ドラクエ:Ruineme Inquitach 記録002
「・・基本的にはオレたちがやってきたことと大差ないってわけか・・・」
「そうみたいだね。・・ここにいても仕様がない、とりあえず移動しないかい?」
「ああ。でもどこに行けばいいんだろうな・・・そういう指示はないのか?」
「指示かどうかはわからないけど、あれを見て。向かってみる価値はありそうだよ」
騒然とするビル群の上方遥か遠くに、ひときわ高く伸び異質な存在感を放つ塔のようなものがある。
これだけ離れているにも関わらず、その建造物は周囲の建物の数倍巨大に見える。
周りには厚く何重にも重なった壁のようなものが塔を取り囲むように配置されており、全体を見るとまるで要塞のようだった。
そして塔の先端からは青白い光の線が空に向かって伸び、それは途中で広がり・・・薄い光の膜となって要塞を包み込んでいる。
「・・・ん?・・あの光のカーテンみたいなのに何か書いてあるな・・・でも遠すぎて読めねえや」
「・・・チャプター1、・・チェックポイントって書いてあるよ」
「え、お前あれ見えんの?凄いな」
「うん、漁師やってたからね。目はいいんだ。でも意味はよくわからないね・・・何だろ?」
「うーん・・・でも確かに、とりあえずあそこに向かってみてもいいかもな」
「混乱を招きかねないから下には降りない方がよさそうだ。建物の屋上を移動していこう」
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悲愴
可惜せり 破滅は歌 獣と為り 解けり
奪い去る 針の調べ 輪廻の人間たり
死と掵立つ吾見 濃い暗い白から
何時を後置く 聴こえ甘い記憶刎 私語く
黒い花 あの声が 壊れた目の在る侭
黒い花 あの歌が 創造り舞いつ 在る侭 忌み
不安
眩暈閉じ込め 時を越えゆく 嘘を塗り 獲ど 記憶裏切り
吾が血が 死が 気が 生命が 名と為は
理が 苦が 夜が 目が 吾の意味 何時かは
恐怖
強く 清く 白く 爪 弱く 暗く 黒く 牙
何時かは名が 永久に 叫ぶ
動く 壊す 遠く呼ぶ 灼熱く 凍結る 疾風の声
何時かは名が 滅ぶ 今を
憤怒
いつも覗く 心 殺す 自分 何時しか 消え 爪を 恥じらい
誰も いない 僻む 喰らう
笑顔 何処にも無く 独り 泣いている
欲望
彷徨い 生命が 今も吠える 償い 花 今 毒と記憶
脚 得ば 嘘 見し 陽炎う この身よ
疼いた音 目が 怒り狂う 失う 言葉が 二度と 忌まず
未来が 風立つ 鍵 射る 呪いを
狂気
お休み 休憩み 永眠み おお死に
お休み 休憩み 永眠み おお災厄
贄奴隷に視る後願
お休み 休息み 永眠み おお許さじ
苦しみ 苦痛み 無痛み おお咎
死の甘い香り 来たる
諦念、虚無、真悲愴、絶望に至る為の希望
可惜せり 破滅は謳う 獣と為り 時り
可惜せり 凍れや 歌 悪夢な舞う日よ
無と 断ち切る死が 往く 赤い森から
忌むべく 汚れ 孕む 弱い 吾の想い 剥がれる
黒い花 吾の声が 祈りの血が 在る侭
黒い花 吾の歌が 懺悔の非が 在る侭 消え
災厄は 待ち 降りる 壊れた時 人間 夢
繰りかえり 別れ逝き 許されざる 音 花 死よ
「ひゅう・・・・スゴいな。どっから出てるんだその音」
「ちょっと耳が・・・あー、あー。んっんー。俺ちゃんと喋れてるよな?」
「問題ない。使用する筋肉の位置と―いやそれ以前に、細胞の作りからして違うんだがな。
知らずに初めて聞いた奴は小一時間まともに喋れなくなったそうじゃないか、ははっ」
「あははで済めばいいのですけれどね。中には失語症を患った職員もいるんですよ。
それにしても興味深いですね・・・恐らくは音の周波数がこの宇宙ではありえない値を示すような気がします」
夜間のレクリエーションフロア。紅茶を飲みつつ、白衣を纏った数人の研究者がソファに身を預けて語らっている。
向かい側には真っ黒なロングコートを袖を通さずに羽織った、翡翠色の髪を持つ青年が座っていた・・・・が、正確には座っている、という表現は間違っていた。
研究者たちの向かいのソファでは、丸っこくて小さなすべすべした生命体が数体並んで、すやすやと眠っている。
彼らは通称ベルベッティズ。この研究所に保管されているレベル1オブジェクトである。
そしてその上方で、緑髪の青年は足を組み座ったような格好で空中に浮かんでいるのだった。
「・・・あれ、あの子達はいつの間に眠ったんだろうね。君の歌が彼らの聴覚には心地よかったのかも知れない」
気持ちよさそうに転がっている無数の生命体を見て、スワードソン博士が微笑んだ。
「今のはまるであんたには心地よくなかったと言ってるように聞こえるが?」
「いやいや、とても素晴らしかったよ。ただ慣れない音の羅列が多かったからね。人間用の子守唄には向いていないかも知れないが、僕は嫌いじゃない」
「冗談に決まってんじゃん、寝ながらこんなの聞いたら悪夢しか見ねえぜ。・・・・うーん、どうもこの世界の茶は口に合わないな。林檎の皮と何かの花弁を煎じた粉を入れた湯に大量の砂糖を溶かして飲んでるみたいだ」
苦笑するスワードソン博士の横で、ふわりと宙に浮きながら降りてきたティーカップを受け取り、カズモト博士が席を立った。
「ふふ、フレーバーティは貴方の宇宙にはなかったようですね。コーヒーにしましょうか?」
そんなやりとりを横目に、若干ふてくされてガムを噛みながらハンディコンピュータをいじる赤毛の男が一人。その隣には同じく不愉快そうな顔で電子煙草をふかす金髪。
「・・・ったくよぉ・・・優雅なもんだな上流階級の皆様方はよ。こちとら提出期限が刻一刻と迫る報告書のせいで手首が腱鞘炎になりそうだってのによぉ」
「全くだぜ。・・いやでも報告書に関してはお前が前もって進めておかないから悪い。
つうか、さっきからそこでプカプカ浮いてやがるグリーンカラー!違和感なく馴染みすぎだろお前、いいのかこの状況!?これでいいのかアルカディア!?」
「あん?何か言ったか?」
「ランディ、指定場所以外で煙草を吸うなと言っただろう。・・どうにも仕様がないし今は他のことで忙しいんだ、仕方ないだろう?彼だって別に我々に害をなしに来ているわけじゃない」
「いやいやおかしいってこの状況。どこから突っ込んだらいいのかわからねえよ。クソ普通にコーヒー飲んで・・・何だその顔、ニヤニヤすんな!」
「やめとけよランディ、こういうのは気にしたら負けなんだよ・・・あー、クソ。指が攣った。やってられるか畜生。・・何だって?ファック、こいつまたフリーズしやがった!」
「腕が二本しかないと不便だな、同情するよ。ま、どうしてもって言うなら手伝ってやらなくもないが。中古で拾ったそのポンコツがアーチボルドの最新モデル顔負けの速度で動くようになるぜ?」
「この野郎ォ・・・わざわざ所長の前で・・・」