ドラクエ:Ruineme Inquitach 記録003
「・・・・・ワンの、オリジナル・・・・・・?」
「ああ。レベル2の君にはあまり馴染みがないだろうね。こちらから発表があるまではくれぐれも黙っておいて欲しいのだが――」
「だーから言ってんじゃん、さっさとワン起こして人工知能外せって。あんまりぐずると損するのはお前らだぜ?」
「・・!!?」
・・突如女性研究員の視界に現れたのは、異様な色彩と雰囲気を持つ若い男の姿だった。
そしてその透き通ったフルーツゼリーのような瞳と目が合った瞬間、彼女は息を呑んで棒立ちのままドミノ板のように倒れかかった。
「うーぷ!危ない危ない・・・。そんなに驚かなくたっていいじゃないか。ってあれ、気絶してる」
「てんめぇ、それを催促するためだけにやったのか!このハッピーフィーバーを解除するのにどれだけの時間と労力がいると思ってやがんだ!!」
「そうだそうだ、起動した端末のベースシステムそのものがモロにイカれちまうんだぞ!?
紙に羽ペンで文字書くのとはワケが違うんだっつうの!!」
「ふーん、そりゃ災難だったなぁご愁傷様。まあ話は簡単だぜ、とっとと俺の言った通りにすればそのフィーバーは俺が直してやる。5秒もあれば十分だ。で、どうする?もうじき隠し通すのも苦しくなってくるぞ」
「・・ううむ。こちらとしても出来る限り早く君の言う通りにしたいのだが、そう簡単にいかないのも事実でね。
まだエリアE支部への人員派遣の件やら何やらでこの本部にも余裕がないんだ。もう少し事態が落ち着いて、本部職員達がある程度集まってから――・・何?何をしようとしてる?」
「何って、お知らせだよ。その調子じゃお前達の都合がつくまで何ヶ月もかかるだろ・・・そんなに待ってはやれん。俺は気が長くないんだ。ここにやって来るモンスターどもも同じくだ」
ソロが右手を軽く動かすと、クロウ博士の手元で浮いていたデバイスが、遠隔接続されていたキーボードパネルごとひとりでに移動してその頭上で静止する。
ソロは浮かび上がって空中に足を組んで座ると、さながら熟練のエンジニアのように慣れた手つきでキーボードパネルを操作し始めた。
「あってめ、何しやがる俺のマシンで」
「ほー、こいつはクールだな。さすがに電子工学第一級博士号は伊達じゃないらしい」
「おいおい困るよ、ノーメマイヤーをハッキングするつもりかい君は?
・・もうこの際それには目を瞑るとして、許可もなしに情報をバラまかれるのはさすがにまずい。君の気持ちはわかるし我々の安否を気遣ってくれるのは大変に有難いんだが、こちらにも色々複雑な事情があってだな・・・」
「関係ないね。規則だのメンツだの権力だの、あんたはそういうのを人命より重んじる種類の人間なのかい。違うだろう?命は一つだぜ」
「あー!ちょっ、お前!それだと俺の個人IDが全部ダメになっちまうんだって・・・おい!嘘だろぉ!?」
「パニクってんじゃねえよ。こんなもん後でどうにでもなるだろうが」
「そりゃそうだろうよ、お前が直してくれるならな!問題は究極にせっかちで、なおかつ楽観主義者で、死ぬほど面倒臭がりのお前が、俺個人のためだけにやってくれるかどうかだよ!!」
「あぁー。そこは考慮してなかったなぁー」
頭を抱えて天井を仰ぎ悪態をつくクロウ博士の横で、ベクスター博士は知らん顔をして白衣のポケットから新しいガムを取り出した。
カズモト博士は気を失ったままソファに横たわるの新人研究員を心配そうに見つめている。そして眼鏡を一度外して掛け直し、ため息をつくと顔を上げた。
「・・スワードソン博士。この際、やはり今アルカディアにいる本部職員だけでも、このことをはっきり知っておいた方が良いのではないでしょうか。確かに大なり小なり混乱は起きるでしょうが、ここは・・・彼の言う通りに事を進めるのが良策かと思います」
腕組みをしてソロの手元を眺めていたスワードソン博士は、頭痛がするのか目を閉じて片手で鼻柱を押さえた。それから軽く頭を振って、同じくため息をつく。
「・・・そうだな、そうかも知れん。まあもう隠そうとしたところで恐らくは手遅れだ。物事を正しく判断できない連中がまたうるさく騒ぎ立てて、我々に面倒事を押し付けてくることだろう。はぁ・・・皆、またしばらくは家に帰れない生活が続くぞ」
「ああそれは―お気の毒様なことだ。あんたみたいな奴が一番、馬鹿に苦労させられる立場だな」
コンピュータの操作を終え、クロウ博士に端末を返すと、ソロは空中に寝転がって退屈そうに欠伸をした。
「他から力を与えられただけの脳足りんが、手前の無能さを棚に上げて自分だけハッピーライフを満喫しようとすりゃ、あっという間に混ぜ物の王冠を被った勘違い野郎が一匹出来上がる。もうひとつ運が悪けりゃひとつの国が滅ぶ。どこの宇宙でも変わらねえよ」
