春から冬まで 1
其の参
「ねぇ、まだ?」
勢いよく襖を開ける。
「ちょ、ノックくらいしてよ!」
何かを隠したらしい清光は、どこか慌てた様子で振り返った。
「ノックもなにも、ここ、僕の部屋でもあるんだけど。」
隠したものには敢えてなにも言わず、いたって平然とした表情を装った。
「あとノックって、主から聞いた現世の言葉?」
「そうだよ。こぶしで扉を叩くんだ。」
自慢げに話す清光を見て、またモヤモヤした感情が心に溜まる。
「そのくらい、僕でも分かるから。」
何かに対抗するように、ボソッとつぶやく。
よく聞き取れなかったのか、清光が「えっ?」と聞き返すが、安定はそれを無視した。
「で、お店、行くんじゃないの?」
先ほどの店への誘いは、清光が「行く!」と即答。
それでずっと、安定は清光をまっていたのだ。
「あ、えーと・・・」
散らばっているものを片付けながら清光は声を発する。
「ん、出来た。じゃあ行こっか」
「んー」
部屋を出たとき、赤い『箱』が目に入った。綺麗好きな清光にしてはボロボロすぎる箱。きっと隠したのはこれだったのだろう。
(でもなんで箱なんて・・)
「安定まーだー?」
清光のよぶ声が聞こえる。
「今いくよ。」
そう、返答して、部屋を後にした。