

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「・・べクスター博士、よかったら私のマシンのルーターをお貸ししましょうか?」

「いや、お気持ちだけ頂いとくぜ。こうなったら何が何でも今日中に終わらせてやる・・・」

とその時。
博士たちの雑談が子守唄の効果をかき消したか、ソファで寝息を立てていた小さな丸い生物達が、まばらにうっすらとそのつぶらな瞳を開き始めた。

「あーあ。お前らが騒ぐから起きちゃったぞ。せっかくいい気持ちで寝てたのになー?」

宙に浮いたままの青年が若干わざとらしい声色で語りかけると、団子のような生き物達はぱちぱちと数回瞬きをして、そのあとすぐ嬉しそうに跳ねて青年の肩や頭に飛び乗った。

「おっと。ははは・・・やっぱりこういう無垢な存在はすぐ感じ取れるんだな、俺の溢れんばかりの善人オーラを」

「へーえ、よく言うぜ。顔も格好もどう見たって悪役だろーが。こいつがワンのオリジナルだなんて未だに信じられない」

「はッ。見た目でしか人間性を判断できないなんて寂しい感性だな、おっさん」

「誰がおっさんだ、俺はまだ二十代だ!・・つかだいたいお前俺の何十倍も生きてるじゃねえか、おっさんどころの話じゃないだろ!?」

「俺は永遠に17歳なんだよ、残念だったなおっさん!」

「えーっと・・・できればあんまりおっさん連呼しないで頂けるかな・・・若干傷付きます・・・」

「あっはっは。なに、彼に比べたら我々なんて赤ん坊の孫の孫みたいなもんさ。それとミック、君も正直人のこと言えたツラじゃないよ。癖っ毛は仕方ないとして、その無精ヒゲはどうにかならないのかい」

「・・しょうがないだろ伸びるの早えんだよ・・・・」

ますますふてくされて眉間にしわを寄せるべクスター博士を見下ろし、青年はニヤつきながらくるりと一回転して床に降り立つと、肩と頭に乗ったベルベッティズをソファに戻した。

「・・・にしても、本当に一瞬でソロに懐いたよなこいつら。やっぱり根本的に同じ人物だってことがわかるんだろうなぁ」

ぴょこぴょこ飛び跳ねながらも青年から目を離さない愛らしい生物達を眺めつつ、クロウ博士が呟く。
それを聞いて、青年―ソロは目を細め、唇の左端を釣り上げて笑んだ。

「・・さあ、どうだかな。単に見た目と声が同じだからってだけかも知れないぜ。そもそも俺はワンとは別人だ」

「そうかな?確かに喋り方や雰囲気はまるで別人だが、生物学的見地からすれば君達は同一人物だ。まあ、生きた時間や環境は全く違うから何とも言えないか・・・」

「いいや、そういう意味じゃない。・・“別人”なんだ」

言いながらベルベッティズを覗き込み――ふと真顔に戻ると、頭をもたげた。

「・・もう次が来たか。やれやれ、仕事は多そうだ。ん・・・誰かこの部屋に来るようだぞ」

すると数秒後、出入り口のドアが軽くノックされる音が聞こえ、そのすぐ横にホログラムのモニターが現れた。若い女性の顔が写っている。

『・・レベル2のジャネット・メルバーンです。ミカエル・べクスター博士はそちらにいらっしゃいますか?』

どこか控えめで、緊張気味なのが手に取るようにわかる声だった。

「・・・んー。ちょっと今留守にしてるー・・・」

「馬鹿言うな、反応に困るだろ。出てやれ」

クロウ博士に小突かれ、べクスター博士はため息をついて渋々席を立つ。
そして頭を掻きながら軽く目配せをすると、ソロは訳知り顔で肩をすくめた。
一瞬でその姿が足元から消え去る。

それを見届けた博士がモニターに手をかざすと、ドアが左右に開く。
女性職員は部屋に入る前に綺麗に足を揃えて頭を下げ、遠慮がちに視線を泳がせながら歩を進めた。

「・・ご休憩中、失礼致します。先日改めて使用許可を頂いた、ハイドラシステムの自動認証コードの件なのですが・・・」

「ん?・・ああ、ああ!君が。・・・はあー、そうか君が噂の新人メルバーン君か、へええ。てっきり男だと思ってた。まいいや、とりあえず入ったらいいよ」

「あ、ありがとうございます・・・ええと、失礼ですが、あ・・貴方がべクスター博士ですか?」

「ああ、うん。そうだけど?」

無造作に袖を捲くられた腕にハンドポケット、だらしなく着崩された白衣、どう見ても朝起きたままの頭髪、無精髭、そして極めつけはほとんど常に噛んでいるガム。

・・初めて見る人間にこの男が過去に弱冠19歳で生命工学の人類栄誉賞を受賞した、レベル5異常遺伝子学科長のエリートドクターだとどうしてわかるだろうか。

新人女性研究員は、彼女の頭の中にあった「ミカエル・べクスター博士」のイメージとあまりにかけ離れている目の前の男をしばらく無言で見つめた。

「・・・おもっくそ幻滅されてんぞミック。だから言ってんだろ、格好くらいちゃんとしろって。大事なのは第一印象なんだ。そんなだからいつも振られんだよ」

「黙りやがれ、にわかパツキン野郎め。大きなお世話だ。・・しかしなかなか素直だな君も・・・まあ表裏がない人間は嫌いじゃない、えーとそれで?」

「しっ失礼しました。実は・・・その、指定されたプログラムの調整中に原因不明のエラーが出じてしまい、シューティングを試みているのですが特定ができず、対処が遅れていまして。
我々の技術力不足でお恥ずかしい限りですが、担当オペレータより一刻を争う事態だということで・・・」

「あー、はあ。どれどれ。・・・・・・んー、確かにちょっと面倒なのが出てきてるな。俺も昔はこいつによく完徹させられたよ。現時点でのデータソースそのものは復元出来ると思うが、でも念のためちょっと細かく調べさせて貰っていいかな?」

「はい、是非お願い致します」

女性研究員からデバイスを受け取り、簡易タッチパネルを起動させてしばらく弄ったあと神妙な顔をして、ソファでコーヒーを啜る同僚に向かって手を振った。

「おい、ランディちょっと来てくれ。本格派電子工学の権威ドクター・クロウの出番だ、こいつを見てみろ」

「・・何だ何だ。・・・・・・ふーん、また古風なコーディングをしたもんだな・・・うん?
・・・・・なんじゃこりゃあ・・・エラーコードそのものがフェイクか。ちょっと貸してみろ」

クロウ博士は端末を受け取ると、べクスター博士の簡易パネルの他にもう一つ、より本格的な専用キーボードパネルを起動させ、両手で操り始めた。

「・・・君達二人がそんな真面目な顔をするなんて、なかなか厄介な問題が出てきたもんだね。ひょっとしてそれは“例のウイルス”と関係があったりするんじゃないかい?」

スワードソン博士も席を立ち、少し離れたところからパネルを覗き込む。

「俺らもちょっとそれを疑い始めてるところだよ。・・・・・・・ああ、これは・・・明らかにオカシイな。ストレージがパンクして海になっちまってるし、データそのものがほぼ規則性が皆無の暗号に変わって・・・―おい待て。
・・ミック、デジタル領域の底を支離滅裂に流れる暗号化された情報って、どっかで見覚えないか?」

「ん?・・・・え、マジで言ってんの?」

「ああ、マジだ」

クロウ博士とべクスター博士が神妙な様子で顔を見合わせるのを、女性研究員は心配そうに見つめていた。が。

「・・!? えっ、え!?」