「・・・ふ、そうだな。全くもってその通りだ。そしてそういう連中は死ぬまで絶対に、自分がどれだけ愚かで滑稽だったか気付かずにそのおめでたい脳ミソを腐らせてゆくものさ。この世の中、馬鹿ほどの幸せ者はいないね・・・」
眉間にしわを寄せ、スワードソン博士は心底不愉快そうにソファへ腰を下ろした。そして向かい側のソファで伸びている女性研究員に視線を向ける。
「・・僕もかつては彼女のように夢を見てた。本物の権力というものは、遠くからぼんやり眺めてるくらいが丁度いい。そうしていればあんな愚かなクソッタレ共に好き放題されることもなかったろうに」
━─━─記録003 認識災害と目的の提示
「・・・今日はまた一段と辛辣に毒を吐くなあ、ヴィンス。ぶっちゃけ言ってる内容に限れば俺よりひどいと思うぜ。ま、俺も概ね同意だけど」
「悪いな、聞かなかったことにしておいてくれ。いつものことさ。・・定期的に外に出さないとやってられないよ」
ガムを噛みながら頬杖をつくベクスター博士に薄く微笑みかけると、スワードソン博士は再度ため息をついて自分のコンピュータを起動させ、記録の改竄と非常用メールの作成に取りかかった。
「・・あんたらも大変だな。さて、それじゃ約束通り馬鹿騒ぎしてる奴らに鎮静剤をくれてやるとするか。あとクロウ博士?そっちの端末もちゃんと直してやるから心配すんな。・・ん、恐らくあと数十分でここへ到着する」
「・・何が?」
「秘密だ。なに、今にわかるさ。・・ていうか、なかなか起きないなこの娘。ショック死してないだろうな」
「そしたら責任取れよグリーンカラー。・・・にしてもさぁ、わかんねえな。なぜお前みたいな何でもありの、存在自体が反則みたいな野郎が、わざわざ俺らの力を必要とするんだ?そもそも・・・本当に必要なのか?」
クロウ博士が冗談交じりに、しかし訝しげに視線を向ける。・・仰向けになって浮かんだ状態でソファの上の新人研究員を眺めつつ、ソロはまた欠伸をする。
「わかってねえなあ。その発想はお前――今まさにあんたらを悩ませてる阿呆共のそれだぜ。
力がありさえすれば、力を持たない者をゴミクズ同然に扱っていい。自分さえよければ何でもいい、ってな。俺がそんな奴に見えるかい」
「誤魔化すんじゃねえよ。お前達の本当の目的は一体――」
「ああ。レベル2の君にはあまり馴染みがないだろうね。こちらから発表があるまではくれぐれも黙っておいて欲しいのだが――」
「だーから言ってんじゃん、さっさとワン起こして人工知能外せって。あんまりぐずると損するのはお前らだぜ?」
「・・!!?」
・・突如女性研究員の視界に現れたのは、異様な色彩と雰囲気を持つ若い男の姿だった。
そしてその透き通ったフルーツゼリーのような瞳と目が合った瞬間、彼女は息を呑んで棒立ちのままドミノ板のように倒れかかった。
「うーぷ!危ない危ない・・・。そんなに驚かなくたっていいじゃないか。ってあれ、気絶してる」
「てんめぇ、それを催促するためだけにやったのか!このハッピーフィーバーを解除するのにどれだけの時間と労力がいると思ってやがんだ!!」
「そうだそうだ、起動した端末のベースシステムそのものがモロにイカれちまうんだぞ!?
紙に羽ペンで文字書くのとはワケが違うんだっつうの!!」
「ふーん、そりゃ災難だったなぁご愁傷様。まあ話は簡単だぜ、とっとと俺の言った通りにすればそのフィーバーは俺が直してやる。5秒もあれば十分だ。で、どうする?もうじき隠し通すのも苦しくなってくるぞ」
「・・ううむ。こちらとしても出来る限り早く君の言う通りにしたいのだが、そう簡単にいかないのも事実でね。
まだエリアE支部への人員派遣の件やら何やらでこの本部にも余裕がないんだ。もう少し事態が落ち着いて、本部職員達がある程度集まってから――・・何?何をしようとしてる?」
「何って、お知らせだよ。その調子じゃお前達の都合がつくまで何ヶ月もかかるだろ・・・そんなに待ってはやれん。俺は気が長くないんだ。ここにやって来るモンスターどもも同じくだ」
ソロが右手を軽く動かすと、クロウ博士の手元で浮いていたデバイスが、遠隔接続されていたキーボードパネルごとひとりでに移動してその頭上で静止する。
ソロは浮かび上がって空中に足を組んで座ると、さながら熟練のエンジニアのように慣れた手つきでキーボードパネルを操作し始めた。
「あってめ、何しやがる俺のマシンで」
「ほー、こいつはクールだな。さすがに電子工学第一級博士号は伊達じゃないらしい」
「おいおい困るよ、ノーメマイヤーをハッキングするつもりかい君は?
・・もうこの際それには目を瞑るとして、許可もなしに情報をバラまかれるのはさすがにまずい。君の気持ちはわかるし我々の安否を気遣ってくれるのは大変に有難いんだが、こちらにも色々複雑な事情があってだな・・・」
「関係ないね。規則だのメンツだの権力だの、あんたはそういうのを人命より重んじる種類の人間なのかい。違うだろう?命は一つだぜ」
「あー!ちょっ、お前!それだと俺の個人IDが全部ダメになっちまうんだって・・・おい!嘘だろぉ!?」
「パニクってんじゃねえよ。こんなもん後でどうにでもなるだろうが」
「そりゃそうだろうよ、お前が直してくれるならな!問題は究極にせっかちで、なおかつ楽観主義者で、死ぬほど面倒臭がりのお前が、俺個人のためだけにやってくれるかどうかだよ!!」
「あぁー。そこは考慮してなかったなぁー」
頭を抱えて天井を仰ぎ悪態をつくクロウ博士の横で、ベクスター博士は知らん顔をして白衣のポケットから新しいガムを取り出した。
カズモト博士は気を失ったままソファに横たわるの新人研究員を心配そうに見つめている。そして眼鏡を一度外して掛け直し、ため息をつくと顔を上げた。
「・・スワードソン博士。この際、やはり今アルカディアにいる本部職員だけでも、このことをはっきり知っておいた方が良いのではないでしょうか。確かに大なり小なり混乱は起きるでしょうが、ここは・・・彼の言う通りに事を進めるのが良策かと思います」
腕組みをしてソロの手元を眺めていたスワードソン博士は、頭痛がするのか目を閉じて片手で鼻柱を押さえた。それから軽く頭を振って、同じくため息をつく。
「・・・そうだな、そうかも知れん。まあもう隠そうとしたところで恐らくは手遅れだ。物事を正しく判断できない連中がまたうるさく騒ぎ立てて、我々に面倒事を押し付けてくることだろう。はぁ・・・皆、またしばらくは家に帰れない生活が続くぞ」
「ああそれは―お気の毒様なことだ。あんたみたいな奴が一番、馬鹿に苦労させられる立場だな」
コンピュータの操作を終え、クロウ博士に端末を返すと、ソロは空中に寝転がって退屈そうに欠伸をした。
「他から力を与えられただけの脳足りんが、手前の無能さを棚に上げて自分だけハッピーライフを満喫しようとすりゃ、あっという間に混ぜ物の王冠を被った勘違い野郎が一匹出来上がる。もうひとつ運が悪けりゃひとつの国が滅ぶ。どこの宇宙でも変わらねえよ」
「・・・ふ、そうだな。全くもってその通りだ。そしてそういう連中は死ぬまで絶対に、自分がどれだけ愚かで滑稽だったか気付かずにそのおめでたい脳ミソを腐らせてゆくものさ。この世の中、馬鹿ほどの幸せ者はいないね・・・」
眉間にしわを寄せ、スワードソン博士は心底不愉快そうにソファへ腰を下ろした。そして向かい側のソファで伸びている女性研究員に視線を向ける。
「・・僕もかつては彼女のように夢を見てた。本物の権力というものは、遠くからぼんやり眺めてるくらいが丁度いい。そうしていればあんな愚かなクソッタレ共に好き放題されることもなかったろうに」
━─━─記録003 認識災害と目的の提示
「・・・今日はまた一段と辛辣に毒を吐くなあ、ヴィンス。ぶっちゃけ言ってる内容に限れば俺よりひどいと思うぜ。ま、俺も概ね同意だけど」
「悪いな、聞かなかったことにしておいてくれ。いつものことさ。・・定期的に外に出さないとやってられないよ」
ガムを噛みながら頬杖をつくベクスター博士に薄く微笑みかけると、スワードソン博士は再度ため息をついて自分のコンピュータを起動させ、記録の改竄と非常用メールの作成に取りかかった。
「・・あんたらも大変だな。さて、それじゃ約束通り馬鹿騒ぎしてる奴らに鎮静剤をくれてやるとするか。あとクロウ博士?そっちの端末もちゃんと直してやるから心配すんな。・・ん、恐らくあと数十分でここへ到着する」
「・・何が?」
「秘密だ。なに、今にわかるさ。・・ていうか、なかなか起きないなこの娘。ショック死してないだろうな」
「そしたら責任取れよグリーンカラー。・・・にしてもさぁ、わかんねえな。なぜお前みたいな何でもありの、存在自体が反則みたいな野郎が、わざわざ俺らの力を必要とするんだ?そもそも・・・本当に必要なのか?」
クロウ博士が冗談交じりに、しかし訝しげに視線を向ける。・・仰向けになって浮かんだ状態でソファの上の新人研究員を眺めつつ、ソロはまた欠伸をする。
「わかってねえなあ。その発想はお前――今まさにあんたらを悩ませてる阿呆共のそれだぜ。
力がありさえすれば、力を持たない者をゴミクズ同然に扱っていい。自分さえよければ何でもいい、ってな。俺がそんな奴に見えるかい」
「誤魔化すんじゃねえよ。お前達の本当の目的は一体――」